好きな場所で幸せに働く 図書館司書の本棚【本棚百景#6】
本棚の中身は、持ち主の脳内や心の中を映し出していることがあります。他人の本棚や読書スタイルというものは、意外に知らないものですが、読む本の変遷は時にその人の生き方さえも表しています。連載【本棚百景】6回目は、東京都在住ユイさん(仮名)の本棚をご紹介します。
思い思いのスタイルで過ごす読書の時間。本棚の中身は、そのときどきの持ち主の脳内や心の中を映し出していることさえあります。
だからこそ読書とは、もしかすると生きることそのものといえるのかもしれません。連載【本棚百景】6回目は、東京都在住のユイさん(仮名)の本棚をご紹介します。
■本棚の持ち主 プロフィール
各種展覧会の図録。装丁も美しい。
ロシア文学に傾注した片鱗が本棚にある。
団体職員(図書館司書)
ユイさん(仮名)
東京都在住・女性・38歳・独身・母と姉と3人暮らし
子供の頃から、自由な性格だった。
あるときは、女子の集団と一緒になって、ままごとや人形遊びで夢の世界に没頭し、あるときは、男子の集団に混じって外を走り回り、遊んだ。
こうでなくてはならないというボーダーラインがない子供だったが、わがままを言って人を困らせるようなことも少なかったという。
ただし、やや風変わりであったことは事実。壁に貼った50音表を、縦横・斜めに音読し、母を困惑させていた子供だったらしい。
その母がよく、絵本や紙芝居を読み聞かせてくれた。五感に訴えるものが面白いなと感じた記憶があるから、これが読書における原風景だと思うのだ。
大きくになるにつれて、だんだんとおとなしく、穏やかな性格になっていったが、やり方が大人風味になっただけの話。本質的には、今も昔も、何も変わっていない。
■学生時代に読んだ本
中学時代、国語の先生に勧められた『ナルニア国物語』、今でも大好きなシリーズ。
小学校高学年になると、図書館に足しげく通うようになり、元来のボーダレス能力を発揮して、司書のお姉さんとも顔なじみになった。
主に子供向けの小説を読んでいたが、リンドグレーン作品や、ボンゾンの『クロワ・ルス少年探偵団』シリーズ、怪奇読み物など。想像力が広がりやすいものが好きだった。
高校時代は、見たもの、聞いたものをトリガーに、時代背景や関連事項を扱う本を読んで、知識やイメージを深めることにはまっていた。
『風と共に去りぬ』『シンドラーのリスト』『ティファニーで朝食を』などを次々と読み、チャイコフスキーやラフマニノフの音楽を聴いては、ロシアに関する本を読みふけっていった。
ロシア音楽を入り口にして、ロシア・東欧について学びたいと考えるようになり、短期大学へ進学。片道2時間の通学時間が、読書の時間になった。
勉強がらみでは、「ロシア」「東欧」「近代化」「戦前」「民族紛争」のキーワードに、当てはまる本をひたすらに読んだ。
この頃、勉強が本当におもしろかった。
与えられた課題と自分の関心をつなぎ、新しく知ったことに考察を加える。それが評価されることに、大きな喜びを感じていた。できれば、4年制大学に編入して、さらに学びたかったけれど、家庭の事情で就職の道を選ぶことになる。
■多読の先に見えてきた絵本の世界
米原万里とリリアン・ギッシュ。強い女性像が心に響く2冊。
絵本や児童書の世界は、実は深い。
「働くなら、好きな場所で」を念頭に置いて就職活動し、現在の職場である、図書館に就職した。
本や学びを好む者にとって、図書館職員というものは、つくづく贅沢な仕事だと思う。
興味関心の向くものについて、どんな関連書があるかを探すスキルを習得できるし、そのためのツールが常にそばにあるのだから。
図書館の仕事は、一般的な図書館業務のほか、その裏を支える総務系やシステム系の仕事もあり、実に多種多様。
たとえば、法規と外国語。これまでの読書経験を通じて、さまざまな基礎知識を得ていなかったら、とても仕事についていくことができなかったと思う。
大人になって、良書にもたくさん出会うことができた。
今でも時々読み返すのは、リリアン・ギッシュの自伝や、米原万里『オリガ・モリソヴナの反語法』。この2冊は毛色が違うものだが、どちらにも、その時代を生きた芯の強い女性の姿が詰まっていて、心に響いてくる。
現在は、興味のわく読み物はすべて読み尽くした感があり、児童書や絵本の世界がおもしろいと感じるようになってきた。子供の本には、何気ないけど重要なフレーズが多くあり、こういうものって、むしろ大人が読むべきものなんだろうなと思い始めている。
■生活を彩る、“創る”という行動
朝はりんごジュースと決めている。
お手製のプリザーブドフラワー額。作り上げることは楽しい。
読書以外で好きなこともいろいろある。料理、絵を描くこと、散歩しながら気の向くままに写真を撮ること。他には、盆栽を育てたり、プリザーブドフラワー額を作ったり……。何かを創作すること全般に興味が止まらない。
ほとんど自宅にいないので、最近はゆっくり料理の時間がとれないが、毎朝欠かさずリンゴジュースを作っていて、お弁当には、マフィンサンドを持参。……料理はやっぱり、生活から欠かせないのだ。
子供の頃は、大きくなったら結婚して、と漠然と考えていた。しかし、家の事情で一家の大黒柱的な立場になってからは、こんな状況じゃ相手に失礼すぎると思うようになり、いつしかまったく考えなくなっていた。
今は、少し状況も良くなり、結婚を考えてもいいのかもしれないな、程度に思い直してはいるが、正直なところ、熱意は非常に薄い。
女性しかいない家庭のせいか、母は娘たちを、娘たちは母をとても大事にしている。その距離は、時に近すぎるためか、暑苦しくて離れたいこともあるが、やはり幸せなことだと思う。
■本を読むことは、学びを深くし自由を教えてくれる
床に座ったり、ベッドに寄りかかったりしながら読書をする。そのままうたた寝に突入するのが、至福のひととき。
自分にとって読書とは、一言でいえば学び。それだけではなくて、今まで得ていた知識や感覚を、より深くしてくれるものでもある。
それに、非日常や知らない別世界に連れて行ってくれる、自由に生きる手だてを示唆してくれる。やっぱり本は、人生に欠かせない。