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とっておきの一足を揃えて、夏を待ち受ける!

夏の足元ファッションは悩ましい……。でも、久しぶりに夏、靴売り場に足を運ぶと、カラフルな靴が溢れ、見て回るだけでも楽しい。しかし、筆者があえて選んだのはカラフルな靴やサンダルではなく、上質なスエード製のベージュのチャンキーヒール・パンプス。手持ちのサンダルでやり過ごしてきたこれまでの夏と比べて、今夏はどんな変化が――。

とっておきの一足を揃えて、夏を待ち受ける!

梅雨明け間近。以前のコラム「おしゃれに悩んだら素の自分を活かす - 『おしゃれの幸福論』から得たヒント」でご紹介した光野桃さん著『おしゃれの幸福論』に大いなる刺激を受けたわたくし。

そのなかの「透明感のあるベビーブルーにくすみのないベージュの靴を合わせると、ふんわりと優しげなのに爽やかで、ちょっとパリっぽい印象に……」という魅力的な一文に背中を押されて、早速デパートの靴売り場に足を運んでみました。この歳になると、なんでも思ったときにやっておかないと――。

■夏の靴売り場は色に溢れて

久しぶりに真面目に夏の靴売り場を見て回りました。夏はどうしてもカジュアルな装いが多くなり、しかも、足元は汗や湿気で汚れやすい。

だからこそ、これまでは素足にペデキュア+手持ちのサンダルで、暑い季節を適当にやり過ごしてきた、というのが正直なところ。

そんななか、久しぶりに訪れたセール前の夏の靴売り場は、ありとあらゆる色とデザインに溢れるキラキラした空間でした。

■「おしゃれは足元で決まる」という重圧

寒い季節の服装は、上質のカシミアでもシフォンでも、いくらでも素材やデザインで遊べるし、コートやマフラー、小物類とのコーディネートも楽しめるけれど、それにふさわしい靴選びには案外頭を悩ませるものです。

トータルコーディネートの締めくくりだからあまり恥ずかしくないものを、と気負うと、お値段もそれなりに高くなる。だから、そんなに何足も買えなくて、結果、どうしても色やデザインの無難な、どんな装いにも合わせやすいコンサバ・スタイルの靴を選んでしまいがち。

かくいうわたしも、いざというときのために買ったちょっとお高めの黒のプレーンなハイヒール一足で、いざというときを何年切り抜けてきたことか。

■夏こそ靴

でも、「質より洗い替え」の夏のファッションでは、上物が綿麻素材にカジュアル・ダウンする分、足元のおしゃれに遊びの自由が生まれます。

真っ赤な編み上げサンダル、花柄のスニーカー、水玉のレインシューズ、ストライプのパンプス。どんな色でも、どんな柄でも、どんなデザインでも、履けてしまうのは夏だから。

■贅沢を履いているという感覚

とはいえ、白シャツにデニムに安物の派手なサンダルというスタイルで街を歩くには年齢制限があるのも事実。

ならば、プライスダウンのワンツーコーデで浮いたお金を少しだけ夏の足元に回してみるか。というわけで、夏に靴を買うなら、セール時に価格4ケタ以内で、という自身のルールを破り、スエード製のベージュのチャンキーヒール・パンプスを買ってしまいました。

汚れが目立つのにベージュ? 足が蒸れるのにスエード? しかも、暑苦しいビッグヒールのパンプス?

どうせちょっといい靴を買うのなら、少しだけソール高めのビジュー付きビーサンとか、本革の厚底サンダルとか、ヴィヴィッド・カラーのエナメルパンプスとか、ほかにも選択肢はあったはずなのに。

早まったか! という軽い後悔を覚えながらも、実際に新しい靴に足を入れてみると、これがなかなか。贅沢を履いているという心地よい感覚がじわじわと足元から伝わってきます。

夏物ファッションは汗との戦いです。だからこそ、夏はすぐに終わると自分に言い聞かせ、長年夏のおしゃれに目をつぶってきたけれど、はたしてそれでよかったのか。過ぎた季節はまた翌年にかならず巡ってきます。

飛び散る汗と弾ける笑顔をまとって夏を駆け抜ける年頃ではなくなってしまったいま、大人の女性たるもの、秋にはできない夏のおしゃれの楽しみ方をそろそろ考えてもよいのでは?

■『マイ・インターン』のロバート・デ・ニーロに学ぶ

「とっておきの一足」という言葉で思い出すのが、2015年公開の映画『マイ・インターン』。映画館で、ビデオで、もう何度観たことか。

主演のアン・ハサウェーのキュートな魅力もさることながら、共演のロバート・デ・ニーロのカッコいいこと。妻に先立たれ寂しさを抱えながら、ひとり静かな日々を送っていた70歳のデ・ニーロは、残りの人生でもうひと花咲かせようと再就職を決意。

そして、初出勤の前夜、嬉々として翌日の身支度を整えていた彼は、大事にしまっていた靴箱を抱えてきて、そっと蓋を開け、うっとりと革の香りを嗅ぎます。何度観ても素敵なシーンです。大人のおしゃれの神髄はここにあり、という映画。必見です!

■靴は顔

かつて、イタリア人の友人が教えてくれました。イタリア人は初対面のとき、まず相手の爪と靴を見るのだと。以来、なんとなく人の足元に目が行くようになりました。

そうしてあらためて観察すると、足元にはその人の人となりや暮らしぶりが表れている気がします。おしゃれにきめている若い女性がかかとのすり減った靴を履いていたり、地味なスーツ姿のビジネスマンがよく手入れされたネイビーの革靴を履いていたり。

つまり、足元を変えれば見られ方も変わるということ。さて、夏にスエード製のベージュのチャンキーヒールを履く中年女性は、他人の目にどんな風に映るのでしょうか? 

知りたいような、知りたくないような……。柄にもなく、本格的な夏の到来が楽しみになってきた今日この頃です。

桜井 真砂美

早稲田大学卒業後、高校教師を経て翻訳家の道へ。主な訳書:『ファッション・アイコン・インタヴューズ』、『ヴィヴィアン・ウエストウッド自伝』、『ブルックリン・ストリート・スタイル:ファッションにルールなんていらない』、『メンズウ...

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