パステルカラーな音楽絵本『山本容子のジャズ絵本 Jazzing』に癒やされて……
3月は出会いと別れの季節。陽射しの温もりにほっとしながら、どこかで憂鬱を感じることはありませんか。変化の春を目前にして気が滅入るときは、ヴィヴィッドカラーの明るさより、パステルカラーの穏やかさが心を癒してくれます。パステルカラーの絵と言葉、CDが付いた『山本容子のジャズ絵本 Jazzing』は自分用にもプレゼントにも◎
■春の憂鬱
気づけば3月。最高気温はあまり変わらないのに、昨日までの服装がどこか野暮ったく見えるのは、明るい陽射しのせいでしょうか。
いつまでもぬくぬくと重いコートにくるまっていないで、新しい季節を迎える準備をしなければ……。
■パステルカラーが落ち着く春
でも、なんとなく億劫。というわけで、気分転換で久しぶりに海を見に出かけました。
青が冴えわたる真冬の海に比べると、春先は海の色も少し白を落としたような優しい色合いです。
3月は、空も花も街の緑も空気さえも色味が柔らかくなります。すべてがパステルカラー。
本格的な春を迎えるまえのメローでアンニュイな気分のときは、そういう色合いのほうがむしろ落ち着きます。
たまたま立ち寄った海のそばのカフェで素敵な本を見つけました。
■『山本容子のジャズ絵本 Jazzing』
山本容子と言えばだれもが知っている女流銅版画家。ちなみに、わたしは、吉本ばななを愛読していた若かりし頃、山本周五郎賞受賞作『TSUGUMI』の表紙でその名を初めて知りました。
透明感のあるストーリーに彩り豊かな表紙画。とても印象に残っています。
たしかに、山本容子の作品は、どれも構図が独特でカラフルなのに、落ち着いた色使いが印象的、洗練されていながら遊び心も感じさせ、美しくも茶目っ気のあるご本人の佇まいと重なります。
『山本容子のジャズ絵本』はまさにタイトルに偽りなし。山本容子本人が、20世紀に生まれたさまざまなジャンルの曲を絵と言葉で紹介しています。
「雨に唄えば」「ニューヨーク・ニューヨ―ク」「モナ・リザ」「星に願いを」などなど、名曲揃いの全24曲。しかも、人気銅版画家がそれぞれの曲をイメージして描いた絵が1冊にまとめられているのですから、それだけでもかなり贅沢。
■観てよし
音楽という時間の流れのあるものを、彼女ならではのイマジネーションで、1枚の紙のなかに見事に描き切っていて、作品集としても見応えじゅうぶん。歌詞や音符まで絵の小道具にしてしまうところがなんとも洒落ています。
彼女が表現している曲の世界観は、自分がその曲に対して漠然と思い描いていたイメージとは違っていたり、でも、どこか重なっていたり。
どの絵にも大胆さと繊細さ、哀愁と洒落っ気、それになんとも言えない温かみがあります。そして、もちろん、色使いの美しさ。不思議な心地よさを感じます。これぞまさしくパステルカラー・マジック。
■読んでよし
絵に添えられている文章も、いちいち気が利いています。長すぎず、短すぎず。曲にまつわる豆知識やエピソードに触れながら、作家本人の人生観をすこしばかり織り交ぜて……。
でも、スパイスはほんのちょっぴりだけ。その匙加減が大切。なにごともスパイスの利かせすぎは禁物です。
ところで、この本のタイトルには「ジャズ」という言葉が入っています。その理由は本を手にするとわかります。紹介されている全24曲のジャズ・ナンバーを納めたCDがもれなく付いてくるのですから――。
■聴いてよし
CDのプロデュースを担当したのは作曲家の谷川賢作。この本のためだけのオリジナル版とあって、曲ごとのアレンジが絵の世界観にぴたりとはまっています。
山本容子本人いわく、「CDを流しながら、目で絵を追いかけると、絵がメロディに乗って動くように見えてくる」……まさしく。
本を購入後、家ではずっとこのCDを流し、時間を見つけては本を眺めています。目覚めに優しく、就寝前には心を落ち着けてくれる。春先の憂鬱な心を、パステルカラーのスカーフのようにそっと包んでくれる逸品。
■持ってよし、贈ってよし
CD付きで2800円(税別)という価格もとても優しい。手元に置くのもよし、とっておきの友達へプレゼントするのもよし。
配信される音楽をイヤホンで聴くことがあたりまえの今、手に取って目で見て耳で聴いて音楽を楽しむことがとても新鮮に感じられるはずです。