「猫のいる、朝の日課」ただいまみいちゃん#2
文筆家・佐々木ののかと、イラストレーターのぱのが送るコミックエッセイ『ただいまみいちゃん』。猫のみいちゃんと、ひとりの女性によるささやかな日常をお楽しみください。
朝起きると、みいちゃんが待っている。
というよりも、朝はみいちゃんに起こされて目が覚める。私の枕もとに座り、ニャーだとかニャァアアだとか声色を変えながら、時々は顔を踏んづけて私を起こそうと試みる。
お腹が空いているのだなと思う。起きてあげなくちゃなと思うのだけど、木造築50年のボロアパートは寒く、なかなか起き出す気持ちになれない。「もうちょっと寝ようよ」とみいちゃんを撫でて寝かしつけ、もうひと眠りする。そうして起き出して、みいちゃんにご飯をあげ、トイレに行き、自分の朝ごはんの支度をする。
■食パンが大好きな猫
ひとり暮らしを始めてから、朝ごはんはパン派になった。
実家にいたときはご飯党だったけれど、お米を炊くのが面倒くさいし、おまけに食パンよりも糖質が高いこともあって、最近はもっぱら8枚切りの食パンとコーヒーが朝ごはんになっている。
祖母から譲り受けた30年以上前の赤いポップアップトースターに食パンを入れてスイッチを入れると、まだ自分のご飯を食べ終えていないみいちゃんが、人差し指ほどしかない短いしっぽをぶるぶるさせて、台所へとやってくる。猫がしっぽを立てて震わせるのは、うれしくて興奮している証拠だ。そのようすは何だかちょっぴり滑稽でとっても愛らしい。この瞬間を見るために、私は毎朝トーストを焼くのかもしれないと思うほどだ。とにかく、みいちゃんは、どういうわけか食パンが大好きなのだった。
食パンが焼けるまでうるんだ瞳でトースターを見つめ、私が焼けた食パンをひょいと持ち上げると、みいちゃんが駆けてくる。私の後を追うようにして走り、私よりも前にちゃぶ台の上におすわりする。私がちゃぶ台にトーストを置いて座ると、今度はひざの上に乗って、ちょうだいちょうだいと言わんばかりにわしゃわしゃと手を伸ばす。
わたしは「ダメだよ~」などと言いながら、手の届かない位置までパンを引き上げるのだが、みいちゃんも負けじと半立ちになる。かわいい! シャッターチャンス! と左手で食パンを高く引き上げたまま、動画を撮ろうとスマホに手を伸ばす。しかし、私が目を離した一瞬の隙をつき、みいちゃんに食パンをガブリとやられてしまった。
慌てた私がみいちゃんの口に指を突っ込もうとする。しかし、野生の勘は鋭い。私が指を突っ込もうとするのを察したみいちゃんは歯をイーッにして、絶対に口を開かない。そしてそのまま食パンを丸のみにしてしまった。
愕然とする私をよそに、みいちゃんは心なしかちょっと得意そうな顔をする。猫に食パンなんて食べさせないほうがいいのはわかっているし、憎たらしくもあるのだが、そのすまし顔がかわいくて、何だかすべて許してしまいたい気持ちになる。そして現に許している。私はみいちゃんに頬ずりし、みいちゃんは私に頬ずりをする。これにシャワーとお化粧と歯磨きを加えたものが、私の朝の日課だ。
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あと何回、こんな朝が過ごせるだろうと思う。できるだけ考えないようにしている。私にできるのは、ただ、訪れた朝を気だるくも迎え、みいちゃんと一緒に粛々と朝の日課をやることだけだ。
Comic・Illust/ぱの(@panoramango)