医療の力で、生理はもっと楽になる。重い生理痛とPMSに苦しんだ私の10年間
歩けなくなるほどの生理痛、抑うつや体のむくみといったPMSの症状。生理にともなうそれらの症状に悩まされ、さまざまな治療やピルを試してきた!(ぴこん)さんが、その体験をつづります。末尾の医師コメントも併せてご覧ください。
■立っていられないほどの痛み。生理痛に苦しんだ中高時代
私に生理が来たのは、たしか小学校高学年の頃。女系家族であることも影響し、自分の身体に変化が始まる前からなんとなく、大人になるとお股から血が出るんだなぁとは知っていた。周りにもちらほら初潮を迎えた友達もいて、心の準備だけはしていたものの、いざ、自分にその「生理」というものが来たときは驚いたことを覚えている。
親から教えてもらっていた手順で、小さめのナプキンを手にとり、シールをはがして開き、中にあるナプキンを下着の内側に貼りつける。出血の量を見ながら、サイズを変える。「女性はみんなこうなるものだし」と思って、何を考えるでもなく、毎月のことを過ごしていた。
月一回めぐってくる生理にも慣れてきた頃、なんとなく、月を重ねるごとに身体が重くなっていく体感があった。月によって波があるものの、生理1日目から2日目にかけて、ベッドから起き上がれないようになった。
高校生になった頃には、通学中に倒れて医務室に運ばれたり、部活の途中で外で動けなくなったりと、日常生活にも支障を及ぼすほど、どんどんどんどん酷くなっていった。痛みは、チクチクと針を刺されるようなものから、ものすごく重たい石を体につけられながら、鈍器で殴られているような痛みまで、幅はあるものの、どの痛みも立っていられないくらい辛いものだった。
生理が来る前、保健の先生や親から生理の仕組みやナプキンのことは教えてもらっていても、生理痛のつらさについてはだれも教えてはくれなかった。
「人によって症状が変わります」
それくらいのもので、実際に辛い思いをしている人間はどうすれば改善するのか、どんなパターンがあるのか、具体的なことは一切わからなかった。
わからないまま過ごしていたから、毎月訪れる痛みに対する恐怖ばかりが募り、次第に生理前の精神状態にまで影響を及ぼすようになった。
■高校生、初めての婦人科へ
あまりにも生理中の体調が酷い私を見た母が、「学校が終わったら婦人科に行っておいで」と声を掛けてくれた。
婦人科は、妊娠中の人や治療をしている成人女性が行く場所とばかり思っていたので、制服で行ったら変な目で見られるかもな、と小さな不安もあった。しかし、そんな不安を生理の重さをどうにかしたい気持ちが上回って、その日のうちに病院に向かった。
初めて行った婦人科は、おじいちゃんの先生がいるところだった。男性に「生理が辛いです」と話すだけでも、思春期の女子にとってはハードルの高いもので、どう辛いとか、いつからなのかとか、あまり具体的なことは言えず、黙り込んでしまった。
先生は「とりあえず病気がないか診てみよう」と言い、分娩台のような、足を開いた体勢になる椅子に座り、エコーで子宮の様子を見せてくれた。「子宮内膜症もなくて、綺麗な子宮だね」と褒めてくれたことで少し安心し、先生のアドバイスのもと、生理痛がひどいときに飲む痛み止め薬を処方され、その日は終わった。
病気がないことは安心できたけど、冷たい器具で膣の中をかき回されたあのお腹の下がスーッと冷えるような感覚が気持ち悪くて、泣きながら帰った。
■抑うつ、罪悪感、イライラ。重いPMSの始まり
それからしばらく、生理が来るたびに婦人科で処方された薬を飲み続けてはいたけれど、痛みが改善することはなく、むしろ、精神状態が荒れていく感覚を覚えるようになった。
生理が始まる1週間前くらいから、気分が激しく落ち込むようになり、身体はむくんで、胸も張り、階段を上り下りする動きだけで痛みを感じる。夜になると涙が出てくるし、とにかくだるい。音に過敏になって、家にいても外から聞こえるサイレンが気になったり、子どもの声にイライラしたりする。手に持っていたものを滑らせて床に落としてしまっただけで、自分が嫌になる。
そんな負の感情にまみれたまま人と接して、相手に心配をかけて罪悪感で押し潰されそうになる。動悸が酷くて眠れず過呼吸を起こしながら疲れて意識を失う。このサイクルを、生理が始まるその日まで、自分の中で押し殺す。
これが一体なんなのか、漠然とした恐ろしさを覚えながらネットで調べて見ると、「PMS(月経前症候群)」に当たるものだとわかった。
自分が悩まされていた生理前の抑うつ状態が一体なんだったのか、それが名前のあるもので、医学的にも証明されているものだと知れて、少し楽になった気がした。自分が生きているこの時代にネットがあってよかったと、心底思った。
とは言え、自分がPMSを抱えているのだと理解はできても、別に症状が改善されるわけではない。私は、この症状が少しでも良くなるように動き始めた。
■効果は? 副作用は? 低用量ピルを試してみて
PMSについて調べていくと、意外にもピルが症状の抑制を担ってくれるということを知った。ピルと言えば、女性が避妊のために飲むものだと思っていたし、実際に今でもそういう認識を持っている人も多いと思う。
そう思っていたピルが、実は身体の負担を減らすための作用も持っていると知り、早速処方してもらうために婦人科へ向かった。
「生理が辛くて、PMSもひどいから、ピルを試してみたい」
それだけ伝えると、意外とあっさり処方してくれた。ピルの役割や、服用方法、副作用などの説明も受け、その日の夜から飲み始めた。
最初のピルは、低用量ピルの第一世代と呼ばれる「ルナベル」。
初めて飲み始めるときは、身体が慣れるまで太りやすくなったり、人によっては、吐き気やだるさなどの副作用が出ることもあると聞いてはいた。まさに私はその体質だったようで、飲み始めた次の日に酷い吐き気とだるさに襲われて、一日中身動きを取ることができなかった。服用はすぐにストップし、婦人科に相談に行くと、「稀にピルが体質的に合わない人がいて、多くはピルの種類を変えると改善する」とのことで、改めて別のピルを処方してもらった。
ふたつ目のピルは、第二世代と呼ばれる「トリキュラー」。
ひとつ目のピルのような副作用が怖くて、恐る恐る飲み始めたものの、これは吐き気もなく、ちょっと食欲が増したくらいだった。なんとなく、PMSも良くなっているような気もした。
しかし、半年ほど服用を続けてから、また徐々にPMSが悪化してきた。生理痛も鎮痛剤を飲めば歩けるようになるくらいで、改善したとは言い難い状態。ピルに特化した別の病院へ相談に行くと、試しに別のピルに変えてみようかと提案され、2度目のピル変え。
3つ目のピルは、第三世代と呼ばれる「ファボワール」。
これも副作用がほとんどなく、飲みやすい体感があった。しかし、しばらく飲んでも、一向に良くなる気配がない。PMSは相変わらず酷いし、ただ出血する日程を調整できるだけ(スケジュール管理はこれ以前のピルでもできた)の薬でしかない、という印象だった。
3つも試して何も変わらない状況にそろそろ耐えられなくなってきて、心も身体もボロボロ。引っ越した先の婦人科に涙ながらに駆け込み、今まで辛かったことや症状について話をしたところ、初めていった病院だったけれど、先生がとても親身に相談に乗ってくれた。いろいろな症例を話してくれて、PMSについての細かい説明もしてくれて、新しいピルを勧めてくれた。
4つ目のピルは、第四世代と呼ばれる「ヤーズフレックス」。
2020年2月現在、日本で処方されているピルの中で一番新しく、最大140日まで出血を抑えることができるというピル。生理が来るまでの期間を伸ばせるということは、比例してPMSが来るまでの期間も伸ばせるということでもある。
この頃の私は、PMSの辛さはもちろん、PMSの原因である「生理」というもの自体をどうしても受け入れられなくなっていた。月の半分はしんどい気持ちでいっぱいになっていた私にとっては、「生理を来なくさせる」という選択肢の存在は希望だった。生理が来ないなら、PMSも来ない。そんなことが叶うなんて思ってもみなかった私は、泣きながらピルを受けとり、病院を後にした。
そして現在に至る。
ヤーズフレックスに関してはまだ数シートしか服用していないけれど、PMSはほぼ感じない。胸の張りもないし、いつもの抑うつ感がない。
ただ、1シート目は、いつもの生理周期通りに出血したし(慣れていくと間隔も伸びていくらしい)、不正出血が続き、1週間以上ダラダラと少量の血は流れた。しかし、普段に比べると断然出血量は減り、ストレスも減った。同居しているパートナーも、見違えるほどの効果に感動していたほど。
PMSが緩和されたことで、逆に生理を予測しづらくなったのはあるけれど、それ以上に精神的に安定して生活できるようになったことを何よりもうれしく思う。今後も様子を見つつ、飲み続けていくつもりだ。
■医療に頼るという選択肢を知ってほしい
世間のピルに対する印象は、「避妊のため」というイメージが先行し、ヤリマンだとかビッチだとか自己管理能力が低いだとか、結構風当たりの強いものである。女家系である我が家でさえも、私がピルを飲み始めたという話をしたら、なぜ? という冷たい目を向けられた。
もちろん、理由をきちんと話せば理解してもらえることが多いけれど、いちいち会う人に説明していられないし、前提としてそんなイメージを付けさせた教育にも問題があるのではないかと、個人的に思っている。
自分がまだ保健の授業を受けていた数年前ですら、ピルはリスクが高いとか、避妊に使える「道具」として扱われていたのだから、社会で働く大人たちに正しい知識が浸透しているなんて思えない。
もちろん避妊方法のひとつとして使われていることも事実だし、そのために服用している人を否定するわけでもない。ただ、実際は、私が使用している目的でもあるPMSの改善、子宮内膜症の改善、生理周期を整える効果や、子宮を綺麗に維持する役割もある。そのほかにもいいことはたくさんある。
前述した通り、私は人より婦人科機能が敏感で、ピルを何度も変え、副作用の辛さを味わうことになった。けれど、人工的な力に頼ってでも、月に一度訪れる生理とうまくやっていくことができるのならその道を選ぶと決めたし、そう思えたのも、事実楽になっている自分がいるからだ。(私が稀なケースで、ここまでピルが合わないことはめったにないらしい)
ピルの服用に関しては、一長一短な部分もある。正直、勇気もいるし、お金もいるし、時間もいるし、体力もいる。でも、私のようにPMSや生理に悩まされている人がいるのなら、まず婦人科に相談に行ってみてほしい。何より、無知であることが自分を苦しめる。ピルという選択肢があることを知ってほしい。
私の体験が、少しでも誰かの背中を押すものになることを願って。
産婦人科医の言葉
けれど、元々避妊目的で開発されたピルが、現在では月経困難症の治療薬として保険診療の中で処方されるようになった現在でも、婦人科を受診しなければならないことへのためらいや、ホルモン剤を内服することへの不安などから、症状を我慢したり、他の方法を探したりという女性もまだ多くいらっしゃるかもしれません。またピルは、症状がないときにも内服を継続する必要がありますので、常用薬がない方にとっては、導入しにくい方法でもあると思います。
生理痛やPMS症状の原因は、 例えば子宮内膜症や子宮筋腫、 貧血など超音波検査や血液検査などで明確になる場合もあれば、はっきりとした原因はわからない場合もあります。そこが治療の難しいところではありますが、ひとつの考え方として「一般的に正しく、効果的であるとされる治療」をまず始めてみることが大切だと思います。
簡単なところでは、お腹を冷やさないようにするとか、痛み止めを内服するということなどもあげられますが、最小限の治療で効果が得られるのであれば、治療そのものがストレスになるような方法を選択する必要性はありません。
ピルは毎日決まった時間に内服しなければいけないという煩わしさもあるかもしれませんが、その効果には大きな期待ができます。使用を始めてみると、いつ月経が起きるかということも計算できるので、学業や仕事といったライフサイクルの中で、副次的なメリットも感じられるかもしれません。
医療者側も、一人ひとりの患者さんの症状をよく知るとともに、それぞれの方の生活背景や経済事情、治療を受け入れられるかどうかという心理的な部分についても理解を広げて、治療にあたることが大切だと考えます。
20歳。セックスを求めて三千里。セックスとツイッターに浸かりながら日々過ごしています。