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足し算は卒業。引き算で手にした心地よい暮らし#1【兎村彩野】

自らが「心地よい」と感じる住まいで暮らす方に、お部屋やインテリア、暮らし方を紹介していただくシリーズ。初回はDRESSコラムニストのひとり、兎村彩野さんに登場いただきました。今夏引っ越した新しい住まいで、パートナーとふたりでつくる心地よい空間を前後編のコラムでご紹介いただきます。

足し算は卒業。引き算で手にした心地よい暮らし#1【兎村彩野】

DRESSの編集長から「心地よい暮らし方というテーマで、コラムを書いていただけませんか?」とメールがきました。連載を10カ月ほどお休みしていましたが、ひさしぶりにDRESSでこうして言葉を書いています。

今年の夏に心底惚れた物件に出会い、夫とふたり、なんの迷いもなくサラッと引っ越しをしました。約4年続けた、海の近く、ベランダから江ノ島が見える暮らしの終わりは、意外にあっさりとやってきて、ふたりで「こういう時期がきたね」と話していました。

変化をすんなり受け入れられるのは、毎日、小さく変化するように生きているからで、変化が積み重なって満ちると、不思議とそうなるようにしかならないという感覚になります。

そうなるようにしかならないので、今、新しい家で新しい暮らしをしています。家と自分たちの相性がとてもよく、シンデレラがガラスの靴に足がピタッと収まったとき「あぁなんて気持ちいい」と思ったなら、たぶんこんな感じなのかなと思います。


さて、前置きはさておき、心地よく暮らすお話を。ひさしぶりのコラムなので少し私の近況を書いてみました。

生きていくのに必要な物の量を知る

私が暮らしの中で心地よく暮らすために意識していることは、自分が生きていくのに必要な物の量を知ることです。

他のコラムなどで、昔、物に囲まれて埋もれて暮らしていた話は書いてきたので割愛しますが、物がとても好きです。好きで集めるとなかなか捨てられない性分でした。夫と結婚して、そんな私の未練病をゆっくりほぐしてもらったおかげで、物に執着するという癖がほとんどなくなりました。

「自分」と「物を好きな自分」を少し離して考えられるようになり、快適とか心地よいという感覚は、余裕から生まれるのだとわかりました。

余裕というのは面白いもので、精神的な余裕と物質的な余裕と、2種類あります。気持ちの余裕は目に見えないものなので、日々を幸せに生きることでしか手に入りません。物質的余裕のほうはずいぶんコントロールしやすいものだと思います。

物は持ちすぎると掃除が大変で、掃除が大変だと掃除をさぼるようになるので家が汚れてきます。家が汚れてくると気持ちが落ち着かず、だんだんとすさんでいきます。この悪循環を断ち切るために、まず客観的に自分が生きていくのに必要な物の量を決めました。

この必要な物の量は、今、1年に2度の衣替えのときにアップグレードしています。全部を1回で把握するのは少し大変なので、毎回1〜2箇所と決めて改良し続けています。

例えば、私は食器を揃えるのが趣味です。前は集めることが好きだったので、どんどん増えて棚がパンパンになっていました。パンパンに詰め込むと何をもっているのかわからなくなります。結果、探すのが面倒になるので、また新しい物を買うというルーティーンができあがってしまいました。

そこで本当に自分に必要なお皿や食器の枚数や量を決め、年に2回、使わなくなってきた食器を友人へ譲り、不足分を新しい食器に入れ替えるという暮らしをしています。

おかげで友人達が私の集めたお皿を引き継いで使ってくれるので、SNSで写真に譲った食器達が写り込んでいるときに「元気でやってるな」とニヤニヤできて幸せを感じます。

どの食器も大切に選んできたので、捨てるのではなくどんどん譲っていくことで、周りの人も食器に興味を持ってくれたり、食器を好きになってくれたりして、「好き」が広がる喜びがあります。物を手放して、人とのつながりをもらうという素敵な循環が生まれました。

食器も一定量以上増えないので、掃除も楽だし、棚に余裕があるのでまんべんなく毎日いろいろな食器を使えるようになりました。

人生の気分に合わせて入れ替わっていく食器棚ですが、好きだったお皿たちとの思い出は消えないですし、私の写真のフォルダに残っているので、それで十分だとわかったのです。

楽をするために小さな努力をする

元来、とてもずぼらで面倒くさがりで、暇があれば本を読むかゲームをしたい性分です。決してマメではないし、キレイ好きでもないです。

そんな性分や性格をねじ曲げるのは至難の業。それに何かを自分に強制すると、ストレスになって楽しくないので、考え方だけを変えてみました。

ウルトラズボラーマン(スーパーマンみたいなズボラのヒーローみたいなもの)になるために小さな努力をしてみようと。きれい好きになるのではなく、より快適にずぼらでいるために少しだけがんばるみたいな感覚です。

週に一度(大抵は土曜日)ゆっくり起きたら、まず掃除と整理整頓をします。このとき、ただ掃除するというより、使わない物をひたすら細かく捨てていくことに集中します。

終わった仕事のメモ、読み終わったチラシ、ちょっとしたパッケージ、など。1週間でも生きていると不要なものはたまるので、掃除をしながらその場で感情を入れずに「必要・不要」だけの判断でどんどん捨てます。

せっかくなので、このとき2秒で判断するという訓練にしていて、整理されていない物を一箇所に集めて、2秒以内に必要と思わなかった物は捨てるとしています。このトレーニングのおかげで、日常において「迷う」という感覚が減りました。2秒で必要と感じないといけないので、直感が前より冴えています。

必要な物はきちんとルール通りにファイリングします。書類ボックスからはみ出たら捨てる、というのを繰り返していたら、仕事でもプライベートでも書類やメモ、荷物を用意するのが何倍も早くなりました。基本、必要な物しか残っていないのですぐに取り出せます。

これで無駄のない作業ができるので、1日1時間は節約できるようになりました。おかげで好きなヒーローが出てくる海外ドラマを見たり、漫画を読んだり、ゲームをしたりする余裕が生まれました。思う存分ストレスも罪悪感なく、ずぼら時間を楽しめます。

心地よいとは自分自身を変えるのではなく、考え方(もしくはものの見方)を変えるだけでよく、自分は自分のままでいていいと許しながら生きていくことなのかなと思います。ずぼらを愛することが私の心地よさで、罪悪感のないずぼらを作るためにルールを作りました。

(後編につづく)

足し算は卒業。引き算で手にした心地よい暮らし#2【兎村彩野】

https://p-dress.jp/articles/5126

自らが「心地よい」と感じる住まいで暮らす方に、お部屋やインテリア、暮らし方を紹介していただくシリーズ。初回はDRESSコラムニストのひとり、兎村彩野さんに登場いただきました。今夏引っ越した新しい住まいで、パートナーとふたりでつくる心地よい空間を紹介するコラム、後編です。

兎村彩野

Illustrator / Art Director

1980年東京生まれ、北海道育ち。高校在学中にプロのイラストレーターとして活動を開始する。17歳でフリーランスになる。シンプルな暮らしの絵が得意。愛用の画材はドイツの万年筆「LAMY safari」。

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