二股をかけながら「本気になれる恋」をほしがった女性が失ったもの
「この人はちょっと合わないから、キープして別の男性とも楽しもう」。そんな気持ちで二股をかけていた女性ですが、どちらの男性に対しても誠意ある対応ができないのが「同時進行の恋」であり、結局どちらの男性ともいい関係は築けません。彼女が探していた「本気になれる恋」とはどんなものだったのか、また何を失ったのか、お話しします。
■「一対一で向き合うのはしんどい」から、別の人を求める
38歳のある女性は、結婚願望が薄く「ひとりで十分暮らしていけるだけの収入と家があるからそれで満足」と友人たちに話していました。
実際に、彼女は仕事が好きでストレスはなく、趣味のジム通いに時間を費やしたり同じく独身の仲間と旅行に出かけたり、シングルライフを楽しんでいます。結婚して夫や子どもたちとの生活を楽しんでいる友人に特別な嫉妬などを覚えることはなく、「こんな私でいい」とのびのびと生きている姿が魅力的でもありました。
そんな彼女ですが、「信頼できるパートナーがほしい」とはずっと口にしていました。結婚のような形にこだわらず、お互いに自立して交際を楽しめるような男性がいい、といつも言っていましたが、なかなか出会いはなく、またいざお付き合いの手前まで進んでも、「面倒くさくなって」相手の男性を振ってしまうような中途半端な恋ばかりでした。
「私の中で、恋愛の優先順位が低い」と彼女はため息をついて言ったことがあります。
「今ね、好きだなって思う人はいるんだけど、恋愛の価値観が合わないからモヤモヤすることが多くて、いまいち頑張る気持ちになれないんだよね。私が合わせていけばいいんだろうけど、それも面倒だし……」
歩み寄ることが面倒くさい。
それは、「この人にそこまで心のリソースを割けない」のが本音であって、恋愛に頑張る気持ちが薄い自分をよく理解していました。
その男性に好意は伝えているし、男性からも好きだと言われて「友達以上恋人未満」のような関係にはなっているけれど、きちんとした恋人関係になるのはためらってしまう。そんな状態です。
「どんなところが合わないの?」と尋ねると、
「あっちは連絡無精で私から連絡しないと会えないし、でも彼は不満がないみたいで。好きならもっとアピールしてほしいって言うんだけど、全然変わってくれないの」
と彼女は答えました。
好きな人とはまめにコミュニケーションをとっていろいろなことを共有したい彼女にとって、「雑談が苦手だからLINEもできないし、週末も私から連絡しないと会えないし、寂しさばかり」与えてくる彼は、彼氏にするには物足りなく、でも好意を捨てることもできないと彼女は悩んでいました。
そして、「一対一で向き合うからしんどいんだ」と思った彼女は、別の男性を“用意”することでバランスをとろうとします。
■二股であっても「傷つけていないなら大丈夫」
彼女には、この男性以外にも親しくしている年上の人がいて、その人とは体の関係もあり、いわゆる「セフレ」のようなつながりを続けていました。
「お互いにセックスがしたいときに気軽に連絡できるし、食事も楽しめるからいい相手よ」
と彼女は言っていました。
先に挙げた男性とは対象的に、日頃からLINEや電話をくれて会話ができ、週末も「もし時間あるなら、ランチでもどう?」と気軽に誘ってくれるので、彼女にとっては理想の彼氏に近い存在ではあります。
それでも本気で好きになれないのは、「連絡無精で恋愛感情を伝えてくれない」彼への恋心を諦めきれないから。彼に対する不満をこの男性との逢瀬で解消しているような“焦燥感”が、ふと垣間見えるときがありました。
「本気になれる恋がしたい」と思いながら、それがかなわない相手に好意を抱き、キープしながら別の男性とも関係を続ける。「二股じゃないの」と呆れて言うと「でも、どちらも傷つけていないから大丈夫でしょ」と肩をすくめる彼女は、ふたりの男性の間を行き交う自分を良しとしていました。
■あえて二股を伝えることの意味
彼女が別の男性と親しくしていると知った「連絡無精で恋愛感情を伝えてくれない」彼は、それがストレスであるような顔はしても彼女に「やめてくれ」とは言わず、「それでも俺と会ってくれるなら」と受け入れたそうです。
彼女が「どちらも傷つけていない」と言い切るのは、そんな彼の態度は好意を持っている相手に向けるものではない、つまり、「そこまで私のことが好きじゃないのだから、二股をかけても大丈夫でしょう」という一方的な思い込みからです。
「ねぇ、まともだと思う? 好きな女がほかの男とセックスしていても平気とか、頭がおかしいんじゃないかしら」
イライラとタバコに火をつけながら、吐き捨てるように言う彼女ですが、それなら彼はどうすればいいのか。
「じゃあ、『俺だけのものになってほしい』って言われたら満足なの?」
と尋ねると、
「好きならそう言うんじゃないの? 自分が歩み寄らないから私が別の男を選んでいるって、どうして考えないのかしら」
彼女は顔を歪めて答えました。
「……ねえ、逆の立場でさ、彼があなたと同じことをしたら、あなたはどう思うの?」
こう重ねて訊いたとき、彼女はハッと息を呑み、こちらを見ました。
「彼に合わせる心のリソースを割けないから、もうひとりの男の人とも仲良くやってバランスをとるって言ったよね? それなら、どうしてわざわざほかの男とセックスしてるって彼に伝える必要があるの? 黙って二股を楽しめばいいじゃない」
そう言うと、
「だって……あなたのせいなんだからって……」
彼女は視線を外し、落ち着かない様子でタバコを灰皿に押し付けました。
「彼は、どんな気持ちがしただろうね。好きな女性が、自分に不満があるからって別の男と寝て、それをわざわざ伝えてくるのって」
ぎゅっと潰された吸い殻を見ながら「どちらがおかしいのかしらね」と声には出さず思いを伝えると、彼女は灰皿から目を離さないまま無言で唇を噛みました。
二股をしているとあえて伝えるのは、リスクが高いだけで良い結果になることはまずありません。
恋愛感情を伝えてくれない彼に嫉妬してほしい、愛情をぶつけてほしいと願うなら、彼女が避けた「一対一で向き合う」ことから逃れられません。ネガティブな状況を押し付けられても、「相手がそれを良しとしているなら受け止めるしかない」と考える人も大勢いるのです。
別の人間をふたりの間に存在させることは、心が離れる一因にしかならないのですね。
■誠意のない姿が自らの愛情の価値を下げる
彼女は、結局この彼から遠ざけられ、疎遠になりました。
それでも「セフレの彼がいるから全然大丈夫よ」とうそぶいていた彼女ですが、その男性とも会う頻度は減り、今ではたまに連絡を取り合うだけといいます。
「本気になれる恋がしたい」と言っていた彼女は、自分の勝手を受け入れてくれる、都合のいい相手を求めていただけでした。一対一を割けて二股をかけることのおかしさも、それを本命の相手に伝えることの異常さも、どちらも失うまでは気が付きませんでした。
好きな男性が離れていって初めて、彼女はどれだけ彼を傷つけたか、誠意のない行動をしていたかを理解し、後悔しています。
そしてセフレ関係にある男性に対しても、「あて馬のようにそのときだけすり寄っていって」、本命の彼の態度次第で接し方が変わるような存在にしていたのだと、申し訳なさを感じているそうです。
彼女が失ったのは、ふたりの男性の信頼だけでなく、自分を価値あるものと大切にする心。
好きなのにおかしな関わり方しかできないのは、それだけ自分の心をないがしろにすることであり、自らの愛情の価値を下げることになります。痛みを避けて相手に変わってほしいと願っても、届かないばかりか「もう信じられない」と思われたら、それまで築いてきた信頼を手放され、愛情は二度と戻ることはありません。
自分の基準で「本気になれる恋」を探すのは大切ではありますが、そこに「相手を傷つけてもいい」を当然としていては、決して幸せな愛情は育たないでしょう。
恋愛はふたりでするものだからこそ、真摯に愛すること、心を開いて向き合うことの意味を、彼女はもう一度考えなければいけません。