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私たちは、お互いが人生の「担当編集」なんだと思う

インターネットで有名なあの人の、親友に会いにいく「にほん横顔ばなし」。SNSやブログなどでの発信からはたどり着くことのできない、親友だからこそ見えるその人の横顔を、編集者・太田尚樹が探っていきます。今回登場してくれたのは、クッキー屋さん「SAC about cookies」を運営しているあの人の親友・スイスイさんです。

私たちは、お互いが人生の「担当編集」なんだと思う



――今日のあの人:サクちゃん(桜林直子)さん
1978年生まれ 東京都出身。2002年に結婚、出産をし、ほどなく離婚してシングルマザーになる。洋菓子業界で12年の会社員を経て2011年に独立し「SAC about cookies」を開店する。現在は自店の運営のほか、店舗や企業のアドバイザーなども行なっている。noteにて「シングルマザーのクッキー屋の話」などを投稿している。娘のあーちん(現在16歳)は、2012年(9歳)より「ほぼ日刊イトイ新聞」にてマンガ、イラストで連載中。

――横顔を知る人:スイスイさん
1985年生まれ。名古屋出身。大手広告会社での営業を経て、コピーライター・CMプランナーに。cakesでメンヘラハッピーホーム連載中。

サクちゃんは「自己肯定感」をテーマに、よく言葉を発信しています。

それらは「頑張ろう!」とか「元気だして!」みたいな、傷ついた心の上っ面をなで回すものではなくて(そりゃそうか)、
「かつて自分も自己肯定感が低かった」と語るサクちゃんだからこその、重みと優しさがあります。

ただ、僕はいつまでも自己肯定感があがる目処のたたない人間で、「自己肯定感って、上がたとしてもちょっとくらいなんじゃないかなあ」と、本音では思っていました。

だからきっとサクちゃんだって、親友のスイスイさんにはいじけた自分とか、自虐的な自分みたいなものを見せているんじゃないかと、そう思っていたんです。

……でも、それがとんだ勘違いでした。

スイスイさんから聞くサクちゃんの話は、とにかく、抜群に、底抜けに、明るかった(笑)。

軽薄とか単純とかそういうことではなくて、明度と彩度がとにかく高い、希望に溢れた「横顔ばなし」。僕にとってはそのまま希望のような内容でした。

にほん横顔ばなし

左:スイスイさん/右:太田尚樹(本企画の聞き手)

今回スイスイさんとお邪魔したのは、渋谷の奥にひっそりと佇む喫茶店。

お店の中に流れていた静しっとりとした空気も、サクちゃんの「横顔ばなし」でカラッと明るくなったような気がします。



スイスイさん(以下、スイ):ちょっと最初にいいですか?

太田:なんですか、もちろんいいですよ…!

スイ:最近丁度友達に関するコラムを書いたところだからなんですけど、私、友達を「この人から“親友”」って分けるのが嫌いなんですね。

太田:ひゃ〜(笑)。

スイ:いや、今回の企画が意図することは分かるし、楽しみにしていたんですけど、「親友」って言葉はな〜って。「親友」って使うことで、どうでもいい人間関係に苦しんでる人、多いと思いません?

太田:どういうことですか……!

スイ:なんか「親友」がいる人って、本当はどうでもいい20人くらいを「友達」って名付けてしまうじゃないですか。そうしたら、その20人との余計な人間関係で悩むことになる。私は「友達」以外は「知人」もしくは「ザコ友達」って呼んでるんですけど。

太田:ザコ友達(笑)。

スイ:みんな「ザコ友達」との人間関係なんかで悩む必要ないのに…。だから私は親友レベルで仲いいと思ってる人しか「友達」と思ってなくて、サクちゃんは「親友」と呼ばず、「友達」にさせてほしいなって。

■サクちゃんは私にとってもはや「彼氏」

太田:僕「親友」使いがち部族なので、その話すごく納得しました……(笑)。なんか、言葉がいかに大事か実感するいい例ですね。じゃあ、サクちゃんは「友達」ということで。

スイ:そうですね……。でも正確には「彼氏」ですね……!

太田:ちゃうんかい。

スイ:すみません(笑)。もちろん「友達」なんですけどね。でもその中でも「彼氏」。サクちゃんは100%「彼氏」だな。友達ってある程度対等でいないといけないじゃないですか。向こうが何かやってくれたら、今度はこっちがお返しする、みたいに。

でも恋愛関係だと、お互いが頼りたい時に頼ることが自然だし、それ自体がうれしいから。サクちゃんとはそんな感じなんです。そういう意味で「彼氏」。

太田:あー、なるほど。

スイ:私、年に2、3回すごく悩むことがあるんですけど、そういう時はだいたいサクちゃんに「どうしよう、どうしよう」って20通くらいLINEを送って、悩みをサクちゃんが整理してくれる。サクちゃんは……、私がちょっと、頭が悪いからあんまり相談してこないですけど(笑)。だいたい私が混乱してます。

太田:頼もしいのも「彼氏っぽさ」ですね……!

スイ:そうそう! あとね、サクちゃん、本当によく褒めてくれるんですよ!

太田:ますます(笑)!

スイ:そうなんですよ! 最高! ちょっと、これ見てください。Facebookメッセンジャーで「えらい」「すごい」「さすが」って検索した結果でなんですけど……。

サクちゃんさんからスイスイさんに送られてきた「さすが」「すごい」「えらい」という言葉を含むメッセージの件数。

太田:(爆笑)

スイ:すごいでしょ⁉ すぐ褒めてくれるんですよ。「ケイクスの連載、続けてるだけですごい!」とか、「自分を律しててエライ!」とか。あと「わたし前髪切らなかったの。のばしてるのエライ!」とか、自分で自分を褒めた内容も送ってきてくれますよ。

太田:かわいい〜! ていうか、なんか、すごい明るい関係なんですね。サクちゃんって、ご本人はそんなこと言いませんけどすごく苦労されてきた方だし、心に翳りがあったりして、それをスイスイさんには見せるのかなあって勝手に想像していました。

スイ:あー、自己肯定感の低い部分をってことですよね。私、サクちゃんの自己肯定感が低いって思ったことないんですよ。

太田:え!

スイ:うん、全然ない。きっと昔は低かったんだと思いますけど、私から見るともはや跡形もないっていうか。今のサクちゃんは、なんでも「やればできる」っていう希望に満ちてると思いますよ。最近なんて、ある著名な方の本を読んで自分と絶対気が合うと確信したらしく、「私、この人と友達になりたい!」ばっかり言ってますからね。あれはなれると信じてる人間の顔ですよ。

■サクちゃんのすごさは「素直さ」。そのせいか、年々かわいい。

太田:有名人と友だちになりたいとか、大人になるとなかなか言い出さないですもんね(笑)。

スイ:そうですよね。でもサクちゃんは「有名人に会いたい」というより、「気が合う人なら話してみたい」って思ってるんだと思いますけど。サクちゃんは本当に純粋だし、素直なんですよ。

太田:素直、ですか。

スイ:そう。4年前に初めてお茶したんですけど、その時とか素直さが爆発してたのか、半端なくガツガツしてて。ある日、全然仲良くもなかったサクちゃんから、私が出るイベントを観に行くっていう連絡が来て「その後ふたりでお茶したい」って言われたんですね。私、そういうの結構どん引きするタイプなんです。

太田:(笑)。

スイ:「え、どうして〜?」と思って。でもタイミングがよかったのもあったし、お茶することになって、そうしたらビックリしたんですよ。サクちゃんがまるで「自分が何者か知りたい大学生」みたいで。「自分は何ができるのか、何がしたいのか考えたい、知りたい」って熱く話してくれて、いろいろ議論しました。

そこから月1くらいのペースで「スイスイのインスタの投稿見たけど、私はこう思った」みたいなメールが送られてくるようになって(笑)。けど、なんかそれが嫌じゃなかったんです。ただ「仲良くなりたい」だけだったら引いたと思うんですけど、そこは私も議論好きだから、連絡が来たら返事するようになった、当時はまだ敬語混じりで。

太田:それが「彼氏」までになったんですね。サクちゃんその時期、何か転機みたいなものがあったのかな……。

スイ:うーん、どうだろう。きっとサクちゃん、子育てとかいろんなことから自由になってきた時期で「ここから」っていうエネルギーがすごかったんだと思います。あの時期多分いろんな人に会ってて、素直に考えていることを話して、聞いて、そこからコツコツ自分を磨いて、今じゃあんなにキラキラして……、なんか年々若返ってますよね。だってサクちゃん、あんなに可愛くなかったしな……!

太田:何てこと言うんですか(笑)。

スイ:いや、絶対、今が一番かわいいもん! 昔は「アラフォーにさしかかったオバサン」って感じだったのに!

太田:「アラフォーにさしかかったオバサン」て(爆笑)。でも真面目な話、その素直さがサクちゃんをイキイキさせたのかもしれないですよね。人生に「遅い」なんてないんだな〜。

スイ:そう思います。サクちゃんは7つも年下の私の話も真剣に聞くし、アドバイスを受けたらちゃんと試すんです。私一回「この人とデートしてみて」って男性を紹介したことがあるんですけど、その時もすぐデートに行って。結局ふたりは友達になったんですけど、今もすごく仲よしなんですよ。サクちゃんは本当に人に好かれますね。

noteだって最初の頃は「何を書けばいいのか分からない、面白い気がしない」って言ってたのに、とにかく書いていたし。それで「おもしろいよ」って言われたら「こういうのを書けばいいんだ、わーい!」って純粋な子どもみたいに吸収して、たくさん書くようになったんです。今じゃ年間200本くらい書いてますからね。

ていうか今思いましたけど、「わーい」ってサクちゃんの口癖ですね。あれはあの人、あえて言ってるんだろうな。

太田:あ〜……、うれしいことをちゃんと喜ぼうっていう工夫なのかな。素直さを保つおまじないみたいな。



――今日のあの人:サクちゃん(桜林直子)さん
1978年生まれ 東京都出身。2002年に結婚、出産をし、ほどなく離婚してシングルマザーになる。洋菓子業界で12年の会社員を経て2011年に独立し「SAC about cookies」を開店する。現在は自店の運営のほか、店舗や企業のアドバイザーなども行なっている。noteにて「シングルマザーのクッキー屋の話」などを投稿している。娘のあーちん(現在16歳)は、2012年(9歳)より「ほぼ日刊イトイ新聞」にてマンガ、イラストで連載中。

――横顔を知る人:スイスイさん
1985年生まれ。名古屋出身。大手広告会社での営業を経て、コピーライター・CMプランナーに。cakesでメンヘラハッピーホーム連載中。

■「メンヘラ席」には、いつも私が座ってる

太田:サクちゃんって、「わーい」もそうですけど、「人の半分の時間で2倍稼ぐと決めて、クッキー屋を選んだ」とか、生活の工夫の達人じゃないですか。いつでも人生を管理できているというか。

スイ:うんうん。

太田:さっき「頼り合うことが嬉しい関係」っていうお話がありましたけど、「相談」はあまりしてこないとして、サクちゃんはどんな風に頼ってくるんですか?

スイ:どんな風に、か。そうですね……。

太田:はい。

スイ:……え、ごめん、どうしよう。考えてみたら、サクちゃん、別に私から何ももらってないかもしれない(笑)。ただ一緒にいて楽しいだけかも!

太田:(笑)。でもそれって素晴らしいじゃないですか!

スイ:さくちゃんこの記事読んで何て言うんだろうな……! なんかサクちゃんって、全然メンヘラじゃないんですよ。メンヘラってざっくり言うと「依存する人」のことだと思うんですけど。サクちゃんは誰かに強く依存したりしない……。

太田:そうなんだ。

スイ:……と思う。

太田:どうしました……?

スイ:え、でも待って、それも私が一席しかない「メンヘラ席」にいつも先に座るからなのかな。

太田:「メンヘラ席」(笑)。

スイ:メンヘラの席って、場にひとつしか用意されないじゃないですか。誰かがそこに座ったら、周りはメンヘラじゃいられない。サクちゃん、いつも混乱してる私を前に、しっかり者を演じてくれているだけなのかも……。どうしよう、自信なくなってきた(笑)。本当はもっと頼りたいのかも。

■お互いが「人生の担当編集」

太田:でも、今回スイスイさんを指名したのはサクちゃんですから。きっと一番頼りにしてるんじゃないかな。

スイ:そうなのかな……。

太田:サクちゃん、早くにママになったし、実業家でもあるし、ひたすら道を切り開いてきた人だから、「自分の物語の書き手は自分しかいない」って誰よりよく分かってるんだろうなって想像します。

スイ:そうですね、それはあると思います。いつもサクちゃんがするのは「意見交換」までで、自分の物語の答えを誰かにまるっきりゆだねたりはしないと思う。どれだけ不安になることがあっても、まず必ず自分の答えを用意してる。自分で解決する癖がついてる人だから。それからじゃないと「スイスイどう思う?」とは聞いてこないです。

だからなんか、私がやれるのは、サクちゃんの「担当編集」までって感じですよね。人生の担当編集というか。……あ、なんかすごいパワーワード出た感ある(笑)。

太田:(笑)

スイ:私にとってもそうだし、お互いが人生の担当編集なんだと思います。人生をハッピーエンドで終えるべくお互いを編集してる。

私は、自分でしっかりプランを考えてくるサクちゃんに「ここが矛盾してない?」とか「それってどういうこと?」ってつっこむ編集だし、サクちゃんは、すぐ混乱する私のプラン作りから一緒にやってくれる。そう思うと、ちゃんとサクちゃんの役にも立ててるかも(笑)。

スイスイさんに最後、「改めてサクちゃんに伝えたいことはありますか?」と聞いてみましたが、「伝えたいことは思った瞬間に伝えてるから、ないです!」と即答。

思わず「最高かよ」とつっこんでしまいました。

たしか映画『私は、ダニエル・ブレイク』の中で出てきた言葉ですが、「友達とは、追い風だ」と言います。

たとえ悪口にハマる日や、不安や不満を言い合う日があったとしても、友達の役割は相手の背中を正しく押すこと。

今回のお話を聞いて、そんなことを思いました。

スイスイさんとサクちゃんの風神ふたりは、これからも風合戦をビュンビュン続けて、きっとどこまでも飛んでいくんだと思います。

僕もおふたりの風を借りて、気持ちが軽くなりました。
今度はおふたりのお茶にまぜてもらいたいなあ(もっと風、感じたいので)。

Photo/飯本貴子
取材協力/名曲喫茶ライオン

太田尚樹

編集者・ライター。LGBTエンタメサイト「やる気あり美」編集長。ソトコトにて「ゲイの僕にも、星はキレイで、肉はウマイ。」を連載中。人の気持ちに一番興味があります。

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