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私たちって「略奪婚」?”エロい”女性部下から、”サエない”バツイチ上司へ【キス・オブ・ライフ #3】

河崎環さんによる「キス」をテーマにした連載「キス・オブ・ライフ」。第3回はバツイチ男性と結婚し、子供を授かった女性のストーリー。帰宅後はふたりの子供たちを抱き締め、毎日たくさんキスする夫の姿を見て思うことは――。

私たちって「略奪婚」?”エロい”女性部下から、”サエない”バツイチ上司へ【キス・オブ・ライフ #3】

探偵に後を尾けられたこと、あります? 私、あるんですよ。

あんまりない話ですよねぇ、普通。

■私の「略奪婚」の裏側

今の夫がバツイチなんですけれど、私と付き合い始めた頃、まだ既婚者だったんですね。でも奥さんとは離婚を視野に入れた別居中で子供もいなくて、そこはまあ、きっちりしていた人なんです。

ただ、離婚手続きを進めるうちにどうやら私の存在があると向こう側が気づいて、少しでも有利に持ち込むために、奥さんのお母さんが興信所に調査を依頼した、と。

で、私が今の夫と付き合い始めてすぐに、箱根の温泉旅館に行ったときのタクシーがずっと探偵に追いかけられて、後ろからふたりとも写真を撮られてて。後日、その写真や、どこから手に入れたのか私の名刺までが離婚調停の場に提出されたって聞いて、「さすが探偵!」って変な感心しちゃいました(笑)。

でも夫は本当に身ぎれいに事を進めていたので、結局あまり揉めることなく離婚は成立して、私と再婚したんです。やっぱり周りには言われちゃいました、「略奪婚」って。でも現実はそういうメロドラマっぽい言葉から想像されるようなのとは全然違うんですよ……。

■文化系ナイーブ男子は、もう結構

大学院を卒業して、映画広報の仕事を始めて3年目だったから……27歳でしたね。ヨーロッパ映画を主に担当して、メディアにも人脈が徐々に広がり、時差をやりくりしながらクライアントのメディア取材にもアテンドし続けて、長時間労働はあたりまえ。自信もついてきていたけれど、そのぶん私のプライベートは散々でした。

学生時代から付き合って同棲までしていた彼は、新卒入社した零細出版社が合わず早々に辞め、要はフリーター。Webで文芸評や映画評の仕事を細々としていたけれど、決してそれだけで食べていけてなくて、私が生活を支えている状態でした。しかもその私は、当時は仕事が忙しすぎて、あまり家にいられなかった。

このまま結婚するのかなあってぼんやり思っていたら、あるとき「君にはもっといい人がいるよ」って、突然の同棲解消です。もちろん彼には他に相手がいて、年上のバリバリの美熟女編集者。なるほどーって感心しましたよ、世の中の需要供給バランスに(笑)。

線が細くて神経質な文化系ナイーブ男子は、もういいや。そう思いました。精神的にも経済的にも、自立していない男は支え切れないわ、って。で、そこから2年間は、このままじゃ体壊して倒れるなってくらい仕事に生きてたんですけど。

■おじさん上司が、痩せてイケてる男に生まれ変わった

転機が訪れたのは29歳のとき。その年の忘年会で、私すごく酔っちゃって、ワイングラス握りしめて宣言したんですよね。「私、来年一年間で必ず彼氏見つけます!」って。

そうしたら、仕事はできるから尊敬はしているものの、ルックスはもさっとした印象のおじさん上司が「じゃあ、もっと体の線を強調するパンツスーツとか着たら」「もうちょっと髪を伸ばしたら」ってアドバイスし始めて。

あーいかにもおじさんの言うことらしいなぁって思いながら「ハイハイ」と受け流しつつ、「私、結構胸があるんでパンツスーツ着るとエロくなっちゃうんですよ〜」なんて適当に答えてたんです。

そしたら、その上司、森川っていうんですけど、森川がそれからしばらくの間に、みるみる痩せていったんです(笑)。森川、よく考えたら5歳しか年上じゃなかったんですよ。あまりにルックスがおじさんだから、見誤ってました。

痩せて俄然ビシッとカッコよくなった森川がある日、「僕が香央里さんの彼氏になれないかな」って。でも当時は別居中の既婚者。やるなぁ、森川! ですよね(笑)。今考えると、多分彼なりに一世一代の大勝負に出ていたんじゃないかと思うんです。今やそんな人では全然ないですよ。アザラシみたいだし。

再婚後に「なんで私だったの」って聞いたら、「香央里が『私、エロいんです』って言ったのを聞いた瞬間から、僕もなんか見る目が変わっちゃって」って。「私、エロいんです」なんて言ってないですよ……「パンツスーツ着るとエロくなっちゃうんです」とは言いましたけど……。

そんな勘違いで恋愛モードへ秒速シフトチェンジ。なんなんでしょうね、男性って本当に単純ですよね。

■母ひとり子ひとりだったから、自分の家族がほしかった

そんな森川が、長男が生まれた時にむせび泣いたんです。「俺の家族ができた」って。彼、中学生のときにお父さんが病気で亡くなって、ひとりっ子だったので、以来母ひとり子ひとりで育ったんですね。

「俺が、父が亡くなった年齢になる前に子供を持てて嬉しい」って。どこかで、自分の父親と同じ歳まで生きていられるのかどうか、不安に思っていたんじゃないかと感じるんです。

前の奥さんとの間にも子供がほしかったのを、奥さんは子供なんか嫌いだからいらないと言って、彼は傷ついていた。それは離婚の一番大きな原因でした。

未だにね、もう息子は7歳だし、娘は4歳なのに、森川は帰宅すると「おお、元気か〜!」ってふたりとも胸にかき抱いていっぱいチューするんですよ。うちの子たち、森川の遺伝子で体つきがしっかりぽっちゃりしてて、絵面としてはアザラシが仔アザラシ2頭にキスの嵐。

だからあのとき、探偵に後を尾けられまでして箱根に行って「エロい」(←違いますけど)私を獲得した森川のあの大勝負は、この子供たちに降り注ぐキスのためにあったんだ、って。

女が勝負に出るときがあるように、男にも、たとえそれがおじさんでも、「この大一番は外せない!」と人生の勝負に出るときがきっとあるんです。

男の勝負って、仕事だけじゃなくて恋愛にもあるんですよね。おじさんでもね。

河崎 環

コラムニスト。1973年京都生まれ神奈川育ち。慶應義塾大学総合政策学部卒。2000年より子育て、政治経済、時事、カルチャーなど多岐に渡る分野で記事・コラム執筆を続ける。欧州2カ国(スイス、英国)での暮らしを経て帰国後、Web...

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