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親友が知る「りょかち」の横顔【にほん横顔ばなし】

インターネットで有名なあの人の、親友に会いにいく「にほん横顔ばなし」。SNSやブログなどでの発信からはたどり着くことのできない、親友だからこそ見えるその人の横顔を、編集者・太田尚樹が探っていきます。第一回目に登場してくれたのは、「自撮ラー」として名を馳せたあの人の親友・山東初穂さん。

親友が知る「りょかち」の横顔【にほん横顔ばなし】



——今日のあの人:りょかち さん
1992年生まれ。京都府出身。学生時代より、「自撮ラー」を名乗り、話題になる。現在では、自撮りのみならず、若者やインターネット文化について幅広く執筆。著書に『インカメ越しのネット世界』(幻冬舎刊)。その他、朝日新聞、幻冬舎、宣伝会議(アドタイ)などで連載。(Twitter:@ryokachii)

——横顔を知る人:山東初穂 さん
りょかちさんの大学時代の親友。金融会社を経て、現在はIT会社勤務。


りょかちさんは、その活躍具合に似合わず、まだ社会人3年目。

僕は彼女の書く「エモい考察記事」のファンとしてブログなどをよく見ているのですが、過去記事をさかのぼると、そこには「よくいる普通の女子大生」と言ってしまってもいいような、希望に溢れ、インターネットを楽しむひとりの大学生だった頃の彼女の姿があります。

かつては自分のことを「非リア」とか「コミュ障」と少しばかり自嘲的に語っていた彼女は、たった3年で、「インフルエンサー」という、ある種の「リア充」そして「次世代コミュニケーション論者」にまで上り詰めました。

どれだけ景色がめまぐるしく変わっても、人間の本質はすぐには変わらない、と僕は思います。だから、この数年間は彼女にとってすごく大変だったんじゃないか――と勝手に想像しました。
 
変化のスピードに蹴落とされないよう、負けじと必死に走ってきた彼女のタフさはどこからくるのでしょうか。ネットに広がる彼女のキラキラの奥に、どんなクタクタや、メラメラや、ワクワクがあったのか。

その答えを、りょかちさんの親友、山東初穂さんが見て来た彼女の横顔から、探っていきたいと思います。

山東さんは物腰の柔らかい、けど関西人らしいとてもチャーミングな方。ふたりは、大学のサークルで1年生の時に出会ったそうです。

果たしてどんな学生生活だったのか、まずはそこから伺いたいと思います。

ちなみに……!

「りょかちさん」なんて言ってきましたが、彼女は僕の大学の後輩(なんと!)。
紹介してもらった山東さんはゼミの後輩というミラクルが発生し(なな…なんと!)、
とても和やかにスタートすることができました。

写真右:りょかちさんの親友・山東初穂さん。写真左:本企画の聞き手・太田尚樹さん。

■りょかちは「ネットの人」というよりも……

――学生生活、ふたりのことなら、刺激的だったんじゃない?

 そんなそんな、全然ですよ。むしろ、いわゆる「ごく普通の学生生活」だったんじゃないかな。私とりょかち、あとふたりの女の子4人組で仲が良かったんですけど、よくやったのは恋愛ドラマの鑑賞会とか、旅行ですし。銀行のインターンシップも一緒に行きましたね。りょかちが銀行って、なんか今じゃ考えられないですけど。みんな真面目な方だったとも思うし、よくいる大学生だったと思います。

――へ〜!りょかちと言えば「ネットの人」というイメージだから、なんかアナログというか、意外だね。

 そうかもしれないですね。りょかち自身はずっとネットが好きだったみたいですけど。でも、みんな「りょかちってどんな人?」と聞かれたら、「ネットの人」とか「若者カルチャーの人」とかは言わないと思います。あの子はなんていうか……、「楽しむ人」なんです。

――楽しむ人?

 はい。ごく普通のことを、普通のままにしないというか、スペシャルにできるというか……。日常の出来事を、何でも企画にして楽しむし、楽しませてくれるんです。遊び上手とも言えるかもしれませんね。

 たとえば、料理を作って映画でも観よう、となったら「美味しいムービーNIGHT」って名前をつけて、料理と映画のコンセプトを決めてくれたり。「一緒にダイエットしたいね!」となった時も、「プロジェクト名はこうしよう!」と提案してくれたり。楽しむことがとても上手なんです。……なんか、こんな話するの、恥ずかしいですね(笑)。

――いや、めっちゃかわいい話(笑)!  素敵だね。じゃあ、りょかちの専門は「ネット」や「若者カルチャー」だけど、根底には「日常を楽しむ」という価値観があると。「ネット」も日常のひとつなのかな。

 そうだと思います。私はやっぱり何でも楽しもうとする所が、りょかちの一番のらしさなのかなって思います。

 最近も大学の同期の結婚式用に余興ムービーを作ったんですけど、りょかち、あんなに忙しくしているのに、ずっと楽しそうにプランニングしていましたから。

 「◯◯を泣かせるムービー2018」と題した、進行管理のスプレッドシートを作ってくれて(笑)、ディズニーランドまで必要な動画を撮りに行ったり。

――いちいちタイトル決めるんだね(笑)。

 そうなんです(笑)。多分りょかちって言葉から企画を考える人で、これまで色んな企画名みたいなものを私に送ってくれましたけど、毎度私はそれを見て楽しい気持ちになるんです。ふふふって、気持ちが軽くなる。

――「言葉の人」でもあるんだね。

 そうですね。出会った時からそうでしたから。「出版社に入って、言葉を届ける人になりたい」とずっと言っていましたし、それは今に至るまでぶれたことがないんです。

 出版社への就職は、就職浪人をする決断までして、長期インターンのためにわざわざ東京にも出て、それでも最後は別の道を歩むと決断したんですけど。

その時もりょかちは、清々しい顔をしていたんです。ネットでも言葉は届けられるからって。私IT会社に行くよって。未練みたいなものは全く感じなかった。その日は年末の寒い日だったんですけど、ご飯を食べながらでふたりで話しました。

 私はその時、社会人1年目で、先に社会人になったはずだけど、やっぱりりょかちはかっこいいなぁって、私も頑張ろうって、背中を押されたんです。りょかちは、どんな時も覚悟してやりきる人で、その姿勢に何度も勇気をもらってきました。

――「覚悟」ですか。

 はい。りょかち、性格は控え目なんですよ。実際に会うとふわっとした印象の子ですし、それこそ「意識が高い」なんて相手に感じさせない子なんです。でも「これをやりたい」と思ったことは、ひとりで努力して、弱音を吐かずに最後までやり遂げるんですよね。そういう強さが、彼女にはあると思います。

■一緒にいる時は、「0映え写真」ばかり撮ってる

――なるほど。僕は彼女の記事を読んでいて、よく「自信」を感じるんだけど、それは覚悟してきた分だけ身に付いてきたのかもしれないね。闘いぬいた人の自信には、傲慢さがないし、彼女の自信は爽やかだなって思う。……すごくセンシティブなことを聞くんだけど、そんな、ある意味で“すごみのある人”といて、劣等感は感じないの?


 あー、劣等感ですか……。うーん、たしかに感じてもおかしくないですよね。これだけ近くにいるんですし。でも……、それは全くないですね。私たちは闘う相手じゃないですから。りょかちは私にとって、いつも温かい言葉で、態度で、励ましてくれる人で、私があの子にいだくのは感謝とか、愛情とか、そういう感情で、劣等感ではないです。

――……感動で言葉がでない……(笑)

笑ってるじゃないですか(笑)!

――いや、本当に感動してる! 「こいつロクデモねえな!」って思うこととかないの?

 ロクデモない、ですか? でも、たしかに褒めてばっかりじゃやらせみたいですよね……。ただ、りょかちのダメだなって所は、あんまり思いつかないんです。

 もちろん私といる時はグダグダしたり、つまらない話もしますよ。というか、そっちの方が断然多い。写真なんて自撮りよりも、4人のありきたりな集合写真とか、全くインスタ映えしない「0映え写真」ばかり撮っていますし。

———0映え写真(笑)。オフでは自撮りは封印なんだ!

 自撮りをする時もあります。ただ、そういう時は、やっぱり笑っちゃいますね(笑)。「これはアップ用に……」となると急に「自撮ラーりょかち」になるんですよ。その時は「りょかちプロ出てきた!!」ってみんなで囃し立てます(笑)。

――控えめだった女の子が「自撮りのりょかちプロ」になるなんてね!

 本当、そうですよね。最初はすごく驚きました。ずっと「出版社に行って、編集者になりたい」と言っていたので、企画を考える人にはなるだろうなとは思っていましたけど、自分が著者になって、それだけじゃなく、自分のこともコンテンツにするだなんて思ってもみなかったです。

 りょかちは自分をどう見せるかよりも、常に等身大の自分を大事にする人なんですよね。だから自分をコンテンツ化して、見せ方を考えなくちゃいけない毎日なのは、気苦労も多いだろうと思います。そこは心配になっちゃいますね。

大学時代の友人4人で初めて行ったサイパンへの海外旅行で撮影した写真。

■私といる時は、「りょかち」じゃなくて「松田涼花」でいられるように

――親友からして、りょかちの文章に、そういう気負いを感じることはある?

 どうだろう……。それはないかもしれないですね。りょかちの文章は、いつもりょかちらしいなって思います。「無理しているな」と感じたことはないです。自分の言葉で、自分の思うままに書いていると思います。

 最近は女の子に向けて書くことが増えていますけど、あれもりょかちが社会に出て、女性ならではの苦しみとか葛藤を経験したから書けるんだろうなって思うし、すごくりょかちらしい。

 少し前にバズってた「人生のTBDを一刻も早くFIXさせたいおんなたち」とか、すごく良かったです。大学の同期の女の子たちの間で「今回のハンパないね……!」って騒いじゃいました。

 りょかち自身は、自分の文章のことを「ありのまま自分の考えを書いているだけ」と思っていて、特段才能があるとは思っていないみたいですけど、その等身大の言葉に救われている人はたくさんいるんだよ! って伝えたいです。

———山東さんもそのひとりなんだね。

 そうですね。私、一時期仕事がうまくいかなかった時に、自分はこれでいいんだっけ、こんなことがしたかったんだっけって、毎日悩んでいたことがあったんです。

 そんな時にりょかちが「初穂は日常の小さなキラキラを見つけるのが上手だよね」って言ってくれて、ああ今の生活だって十分自分らしいのかもしれないって、素敵と言っていいのかもしれないって思えたんですよ。

 私は料理が好きで、お気に入りの器を集めたり、そんなことをしているだけだったんですけど……、そういう自分をりょかちが素敵だって言ってくれて、少し気持ちが軽くなりました。

 だけど、その時一番に思ったのは「りょかちの方こそそうでしょ?」ってことなんですよ。りょかちにこれまでどれだけキラキラを見つけて、楽しませてもらってきたか分かりません。

 私たちは結局似ているのかもしれませんね。私も彼女みたいに、日々の輝きを見逃さない、丁寧に日常を見つめられる人でありたいです。

――りょかちに今伝えたいことはある?

 なんでしょう……。普通ですけど、やっぱり「無理しないでね」かな……。

 りょかちはメディア露出も年々増えてきていて、きっとつらいことも多いと思うんです。

 でも私は表にたつ仕事はしていないから、きっとそのつらさを完璧には分かってあげられない。だから「大変だよね」とか「無理しないでね」としか言えないことも多くて、それは悔しいし、つらいなって思うこともあります。

 でも、だからせめて、私といる時は、自撮ラーの「りょかち」じゃなくて、「松田涼花」でいれるよう、これからも一緒にくだらないことをしたり、旅行に行ったりしたいです。無理せず、楽しくやってほしいです。

***

 タフなりょかちさんの横顔話は、どこにでもいる女の子ふたりが支え合う友情のお話に。

 彼女の「ネット考察」や「若者カルチャー考察」が、「考察」という言葉が似合わないほど、いつもやさしい湿り気を含んでいるのは、ネットや若者の観察者である以前に、どこにでもいる普通の女の子として生活し、その中でインターネットを楽しみ、愛しているからなのだろうな、と今回感じました。 

 それにしても、こんなにもベタ褒めの取材になると思わなかった……! 僕もりょかちに会いたくなりました。

取材・Text/太田尚樹
Photo/飯本貴子

太田尚樹

編集者・ライター。LGBTエンタメサイト「やる気あり美」編集長。ソトコトにて「ゲイの僕にも、星はキレイで、肉はウマイ。」を連載中。人の気持ちに一番興味があります。

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