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男性は、好みの女性を“消費“する行為に慣れている【漫画家・鳥飼茜さんインタビュー】

鳥飼茜先生が描く『ロマンス暴風域』は、さえない非常勤美術教師の「サトミン」が風俗嬢の「せりか」と恋に落ちるストーリー。特にラストの展開はハラハラが止まらない。今回は、男女の性の差について切り込む作品の多い鳥飼さんに、男性が風俗に行く理由や、男性はなぜあざとい女性に夢見がちなのかを聞いた。

男性は、好みの女性を“消費“する行為に慣れている【漫画家・鳥飼茜さんインタビュー】

10月23日に『ロマンス暴風域』(扶桑社)、『先生の白い嘘(8)』(講談社)、『鳥飼茜の地獄でガールズトーク』(祥伝社)を同時発売した漫画家の鳥飼茜さん。

『ロマンス暴風域』は、さえない非常勤美術教師の「サトミン」が風俗嬢の「せりか」と恋に落ちるストーリーで、特にラストの展開はハラハラが止まらない。男女の性の差について切り込む作品の多い鳥飼さんに、男性が風俗に行く理由や、男性はなぜあざとい女性に夢見がちなのかを聞いた。

■男性は好みの女性を選んで消費するという動作に慣れている

――『ロマンス暴風域』は風俗嬢の「せりか」ではなく、男性の「サトミン」が主人公です。なぜ、風俗嬢ではなく風俗に通う男性を主人公にしたんですか?

私の男友達が風俗にハマっていて、その子の話がすごくおもしろかったので、描きたくなったんです。

また、以前から風俗嬢に興味があって、風俗に関する本を読み漁りました。そして、もうこれは自分が風俗嬢になるしかわかりようがないというところまできたんです。でも、実際に風俗をやるのは怖いし、風俗嬢になりきって描くのもちょっと失礼なのではないかと思って。

AV女優の人にも言えるのですが、究極の腹の据わり具合に、私は到底及ばない。それなら、風俗を利用している男性の気持ちを想像する方がまだ無礼ではないなと。

――サトミンは風俗嬢のせりかに恋をしてしまいますが、風俗嬢は仕事として性のサービスを行っています。風俗嬢に本気でハマってしまうのは馬鹿じゃないのかなと思ってしまいました。

私も最初、友達の話を聞いたときは、「えー、それ大丈夫? 騙されてない?」と内心怪しみました。
でも、話を聞いていると、タイプのお客さんが来た場合は恋愛対象として見る場合もあるそうなんです。風俗嬢にとっても出会いの一貫というか。

――風俗に通う男性を描くとき、わからない点や苦労した点はありますか?

わからない点だらけですよ。自分が男の人にお金を払って、さらにその人のことを好きになるかって考えると、難しいなと思います。調べるといろいろあると思いますが、女性にとっての風俗は、一般的にはせいぜいホストクラブ止まりです。そして、お金を払うという時点で、自分はお客さんになるということです。追いかけるというのとは少し違う。でも、サトミンはお金を払った上でせりかを追いかけているので不思議に思います。

私だったらどこまでも、間にお金があって成立している性的なサービスと見てしまうのですが、ハマる人はお金を払うということで生まれる、相手女性との上下関係を感じていないのかなぁ、と思います。男性の中では「お金を払った」というシーンが瞬間的に抹殺されているようなイメージですね。

おそらく、女性の体を手にするのにお金を介在させるとか、セックスを買うということは、肌感覚として確実に男性の方が持ち合わせていると思います。今は無料でもインターネットで検索をすれば、子どもでも簡単に女性の裸やその体がどのように扱われているかを見ることができる。好みの可愛い女の子の体の画像がごまんと手に入ります。それは一見無料のようで、実は間にいろんな経済が挟まれていて、直接のやり取りではなくても消費であることには違いないんだけど。

男性はそれらを使って射精するという経験を自然なものとしてやっているから、ずらっと女の子が並んでいて、そこから好みのエッチな女の子を選ぶという一連の動作に慣れていて、女性を商品としていることへの抵抗はほぼ感じなくて済むほどにはシステム化されている。そこは女性が男性の体に対して逆のことを自然にしているかというと、全く違う世界のように思います。

――たしかに、私もホストクラブに行った際、初回の安い料金でこんなにサービスしてもらって申し訳ないとすら思ってしまいました。

鳥飼:女性は単純に払い慣れていないので、「安くてすいません」ってなりそうですよね(笑)。

■男性は「自分のタイプの子=良い子」になる

――『ロマンス暴風域』を読んだDRESSの男性編集者が、「せりかちゃんの口からとっさに嘘が出てくることが怖い」と言っていました。

その嘘のセリフを作るのに私は2日かかりましたけどね(笑)

――でも、せりかのように本当に、息を吐くように嘘をつける女の子っていますよね。

いますいます。

私もどこか、風俗嬢に対する変なイメージがあるのかもしれません。お金に差し迫っているわけではないのに風俗で働いている女の子ってどんな子なんだろうと考えたとき、主役体質だろうなと思ったんです。小学生のころ、嘘を吐いてでも注目を浴びたいという虚言癖の子がいたなぁと。そういう特徴を勝手にせりかに当てはめたというのはあります。

先日、クリープハイプの尾崎世界観さんと対談したのですが、彼は「絶対にせりかには引っかからない」と言っていました(笑)。

――いやぁ、わからないですよ(笑)。 女性から見ると「絶対嘘だろ!」とわかる子でも、男性は引っかかりますよね。

ここ10年くらいで私が知ったのは、男性は可愛い子や自分のタイプの子がいたら、その子は「良い子」になるんですよ。「可愛い子=間違っていない良い子」なんです。

他の女性から「あの子は嘘をついているからやめた方がいい」と言われても、「外野が何か言っている」としか思わない。

――男性は騙されていても幸せなんですか?

騙されているというよりは、のっかってあげている感じです。「可愛い子に自分は一票」みたいな。

――そうやって男性からチヤホヤされているせりかは、自分に寄ってくる男性のことをどう思っているんでしょうか?

これは想像ですが、嘘をついている状態の自分に優しくしてくれる男性に本気になれるかというと、なれないですよね。せりかはどこかで旦那さんのことは好きなんじゃないですかね。(※せりかは既婚者)

最近知ったのですが、男性って女性にすごく優しいんですよ。
先日、友人と外食をした際、隣のボックス席に男性がいて、ひとりなのに何も頼んでいなくて変だなぁと思っていたら、45分後に女性が現れたんですね。で、一言目からして元気よく「待ったよね〜!?」ですよ。聞いているこっちは「待ったよねじゃねえよ! 待たせ過ぎだろ! ごめんはどうした!」と怒っているであろう男性にシンパシーを募らせていたわけですが、やや不機嫌だった彼に対して彼女の方はまあ悪びれもせず「あれ、なんか今日元気なくない?」と。もう彼の気持ちを考えるとこっちがやきもきですよ。

そんな我々の心配とは裏腹に、彼は徐々に女性の盛り上げ役に身を投じていったんですよね。終始自分の話ししかしない彼女に、「それからどした!」的な相槌まで打つ始末ですよ。つまり、彼はその子の45分の遅刻は我慢の上飲み込んだんですね。なんて優しいんだと思って。「この優しさは何なの!?」と後で同席していた男性に聞いたら「あれは、ヤレるかもしれない可能性を棄てたくない気持ちの表れだ」と。驚きでした。そんなことで男性は器をガッと大きく広げられるんだぁ、と。そして、我々女性はそんな盛り上げられ方とは露とも知らず「私の話って面白いんだよな〜」と勘違いのまま、そうやってすれ違ってきたんだなぁと。感慨深い体験でした。

――男性って「器」をものすごく気にしますよね。

気にします。「お前遅れて来てんじゃねぇよ!」とか言うと、器の小さい男と思われてしまいそうというのもあるのだと思います。

■垢抜けないけど男に愛される女性を描く

――せりかはサトミンがお店に来た瞬間、爆笑します。あの爆笑の意味がわからなかったのですが……。

私もわからないです。でも、私が話を聞いた男の子は、出会った瞬間に爆笑されたことが他に2回くらいあると言ってました。そうされたことで彼はなぜか運命を感じちゃうようでした。

――テクニックのひとつなんですかね?

先日、NHKの『ねほりんぱほりん』という番組でサークルクラッシャー(以下、サークラ)の特集があったのですが、せりかはサークラに近いのではないかと思いました。男を落とす「さしすせそ」は有名ですが、サークラの子は「あいうえお」なんだそうです。

「あっ! アイス食べたい」→「一緒に買いに行こう!」→「うるさいなぁ」→「えーっ、ヤダ!」→「おんぶして!」らしく、いきなり「あっ!」と言うことで自分のテンションに持ち込む。

そして、男性がその気になって「うちに行っていい?」と聞いてきたら「えーっ、ヤダ!」と言い、そこで「家までおんぶして!」と言う。家までおんぶさせたらその気になるから、男性はやっぱり泊まりたくなって「泊まってもいい?」と聞くと、また「えーっ、ヤダ!」に戻るという無限ループ。

――思わせぶりな態度と冷たい対応を繰り返すんですね……。でも、サークラの子たちってルックスがとても良いわけではないと聞きますよね。

だから、せりかも可愛くは描いたけど、あまり華やかにならないようにしました。私は漫画に出てくる人物の服装や鞄を考えるのがあまり好きではないのですが、せりかに関してはすごくこだわったんです。

「田舎から出てきて美大に入れずくすぶっている、サブカルっぽいけどついていけてない子」というお題でアシスタントの子たちといろいろ服のブランドを調べたりと、嫌らしい行為を(笑)。 結果、変なフリルがついた服にモッズコートという。鞄もダサピンクが濁ったような色。垢抜けなさのようなものをわざと面白がって描きました。

――最後に、鳥飼さんはサトミンのような男性は好きですか?

頼りないロマンチストで好きです。彼は運命共同体のようなものを探しているので、乙女心がありすぎる男性です。そういう人と恋愛をすると、ものすごいハマるんだろうなと思います。きっと、ご飯も作ってくれるだろうし、サプライズもするだろうし、全てをなげうって何でもしてくれますよ。

Text/姫野ケイ
写真/小林航平

『ロマンス暴風域』書籍情報

ロマンス暴風域

¥ 799

著者:鳥飼茜 発行:扶桑社 コミック:216ページ 発売日:2017/10/23

鳥飼茜さんプロフィール

1981年、大阪府生まれ。漫画家。2004年「別冊少女フレンドDXジュリエット」でデビュー。著書に『ロマンス暴風域』(扶桑社)『先生の白い嘘』(講談社)『鳥飼茜の地獄でガールズトーク』(祥伝社)、『地獄のガールフレンド』(祥伝社)など。

姫野 桂

フリーライター。1987年生まれ。宮崎市出身。日本女子大学文学部日本文学科卒。大学時代は出版社でアルバイトをし、編集業務を学ぶ。卒業後は一般企業に就職。25歳のときにライターに転身。現在は週刊誌やWebなどで執筆中。専門は性...

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