自発的に動く人が新しい世界をつかむ――女性の再就職のリアル(後編)
前編「退職後の経験はすべて武器になる――女性の再就職のリアル」に引き続き、日本女子大学教授で「現代女性キャリア研究所」所長の大沢真知子先生にお話を伺います。
前編「退職後の経験はすべて武器になる――女性の再就職のリアル」では、再就職を希望する女性の意識の変化や、再就職にチャレンジするための教育プログラムについて、また再就職先として中小企業やベンチャー企業が有利であるといったお話がありました。
今回は、再就職に向けた自分のポテンシャルの見つけ方や心構えなどについて伺います。
■心がモヤモヤしたときは、仕事探しのスタートライン
──仕事から離れた女性が再就職を考えるとき、多くの方が
「自分に向いている職とは何だろう」
「自分の何をウリにすれば良いのだろう」
「私を雇ってくれる企業はあるのだろうか」
といった心のモヤモヤを抱えると思います。
「まず『自分は本当に社会に戻りたいか?』とご自身に問いかけてみてください。一旦敷かれたレールを降りてしまっているので、再度ご自分で新たな道を切り開いていく必要があります。新しい試みですから、相応の覚悟は必要です。
セカンドチャンス(※)は、ただ待っていても、誰かに頼っていてもやってきません。プロアクティブ(自発的に行動すること)に動くことが大切です。
動きながら可能性を探している方は成功への道が広がりますが、『私はここまでかも』と足を止めてしまえば、それまでです」
──年齢や離職期間がハードルになることもありますが、そこで躊躇するのではなく、まずは動き始めること。動き始めれば、実際に乗り越えるべきハードルの高さと乗り越え方が見えてくるということですね。
■自分は何にワクワクするのかを考える
──では実際に、自分の強みやウリをどのように探せばよいでしょうか。
「まず、ご自身の経験の棚卸をしましょう。自分のこだわりや、絶対に外せない必須条件が明確化されます」
──例えば、ひとりで黙々と行う作業の方が向いているとか、リーダーシップを発揮してグループをまとめる仕事が好きだとか、誰かに感謝してもらえる仕事でなければいやだとか、自分の好き嫌いや向き不向きを分析していくわけですね。
「次に、自分はどんな瞬間にワクワクするのか、具体的に考えます。
人とコミュニケーションをとることにワクワクするのか、新しいアイデアをひねり出そうとするときにワクワクするのか、何かを作っているときにワクワクするのか、人によってワクワクする瞬間は異なります。
自分のワクワクポイントがわかったら、それをさまざまな仕事にあてはめて考えてみましょう。仕事の輪郭がわかれば、次第に職種も絞れてきます。職種が大体絞れたら、そのマーケットに参入している企業を調べるなど、具体的に動けるはずです」
──ワクワクポイントはいろいろあるものの、実際に職種まで落とし込む作業は少し難しそうです。
「自分の特性を探すために仕事を始めるという考えもあります。
いきなり結論を出す必要はありません。間違っていたと思ったら修正すればいい。とにかく立ち止まらず、前に進めていくことです」
■「女性だから」に惑わされない
──「女性だから」という固定観念にとらわれる人も少なくないのかな、と思います。
「『女性だから』という枠の中で仕事を探そうとすると、ご自身の可能性の幅を狭めてしまうかもしれません。女性だから主婦だから、料理関係の仕事、保育……と考えるのは自然の流れかもしれませんが、これしかないと考えるのは早いと思います。
『女性だから』こそ別の強みもあります。
例えば、母が持つ優しさや温かさ、広い包容力は、組織を柔軟にまとめていく素質に結び付けることができます。実際、『女らしさ』を発揮して活躍している女性リーダーは多いです」
■「弱いつながり」の相手に相談してみる
──新しい自分探しにチャレンジしているので、じっくりと自問自答する必要がありそうですね。しかし、自分ひとりであれこれ考えていると、煮詰まってしまうこともあります。
「一般的に、ウィークタイズ(弱いつながり)な相手に相談することで、新たな気づきが生まれ、そこから縁がつながり、再就職できたというケースはとても多いですよ」
──ウィークタイズとは、家族や友人など近い存在ではなく、元上司や昔の取引先、たまにしか会わない知人など、弱い関係性の人たちのこと。
オフィシャルな場面で付き合った経験があるので、「あなたのCAN(提供可能な能力)はこれなのでは?」「こういう仕事に向いているのでは?」といった客観的で具体的なアドバイスが得られやすいようです。
■資格はあった方が有利?
──子育て時期をインプット期間ととらえ、資格取得などスキルアップを目指す方も多いようです。では、どんな資格を持つと再就職に有利ですか?
「弁護士など高度な資格は別ですが、一般的に資格があれば再就職に有利というわけではないようです」
──得た資格を生かそうと職種を絞ると、チャレンジできる範囲が狭くなるということでしょうか。
「持っている資格に縛られて仕事を探すより、なんでもやってみようという好奇心を持って仕事を探した方が、再就職先が決まりやすい傾向にあります。働いてみて、その現場で取得した方が有利な資格があればチャレンジしてみるという考え方の方が良いでしょう」
――再就職にマニュアルは存在しません。新卒入社のときのように、学校や企業が手を差し伸べてくれることもありません。改めて自分の実力や可能性の棚卸をし、自分で方向性を見出し、新たな挑戦をしていかなければなりません。
「自分自身に『このままでは終われない!』という心の叫びがあるなら、ポテンシャルを生かすために『働く』という選択をすることは自然な発想だと思います」
「再就職へのチャレンジは、離職後母や妻としてのアイデンティが固定化してしまった中に、『働く私』を追加することです。変わり続けることを楽しめるのであれば、ぜひ一歩を踏み出してほしいですね。私自身いつも新しい自分に出会っていますよ」と大沢先生。
次回は、実際にベンチャー企業で再就職した40代の女性をご紹介します。
彼女は新しい職場でやりがいのある仕事を手に入れ、公私ともに輝いているひとりです。
(※)セカンドチャンス
さまざまなライフイベントをきっかけに仕事を一旦離れたものの、誰もが自分のポテンシャルを再度開花させ、人生経験を生かし、再び社会に出てチャンスをつかむこと。