不倫体質の女から、東大卒の不倫男へ【キス・オブ・ライフ #2】

不倫体質の女から、東大卒の不倫男へ【キス・オブ・ライフ #2】

河崎環さんによる「キス」をテーマにした連載「キス・オブ・ライフ」。第2回ではクールに不倫する女のストーリー。「私が女でい続けられるのは、あなたに入れられているから、じゃない。結婚に夢なんて持たず、他の女の夫を盗んで、優越感にひたっているから。自立しているから」。


室井さんは私の中にゆっくりと入ってきて、一番奥に強く当てたまま動きを止めた。そして潤み切った目で私の顔を覗き込み、うっとりと、またあの言葉を口にするのだ。

「マリちゃんがキレイなのは、こうやって好きな男に入れてもらってるからだよ」

ーーキモっ……と心の声を決して聞かせないように、恥じらうフリで「うん……」と返すと、室井さんは興奮したみたいで、舌を絡めてきた。毎回このやりとりで超絶冷めるんだけど、室井さんが動き始めるとどうでもよくなってしまうのも毎回だ。

あの言葉、裏を返せば「お前に好かれている俺が、こうして入れてやってるからお前は女でいられるんだ」って意味。寒い。ほんと、男のロマンチシズムにどうして女が平身低頭付き合ってやらなきゃならないんだろう。

■「やっぱり誘ってきた(笑)」予感的中

室井さんがうちの社へ来たときは、そこそこの鳴り物入りだった。東大卒、元メガバンクで、コロンビア大学のロースクールでNY州の弁護士資格を取得、帰国後は外資企業の法務を渡り歩いて来たらしい。

米国IT企業の日本進出を得意とするという触れ込みの室井さんをうちのアメリカ人CEOが見つけて、このスタートアップへ招いた。40代だけど、太ってはいない。

そんなにカッコいいわけでもないけど、「へえ、エリートなんだ」って私もちょっとだけ色目を使ったのは否定しない。

転職組で外資IT3社目の私は、室井さんの支援チームの1スタッフという立場。でも、他のスタッフがみんな男性だったり、女性でも小さな子持ちのママだったりで、独身のアラサーが私だけという状況に、私と室井さんの距離が近づくのは早かった。

あるとき仕事中に、クラウドのチャット窓がポンと開いて「一度2人で食事しませんか?」と出たとき、やっぱり来た、と笑った。

■若い男なんかつまらなくて、付き合えない

昔から、どうしても年上や既婚者にばかり目がいってしまう。田舎の女子校だったから、高校時代の初体験の相手は塾の先生。

田舎ではよくある話だったけれど、今だったら通報ものなのかな。大学時代も、一応サークルの先輩や同級生ともしたけれど、子どもっぽいし遊び慣れてないし。

結局、年上で女慣れしていないと魅力的に見えなくて、そこから私の悪い癖、実りのない既婚者遍歴が始まる。

25歳くらいから、周りは手堅く大学の同級生や、新卒で入社した会社で見つけた相手とパタパタと結婚し始めた。けれど、どうしてそんな、ものも知らない、いいお店も知らない、会話の余裕もお金の余裕もセックスのテクニックもないつまらない男たちを、結婚までするほど好きになれるんだろう。

きっと、そんな若い男に満足しちゃう女の子たちも、世間や男を知らないんだよね、ここだけの話。勝ち誇ってキラキラした彼女たちの結婚式にご祝儀を納めるたび、自分にそう言い聞かせてる。

■私の居場所はもう、東京しかない

お互いの恋愛話を打ち明け合う女友達には、こう言われたことがある。

「ねぇ、それってきっと、マリちゃんの家庭環境も影響しているよね」

一人っ子。父は小さな会社を経営していて、一応町では「社長さん」だったし、私を地元の私立女子校に入れてくれるくらいの余裕はあったけれど、家の中では最低の父親だった。

水商売の女たちと遊び回って、母が咎めると突き飛ばしたり殴ったり、そう、不倫野郎でDV野郎ってほんとひどくない?

不況で会社が持ちこたえられなくなると、暴力はさらにエスカレートした。父が立てる大きな音や怒鳴り声も大嫌いだったけれど、逃げるわけでもなくまた父を怒らせて殴られている母の泣き声や、いつも暴力の跡を化粧で隠して「なかったことにする」姿を見るのも嫌いだった。

嫌なものを見たり聞いたりしなくて済むように、塾が終わったら先生と一緒に、先生の部屋に帰った。先生は怒鳴らないし、殴らないし、私のことをすごく大切にしてくれたから。

「マリちゃんは東京の大学へ行ける学力があるんだから、東京へ行ったほうがいいよ」と言ってくれたのは、先生だった。いま考えると既婚者じゃなかったけど、先生はなんでもよく知っていたし、彼の言葉は当時の私には「絶対」だったから、なんか私の中でとにかく東京に行けば自分が救われるような気がしていた。

父の会社はいよいよダメになっていったけれど、父は一人娘の私には甘くて、大学4年間の学費と一人暮らしのお金は出してくれた。大学1年の冬に父のがんを知らされたとき、私の感想は「じゃあ借金が返せるね」というくらい。積極的に実家に帰る気はしなくて、年に2回、いやいや帰省して父の病床に付き合った。

私が就職すると父は意外とあっさり他界し、地方の地主家の世間知らずな娘だった母はホッとしたように自分の実家へ戻った。私が育った実家は、もう存在しない。

■「ちゃん付け」の距離感

付き合った既婚者たちには、共通点がある。みんな、初めは私を苗字で呼んでいたのに、そういう下心が芽生えて「距離を詰めたい」段階か、一度セックスして「獲得」した段階のどちらかで、「マリちゃん」って呼び始める。

ほら、「ちゃん」付けって、既婚者から若い女の子を見たときにちょうどいい距離感なんだと思う。呼び捨てにするほどあれこれは背負わない関係だけれど、適度に「俺の女」ってマーキング。彼らのずるさをわかっていて選ぶ私も、きっとずるいんだと思うけれど。

室井さんの「マリちゃんがキレイなのは、こうやって好きな男に入れてもらってるからだよ」っていつもの言葉。あれは本当は、ああ言うことで室井さんがセックスレスになっている自分の奥さんを罰しているんだってことを、私は知ってるんだ。

奥さんは、東京生まれ東京育ちの、なんかすごく家柄がいい人らしくて、今は娘さんの小学校お受験にはまっているらしい。そんな「高級」な女(ひと)の夫をつまみ食いできている自分に、優越感を感じる。

「女は子供産むと女を捨てて、オバさんになっちゃうんだよね」と言う室井さんは、奥さんが室井さんに冷たい「ブス」なのは室井さんが「入れてやらない」からだ、ってことにしておくとプライドが保てるんだろう。

■私が女でいられるのは優越感のおかげ

でも、私がキレイ……というか女でいられるのは「好きな男」に「入れてもらってる」からじゃなくて、他の女の夫を盗んでいる優越感のおかげだということを、室井さんはわかっていない。だって本人に面と向かって言ったことはないけど、室井さんのこと、別に好きじゃないもの。

私は既婚者に別れてもらって結婚したいなんてかわいい夢は見ない。『ゼクシィ』なんかをチラつかせて男に結婚を迫ったりはしない。だって結婚に夢なんてないから。

どうせ結婚なんてしたら、まして子供なんか産んだら、「女はみんなオバさんになって」、セックスレスになって、浮気する夫に殴られたりブス呼ばわりされたりするんだろう。母みたいに、あるいは私の「彼」たちの奥さんたちみたいに。

そんな立場にわざわざ自分から憧れるわけがないじゃない? 誰? 女はみんな結婚出産したがってるって思ってるのは?

やだ、心配なんかされると、なんか惨めになるからやめて。都合のいい女って呼ばれるのはよくわかってる。でも同じように、あの既婚者たちも私にとっては結婚を迫ってこない、都合のいい男なんだよ。

私は私の父をずっと家庭から引き離していた、浮気相手の女でいい。愛人でいい。私は男に依存してないもの、何が悪いの。結婚したら女としては終わりでしょ。

だって女って結局飽きられる運命なわけでしょ? だから自立していかなきゃ。

室井さんが案外しつこくて面倒臭くなったら、また私が転職すればいいだけのこと。田舎だったら結婚しない女が生きていける余地はないけれど、東京ならどうにかなるって、強めに信じてる。

妻から、自殺未遂をした夫へ【キス・オブ・ライフ #1】

https://p-dress.jp/articles/2767

河崎環さんによる「キス」をテーマにした連載がスタート。キスには恋愛や性愛のキスだけでなく、親が子にするキス、海外の挨拶としてのキス、出会いのキス、別れのキス、いたわりやねぎらいのキス……いろいろあります。各々の人生のワンシーンを印象的に切り取るキス、読むと思い出される情景があるかもしれません。

この記事のライター

コラムニスト。1973年京都生まれ神奈川育ち。慶應義塾大学総合政策学部卒。2000年より子育て、政治経済、時事、カルチャーなど多岐に渡る分野で記事・コラム執筆を続ける。欧州2カ国(スイス、英国)での暮らしを経て帰国後、Web...

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