猫とクリスマス
コミックエッセイ『ただいまみいちゃん』では、ひとりの女性と1匹の猫のささやかな日常をお楽しみいただけます。第10話となる今回は、どこかフワフワと足が浮いてしまうクリスマスについて。猫と過ごすスペシャルな日常をご覧ください。
クリスマスが大好きだ。
イブの浮足立つ、どこにも足をつかせてもらえない高揚感も大好きだし、年末に差し掛かる直前の、何でもないけど少し特別なことをしても許されるような空気澄み渡るクリスマス当日も大好きだ。
クリスマスが好きだと言えるようになったのはここ数年のことで、それまでは気恥ずかしくてクリスマスが好きだと言うことができなかった。成人式や卒業式で美容室を予約して振袖を着付けてもらうようなこともそう。私はいいやと言いながらやっぱり急に着たくなって、卒業式1週間前になって取り急ぎ着付けてもらえる美容室を探す。いざ着てみると欲が出てきて、ネイルもしてもらえばよかった、髪やメイクもお願いすればよかったと後悔が残る。私にとってはクリスマスもずっと、そんな存在だった。逆説的なようだけど、クリスマスが好きだと言えるようになって、子どものようにクリスマスを楽しめるようになってから、またひとつ大人になれた気がする。
みいちゃんと暮らし始めてからもうすぐ2年になるけれど、家の前で出会ったのが1月だったので、クリスマスを一緒に過ごしたことはまだ一回しかない。クリスマス当日は予定がなくて、何をしようかといったときに、近所のコーヒーショップで豆を買って挽いて淹れ、近所のピザ屋で一番安いピザをテイクアウトして食べることにした。私があまりに浮足立っているのが伝わるのか、みいちゃんもすごくソワソワしている。予約の電話をして、ピザを取りに行こうとするとき、珍しく玄関までついてきた。逃げ出さないようにできるだけ身体を細くして外に出る。細くならないのだけど、気持ち的に。
ピザを買って帰ると、玄関でみいちゃんがお座りして待っていた。これも珍しい。みいちゃんは言葉がわからないのにいろいろなことが理解できているようですごいなと思う。言葉がなくてもわかり合えるなら、私もそのほうがいいな。ピザの匂いに鼻をふがふがさせて、まんまるの目をさらに見開くみいちゃんはハンター。おいしそうな匂いを放つ、空飛ぶ円盤を追いかけて走る。ちゃぶ台の上にピザの箱が入った袋を置くと果敢に飛び乗ってガサガサ、匂いを嗅いだり、箱で爪を研いだりして物色する。愛らしくていつまででも見ていられる。この風景を見るために毎日クリスマスをしてもいい。
台所でコーヒーの豆を挽いて淹れているうちに、ビニール袋のガサガサする音が聞こえなくなった。もう諦めちゃったのかなと思い、コーヒーカップを持って部屋に戻ると、ピザの箱の上に座っておしりを温めていた。すっかり悦に入って目を細めている。ピザはおいしいこたつだね。その後は、「よこせ」と騒ぐみいちゃんのクレームと戦いながらピザを頬張った。たのしい戦争。
今年はどんなクリスマスにしようかなとぼんやり考えている。だけど、たぶんまた、今年もピザを買うと思う。