鏡のなかの自分の顔をまじまじと見ると、その年なりの顔になったなあと思います。でも、それはそれでちょっと嬉しいこと。
48歳になったいま、体力的なことで、年をとる大変さを感じることはありますが、「年をとるのが嫌だ」と思ったことはありません。
時間は、皆に平等に過ぎていきますし、若いことが偉いわけじゃない。むしろ、若いことは苦しいことだと思っています。
(16ページより引用)
石田ゆり子さん流、美しく健やかな生き方【積読を崩す夜 #19】
【積読を崩す夜】19回目では、『Lily ――日々のカケラ――』をご紹介します。ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」出演以降、再ブレイクともいわれている女優の石田ゆり子さん。日々、大切にしているささやかで美しい事柄が、正直な言葉で綴られている1冊です。
■日々のカケラを愛おしみながら暮らす
積んであるあの本が、私を待っている……。少し早く帰れそうな夜、DRESS世代に、じっくりと読み進めてほしい本をご紹介する連載【積読を崩す夜】。
19回目は、『Lily ――日々のカケラ――』(著:石田ゆり子)を取り上げます。
日常の中にある、あたりまえでささやかなことを、大切に積み重ねている生活。その中に散りばめられた哲学や美学。21編のエッセイとロングインタビューの中から、美しく清廉に生きるヒントをご紹介します。
■「その年らしい顔」になるのが嬉しい
著者の石田ゆり子さんといえば、ナチュラルなかわいらしさと芯の強さが、演技の中でも垣間見られて、あらゆる世代から注目を集めています。
デビューは15歳ですから、それから33年の年月が経っているということ。DRESSの読者世代からすると、少し先を走る先輩ですが、このような生き方や年の重ね方を見ていると、変化しながら美しくあり続けることへ希望を感じます。
その年なりの顔……経験や感じたことは如実に顔に出るものです。まして、女性は体の変化も、人生としっかりリンクしています。
著者にとって、20代は辛かったといいます。辛いというよりも、ずっと悩んでいたのだとか。
大人になった今にして思うことは、「若さ」とは、周囲のためにあるのではないかということ。若い当人は無我夢中で苦しいけれど、たくさんの可能性を秘めた若者の姿に、周囲は美しさを感じ、活力をもらうのだと。
若者は、辛く苦しいからこそ、美しい。ラクで美しいものはないのだと著者はいいます。大人も同様に、ただ安穏と暮らしていてはいけない。
周囲に甘んじない生き方をしている人は、美しい年の重ね方をしていくのでしょう。
■いちばん好きな場所は家
家とは、「巣」のようなものだと思うのです。ぬくぬくと幸せな、疲れを癒す場所。
自分らしくくつろげて、幸せな気持ちになる場所。そして明日もまた元気な顔で仕事に出ていける場所。わたしが家に求めることはそれだけなのです(中略)
うちには華美なものは何もないけれど、どこもかしこもわたし自身、になってしまった空間が愛おしくてしかたがないのです。
(32・33ページより引用)
著者のインスタグラムを見ていると、ナチュラルで上質、そしてあたたかいものにあふれた家であることがわかります。
ともに暮らす犬の雪、兄弟猫のハニオとタビとの生活は、もはや親心そのものです。
家には人格のようなものが必ず備わっていて、暮らし始めたときには、どこかよそよそしさや緊張感があるのだとか。空間をなじませるためには時間が必要で、それは人間関係にも近しいものであると著者はいいます。
好きな本と好きな飲み物、クッションを抱えて部屋中のあちこちに座ったりしてみる。すると、あるとき、ふっと部屋が心を開いてくれるのだとか。
意外なことに、花を買うときには、束では買わないようです。たくさん買いたいところをぐっと我慢して、一輪だけ選ぶのがゆり子さん流ルール。大輪のラナンキュラスの蕾が、徐々に開いていく様子をゆっくりと観察しながら、至福の数日間を過ごす。
いちばん好きな場所は家。好きな場所にする工夫と愛情が、いっぱいに込められているようです。
■美しさは健やかさから
わたしが美しいと感じるのは、素敵な表情をしている人です。表情には心の状態が表れますから、結局は健康で幸せであることが美しさにつながるのだと思います。
幸せの基準は人それぞれ。たとえ大変なことがあったとしても、「自分は幸せだ」と思っている人はやはりきれいです。わたし自身も心もからだも健やかにあることを心がけています。
(72ページより引用)
著者の美しさは、見ている側からすると、少し独特のものを感じます。決して若作りしているわけではない、力が抜けて凛とした透明感。
当たり前のことですが、からだは食べたものでできているから、毎日の食事を大切にしているのだと著者はいいます。
さらに、毎朝、鏡を見て自分の状態をチェックしているのだとか。両手指の腹の部分で顔の皮膚を額から頬、あごと優しく触ってみる。指を緻密なセンサーに見立てて、弾力や乾燥具合など日々の小さな変化を見逃さない。その原因を探ります。
「動物性たんぱく質を摂っていないな」「睡眠が足りていないな」となどと、からだの声を聞きながら調整しているのだと。
疲れやすくなったり、食べものがおいしく感じられなくなったり、人の欠点ばかり目につくときには、自律神経の乱れが起きていることだと著者はいいます。
からだのせいだから、考え込んでいても仕方がない。自律神経を整えるには、適度な運動。ピラティスや鍼、白湯を飲む習慣など。自律神経とは上手に付き合っていくしかない、ということなのですね。
素直に体の変化を受け入れて、受け止めて。素敵な表情や美しさは、健やかさから始まっている。そのポイントが、ほんの少しわかったような気がします。
『Lily ――日々のカケラ――』書籍情報
著者 石田ゆり子さんプロフィール
1969年10月3日生まれ。東京都出身。女優。
88年、NHKドラマ『海の群生』にてデビュー。
主な主演作は、映画『サヨナライツカ』『悼む人』
ドラマ『不機嫌な果実』『Dr.コトー診療所』『逃げるは恥だが役に立つ』など。
映画『もののけ姫』『コクリコ坂から』など、スタジオジブリ作品では声優も務める。