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「また綺麗になったね」と言われる女になりたくない?

いくつになっても美しくありたい。女性は誰もがきっとそう願うはず。どんどん輝きを増して、男性だけでなく女性も見惚れるような人になれたらカッコいい。年を重ねるのをポジティブに捉えることができるショートストーリーです。

「また綺麗になったね」と言われる女になりたくない?

「もう歳だなぁ……」

駅から会社までの道のりを、重い足取りで歩く。連日の残業に加えて、昨日は部署での飲み会。帰宅したのは日付が変わってから。

疲労をずるずると引きずっていて、金曜日ということだけが唯一の救い。大丈夫、今日さえ乗り越えたらいい。そしたら週末だ。

やっとの思いでデスクにたどり着くと、「おはよ」と振り向くのは同じチームの沙也加。「昨日はよく飲んだよね~」なんて言いながら、けらけらと笑っている。

ちらりとパソコンを覗くとメール画面。すでに仕事中。昨日は彼女も終電帰りだったはずなのに……。慌ただしく到着してボサボサの私は、せめてもの思いで前髪をサッとなでて整える。

同じ女性、同じ34歳という年齢。なのに、彼女はいつも美しい。どこが違うのだろう。

年齢を重ねても美しい人って、いったい何をしているの?

「ねえ、疲れてないの?」と聞いてみる。

「そりゃあ、疲れるよ。残業ばっかりだし、仕事は待ってくれないし(笑)」

それならどうして、そんなに爽やかなの。

■美しい人は「余白」を持っている

「だからさ、昨日は何とかして湯船に浸かったの。私、疲れとストレスを溜めちゃったら、いろいろと上手くいかなくなっちゃうからさ(笑)。気分が落ちる前に、自分の好きなことをしてリセットするの」

「たった10分でもお風呂に入るとリラックスできるから。体もちゃんと温まるしね。まあ、それくらいよ。たいしたことはしてないの」

沙也加は、自分自身と向き合うことがとても上手だ。

好きなもの、嫌いなもの、得意なこと、苦手なことをよく知っている。

自分のことをよく理解している人って、いつもどこかに「余裕」や「余白」があるんだなと、彼女を見ていると思う。張り詰めた空気がないし、そばにいると清々しい。

■美しい人は楽しむと決めている

さて、私もやることやらなきゃ。スケジュールを開いてTo Doリストを確認する。

えっと、今日配信する記事は、新しくオープンしたドーナツショップ、あと、人気のサラダショップでしょ……。優先順位をつけて、段取りを考えて、頭の中で「今日」を埋めていく。

ただ、基本的にやることはいつも同じ。ライターの原稿とカメラマンの写真を組み合わせて、修正して、タイトルを考えて、入稿作業。

ほとんど毎日ルーティンの作業に、どうしても飽きてしまう。わくわくとかドキドキなんて、もうどこかに置いてきちゃったな。

でも、沙也加はいつも楽しそうだ。

「食べることが好きだし、流行りも大好き。私、ミーハーだしね(笑)。話題のカフェとかレストランを追いかけてる」

「でもさ、ただ紹介するだけなら他のサイトと変わらないでしょ。それじゃ面白くないから、オーナーや店長のインタビューも載せるの」

「人の想いがわかると、そのお店により行きたくなるんじゃないかなって」

そう言って子供みたいに目を輝かせる。

実際、彼女が担当する記事はいつも反響が大きい。やりたいことを思いっきりやっているから、いい仕事ができているんだろうな。

いいな。羨ましい。

沙也加がすごいのは、やりたいことだけじゃなく「やるべきこと」「やらなきゃいけないこと」も楽しんでいること。

「ありきたりだけどさ、どう過ごしたって今日っていう1日は過ぎていくでしょ? 誰かに負けたくないとか、あの人より幸せになりたいとか、そういうのはないの」

「でも、自分で選んだ環境には負けたくない。だから何でも楽しんでやるぞって。自分で背中を押して、前を向いてる感じ」

根っからポジティブな人なんて、いないのかもしれない。

誰にだって嫌なことがあるし、悲しい日だってある。泣きたい夜だって。それに負けないように努力している。踏ん張ってる。

「楽しいこと」なんて世の中にはなくて、楽しむって決めた人の世の中が楽しくなっていくんだ。

■美しい人は内面の充実が外に溢れている

デスクに向かう沙也加に視線を向ける。まっすぐに伸びる背筋。

そう、彼女はどんなときも姿勢がいい。歩くときは「颯爽」のお手本のようで、ハイヒールに負けていない。

とても綺麗で、同じ女性ながらうっとりしてしまう。彼女が歩く道だけ、レッドカーペットでも敷いてあるんじゃないかと思うほど。

あと、いつも口角が上がっているし、よく笑う。「あのさ……」と話しかけると「ん?」と満面の笑みで返してくれる。仕事中でも手を止めて、ちゃんと目を見てくれるから、うれしくなる。

後輩の子たちも彼女によく質問をしにくるし、周りを気持ちよくさせているなって思う。

それから「老けた」「もう歳だから」っていう言葉を使わない。

たんまりと飲んだ翌日、私はよく「昔はどれだけ飲んでも元気だったのになぁ。年齢には逆らえないかぁ」なんて言う。

この間、久しぶりに会った友人と話しているときも、冗談交じりで「来年で35歳よ。四捨五入したら40って。本当、もういい歳だよね」って。

でも、沙也加はこうだ。

「仕事で任されることが増えて、だんだん楽しくなる」

「20代のころは周りがうらやましいことだらけだった。でも、ちょっとずつ自分がわかるようになってきてさ。私は私でいいんだって今は思えるの」

「40歳になったらさ、もっと肩の力が抜けるのかな。わくわくするね」

自分自身を知っていて、余裕があるから、周りを受け入れることもできる。

楽しいことをやるんじゃなくて、やっていることを楽しくする努力を欠かさない。

色んなことを諦めずに磨き続けている。

だから彼女は、年齢を重ねるごとに美しくなる。

「さーて、もうすぐお昼だ。美味しいランチが待ってるよ!」

沙也加のその言葉と同時に、ぐぅと彼女のお腹が鳴った。不意打ちに笑ってしまう。

私も諦めることをやめよう。

過ぎていく今日を楽しめるように。

同じ1日ならたくさん笑っていたい。いくつになってもそのときの自分を思いっきり味わいたい。

受信ボックスに1通のメール。

開いてみると、「この前の記事、面白かったです!」という読者からの感想。

「よし!」

グッと背筋を伸ばして、パソコンに向かった。

あやか

ライター/物書き

1988年生まれ。 「仕事」「生き方」についてよく書きます。 言葉をつむぐことで、日々の温度をすこしあげられたら。 空を眺めることとお散歩が好き。

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