美しさの秘密に迫る『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』- 古川ケイの「映画は、微笑む。」#34
DRESS読者のみなさま、あけましておめでとうございます! 本年、みなさまにご紹介する1本目の映画は『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』です。現役ファッションデザイナーとして、唯一無二の輝きを放つドリス・ヴァン・ノッテン。そんな彼の 創作プロセスと、貴重な私生活に迫った必見のドキュメンタリーです。
■美しい洋服。ドリスのインスピレーションの源は――?
色鮮やかな生地や刺繍、異なる素材やテイストの組み合わせなどで、私たちを魅了し続けているラグジュアリーブランド「ドリス・ヴァン・ノッテン」。
これまでプライベートや自宅の公開を拒否してきた同ブランドのファッションデザイナーであるドリス・ヴァン・ノッテン本人が、ついにその秘密のベールを脱ぎます。
同ブランドと他ブランドの大きな違いは、デザイナーであるドリス自身がデザイン画を描かずに、生地作りから始まる、その製作過程にあります。また、「ドリス・ヴァン・ノッテン」は”広告は一切出さない”、”自己資金だけで活動する”、”手軽な小物やアクセサリーは作らない”など、洋服だけで世界と勝負しつづけてきました。
本ドキュメンタリーはここ25年間、一度も休むことなく春夏・秋冬のメンズとレディースのコレクションを発表しているドリスの創作プロセスや、インスピレーションの源に迫ります!
◼︎ドリス・ヴァン・ノッテンってどんな人?
プロフィール
・1958年 ベルギー・アントワープに生まれる
・1976年 18歳でアントワープ王立芸術学院のファッション・デザイン科に入学
・1986年 同期生6人と、ロンドン・ファッション・ウィークに参加し、メンズウェアのコレクションを発表/アントワープのギャラリーアーケードに初のブティックをオープン
・1989年 パリメンズコレクションに初参加
・1993年 パリレディースコレクションに初参加
・2014年 パリ装飾芸術美術館で自身のインスピレーションズ展を開催
・2017年 記念すべき100回目のファッションショーを開催
1958年、ベルギーのアントワープで生まれたドリス・ヴァン・ノッテンは、テーラーとブティックを経営する家で育ちました。
少年時代から父に連れられてミラノやパリなどのショーやコレクションを見学していたドリスは、アントワープ王立芸術学院のファッション・デザイン科に入学します。
卒業後は、フリーランスのコンサルタントデザイナーとしてファッション界に入ると、86年にメンズウェアのコレクションを発表し、そのキャリアをスタートさせました。
あのアイリス・アプフェルも絶賛!
ミシェル・オバマ前大統領夫人やニコール・キッドマンなど多数のセレブリティたちから愛されるドリス。
現在96歳にして多くの有名デザイナーたちからリスペクトされ、今なおNYのカルチャーシーンに影響を与え続けているアイリス・アプフェルもドリスを愛するひとりです。
アイリスは、ドリスを「彼のようなデザイナーはもうすでに絶滅している。だからこそ、彼は宝物なの」と語ります。
◼︎ドリスの創作プロセスとは?
ドリスの洋服作りは、生地作りから始まります。
世界中の織物メーカーに発注した生地サンプルをチェックし、メンズ・レディースのデザインチーフとともにアイディアを出しあうと、さまざまな布を重ねたり当てたりして、最終的な形になるまで検討を重ねます。
ドリスがもうひとつ大切にしているのが、職人の手による刺繍。
インドに刺繍工房を構え、駐在員を置くなど徹底した姿勢は、手仕事の美しさを熟知する彼ならではの取り組みです。ドリスは、シーズンごとに刺繍を取り入れることで、高い技術を持つ職人を保護したいと語っています。
ドリスの仕事は、洋服を作るところでは終わりません。
コレクションのショーの舞台裏では、モデルたちに自ら着付けを行うだけでなく、ポケットに手を入れるか、それとも入れないで歩くかなど細かく指示を出します。
ショーが終わっても「もっとこうすれば良かったというミスを100は思いつく」という、ドリスのストイックな姿勢がスクリーンに映し出されます。
◼︎公私にわたるパートナー・パトリックとの暮らしにも迫る
ドリスを語るうえでかかせないのは、公私ともに長年ドリスのパートナーをつとめているパトリック・ファンゲルーヴェの存在です。
ドリスとともにブランドのデザインやコレクションを担当しているパトリックは、アントワープの郊外の邸宅でドリスと共に暮らしています。カメラは3年に及ぶ取材交渉の末に、ついにその邸宅をも撮影することを許可されました。
パトリックとドリスは「私たちの家や庭や暮らしぶりのすべてを撮影に含んでもよいものか?」と考えた末、最後には「そうした方がいいだろう」という結論に達したそうです。
そのほどまでに、家や庭、そこでの私生活が、ドリスを構成する大切な要素であることが、映画の中では時間をかけて明かされていきます。
デビュー以来、多種多様な花のモチーフを使ってきたドリス。
パトリックと暮らす邸宅の広大な庭に咲き誇る季節ごとの花々や、家庭菜園で採れるカラフルな野菜たちが、彼のコレクションに大きな影響を及ぼしていることは、想像に難くありません。
ふたりの審美眼をクリアした芸術品が所狭しと飾られ、庭園から持ち込まれた花が、インテリアにマッチする形で生けるけられていく様はため息が出るほど美しく、ドリスがプライベートにも全力で取り組んでいることが伝わってきます。
「ドリスは自宅や旅先でも細かいやることや行くところのリストと時間割を作り、のんびりできない性分なの」と明かすパトリックと、それを苦笑しながら聞くドリスの表情からは、28年連れ添ったふたりが、互いを想う気持ちがじんわりと伝わってくるようです。
本作のカメラが密着するのは、2014年9月にパリのグラン・パレで開催された「2015春夏レディース・コレクション」から、15年越しのラブコールが叶い、やっと会場の使用許可が下りた2016年1月のパリ・オペラ座での「2016/17秋冬メンズ・コレクション」の本番直後まで。
「ファッションという言葉は好きではない。なぜならそれは半年間で消費されるもののように聞こえるから」
「時代を超えたタイムレスな服を目指している」
「じっくりと何度も味わえる服を作りたい」
そう語るドリスの服作りの裏側を知ったあとは、きっと誰もが彼の服を手にとってみたくなるでしょう。
以前よりもっと彼の服が好きになる――『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』は、そんな必見のドキュメンタリーです。
◼︎『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』公開情報
『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』
2018年1月13日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野ほか全国順次公開
監督・脚本・撮影・製作:ライナー・ホルツェマー
出演:ドリス・ヴァン・ノッテン、パトリック・ファンヘルーヴェ、アイリス・アプフェル
配給:アルバトロス・フィルム
上映時間:93分
公式サイト:http://dries-movie.com
© 2016 Reiner Holzemer Film – RTBF – Aminata bvba – BR – ARTE
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