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名画に学ぶ――『ティファニーで朝食を』編

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不朽の名作と呼ばれている映画には、世代を超えて愛される理由があります。『ティファニーで朝食を』を観たことがありますか? 名画にまつわるエピソードの数々。今だからこそわかる名画の魅力があります。

名画に学ぶ――『ティファニーで朝食を』編

■新しい年にやってみたいこと

1月も終わりに近づくと、新しい年を迎えた清々しい気持ちも次第に薄れ、新年の誓いも相変わらずの日常にまぎれてしまいがち。でも、とりあえずなにかひとつでもやりたい。新しいことを始めるのでもいいし、やりそびれていたことをやるのでもいいし――。

というわけで、早速やってみました。

■『ティファニーで朝食を』を観る

ずっと観たかった映画。あまりにも有名な作品だし、ハイライトシーンも鮮明に頭に浮かぶのに、なぜか観る機会を逸していました。『ローマの休日』はセリフを覚えるほど何度も観ているのに。

原作は1958年に出版されたトルーマン・カポーティの小説『Breakfast at Tiffany’s』。原題もキャッチーですが、それよりも「ティファニーで朝食を」という邦題の響きがあまりにも耳に心地よく、印象に残ります。

DVDの再生ボタンを押して1分後にはわかりました。この映画はオードリーのための映画だ、と。

人影もない早朝のニューヨーク5番街。黒のロングドレスに黒いサングラスという出で立ちのスレンダーな女性が、デニッシュをかじりながらティファニー本店のショーウィンドウのなかを覗き込む。やがて、その女性はゆっくりと歩き去っていく。

まだ映画は始まったばかりなのに、ストーリーも知らないのに、遠ざかっていくその愁いをまとった美しい後ろ姿を見ていると、なぜか上質な映画を観終わったあとのような、切なくも満たされた気持ちになります。

■BGMは言わずと知れたあの名曲『ムーン・リバー』

のびやかで抒情的な旋律。この曲が流れるとなぜかノスタルジックな気持ちになります。わずか10小節の短い曲だったというのはちょっと意外。

このメロディは冒頭シーンだけでなく、全編を通してさまざまな場面で、さまざまなアレンジで流れます。主人公がギターをつま弾きながらしみじみ歌うシーンは、吹き替えではなくオードリー本人の声だとか。

■オードリー・ヘプバーンの挑戦――自分の殻を破る

主人公のホリー・ゴライトリーはニューヨークのアパートで暮らす高級娼婦。当初この役はマリリン・モンローが演じる予定だったそうです。

映画版のホリーはかなりお行儀がよくなっていますが、それでも、オランダ貴族の血を引き、若い頃プリマを目指していたオードリーは、佇まいも立ち居振る舞いも気品がありすぎて、いささかの違和感は否めません。

ちなみに、本物のホリーに会いたければ、ぜひ村上春樹訳の『ティファニーで朝食を』(2008年出版)で。

■古き良き(?)1960年代

違和感と言えば、ホリーの隣人役の日本人男性も強烈です。時は1960年代初頭。なのに、演じているのがなぜか白人俳優で衣装もアパートの室内ももはやパロディ。はたしてきちんと時代考証がなされていたのかどうか……。いろいろ考えされられます。

1960年代はファッション100年の歴史から見るとオートクチュール全盛時代でもあります。その証拠に、オードリーをはじめ、登場する女性たちのファッションの上品で洗練されていること。

カクテルパーティのシーンに出てくるご婦人方のドレス姿も必見ですが、街を歩く女性たちの出で立ちも、さりげないのに気を抜いていない。スカート丈といいヒールの高さといい完璧。おしゃれへの気合いを感じます。

反面、いろいろなことが今よりも鷹揚だった1960年代。ティファニーの店員の粋な計らい。おもちゃの万引き。ヌード・ショー。ベッドでのくわえたばこ。歩きたばこのポイ捨て。

そういえば、この映画ではやたらとみんながタバコを吸います。これも時代なのかな……。

■オードリー・ヘプバーン、ここにあり

このように突っ込みどころは少々あるものの、それを補って余りあるのが、オードリー・ヘプバーンの圧倒的な存在感。第1子を産んで3カ月後に撮影に臨んだというから驚きです。

「わたしはレッドな気分になったとき、ティファニーに行くの」。そう語るホリーは映画のなかでさまざまな表情を見せます。

天真爛漫だったリ、傍若無人だったリ。それでいて脆くて繊細。この難役をオードリーは見事に演じ分けていますが、その好演に一役買っているのが多彩な衣装の数々。

髪をアップにしてリトル・ブラック・ドレスに身を包み、洗練された美しさを見せつけたかと思えば、髪をツインテールにしてタートルとサブリナパンツでラフにキメる。

全身ショッキングピンクで千鳥足で歩いていたかと思えば、上品なベージュのカーディガンを羽織って本を読みふける。そして、かの有名なラストシーンのずぶぬれのトレンチコート姿。どれもこれも完璧な着こなし。

ちなみに、身長170cmのオードリーはあのずぶぬれの状態で体重が36kgしかなかったとか。それはなにを着ても似合うはずです……!

特に印象的なのは、ティファニーの店内でショーケースを覗いていたときに着ていた、鮮やかなオレンジ色の膝丈ウール・コート。小顔に見せるスタンドカラー。大人っぽいシンプルなシェイプ。でも、バックサイドのリボンがなんともキュート。「大人可愛い」ってああいうことなんですね。

華やかな社交場と家具もろくにないアパートの部屋を行き来するホリーは、スポットライトの当たる世界と質素で控えめな日常を行き来するオードリー・ヘプバーン本人と重なります。王女役ではここまでのびのびとした演技ができたかどうか。

『ティファニーで朝食を』こそ彼女の代表作と称する声が多い理由がわかりました。

この映画をすでに観た人もぜひもう一度DVDでご覧になることをおすすめします。そのときは、絶対に特典メニューをお見逃しなく!

なぜあの役がオードリーでなければならなかったのか。なぜ主題歌に『ムーン・リバー』が選ばれたのか。なぜオードリーがジバンシィにとって永遠のミューズとなったのか。

さまざまな「なぜ」の答えがすべて特典メニューのなかにあります。名画のDVDにこんな楽しみ方があるとは。嬉しい発見でした。

寒くなったら「パンツスタイルにダウンコート」という機能的カジュアルがトレンドになりつつある昨今。寒いけど「スカートスタイルに上質な膝丈コート」に挑戦してみたくなりました。今季のクリアランスセールで大人可愛い膝丈コートを探してみようかな。

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桜井 真砂美

早稲田大学卒業後、高校教師を経て翻訳家の道へ。主な訳書:『ファッション・アイコン・インタヴューズ』、『ヴィヴィアン・ウエストウッド自伝』、『ブルックリン・ストリート・スタイル:ファッションにルールなんていらない』、『メンズウ...

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