【鑑賞注意】モデル業界に渦巻く嫉妬と欲望……毒に染まった美しき悪夢『ネオン・デーモン』- 古川ケイの「映画は、微笑む。」#1
『ネオン・デーモン』はファッション業界に渦巻く、美しき女性たちの嫉妬と欲望を描いた話題作。監督は『ドライヴ』のニコラス・ウィンディング・レフン氏。話題の新作映画を紹介する本連載では、エル・ファニングを主演に迎えた『ネオン・デーモン』の見どころや注目ポイントをご紹介します。
みなさま、はじめまして。「木曜日のシネマ」という新作映画紹介サイトを運営しております、古川ケイと申します。
今月よりDRESSで新作映画レビュー「映画は、微笑む。」を連載させていただくことになりました。
この連載では、DRESS読者のみなさまに、話題の映画やおすすめの作品を紹介していけたらと思いますので、どうぞよろしくお願いします!
■映画紹介の前に、簡単に自己紹介
映画との出会い
わたしと映画の出会いは、父の仕事の都合で行ったアメリカ・カルフォリニア州にある、とある郊外型のシネコンでした。まだ日本にはシネコンがなかった頃のお話です。
あまりの広さとスクリーンの大きさに圧倒され、それ以来、映画が大好きになりました。
帰国後も、毎週末レンタルビデオを借りてくる父の趣味に付き合って『ゴースト/ニューヨークの幻』、『あなたが寝てる間に……』、『めぐり逢えたら』などのラブストーリーを、よく一緒に観ていました。
映画を仕事にして
漠然と「映画に携わる仕事がしたい」と思う中、新卒で独立系の映画配給会社に入社し、映画の宣伝を行う部署に配属となりました。
渋谷や原宿のカフェを回って担当作品のチラシを置いてもらったり、雑誌やTV局へ売り込みをしたり。
試写会やイベントの運営、予告編やポスターの制作、憧れのハリウッド俳優や監督の来日アテンドやインタビューの立会いなどもやりました。忙しくも充実した日々を送っていましたが、当時の映画業界はあまりに激務……。
30歳手前でデスクワーク中心の仕事へと転職しましたが、毎週末、大好きな映画館に足を運びながら、いつか映画の魅力を人に伝えることができたら、と思っていました。
癒されたいとき、元気になりたいとき、泣きたいとき、スカッとしたいとき――DRESS読者の皆さまにとって、この連載が映画を観るきっかけになりましたら、うれしいです。
■『ネオン・デーモン』(ニコラス・ウィンディング・レフン監督)
前置きが長くなってしまいましたが、第1作目の作品としてご紹介したいのは、ニコラス・ウィンディング・レフン監督の最新作『ネオン・デーモン』です。
ニコラス・ウィンディング・レフン監督ってどんな人物?
1970年、デンマーク生まれのN.W.レフン監督は、2011年にライアン・ゴズリング主演の『ドライヴ』でカンヌ国際映画祭の監督賞を受賞し、一躍脚光を浴びました。
2014年のカンヌ国際映画祭では審査員をも務め、「次世代ヨーロッパにおける偉大な映像作家」と称賛されています。
ニコラス・ウィンディング・レフン監督の作品の特徴は?
そんなレフン監督の映画の特徴は、過激な暴力描写と、色彩コントラストの強い美しい映像。
『ドライヴ』では、ほんわかしたラブストーリー風味の前半から、一気に残虐的な暴力描写で畳み掛け、世界に衝撃を与えました。
本作『ネオン・デーモン』でも、華やかなファッション業界から一変、その裏で起こる悪夢が強烈に描かれます。
『ドライヴ』を超える衝撃。無垢な夢が邪悪な毒に染まる
「美に囚われた人々の緊張感溢れる人間関係をサスペンスフルに描きたい」という願いから企画が始まったという『ネオン・デーモン』。
ストーリーは、ジョージアの田舎町からLAに出てきたばかりの16歳のジェシー(エル・ファニング)の美しい撮影シーンからスタートします。
ネットで知り合ったカメラマン志望の青年が撮ってくれたその写真を手に、モデル事務所を訪れたジェシーは、すぐにオーナーから未来の活躍を保証されます。
有名カメラマンや一流デザイナーたちから、次々に見出されていくジェシーですが、同時にモデル仲間の女性たちからは激しく妬まれていきます。
美と官能と裏切り。サスペンスフルな悪夢の始まり
「その鼻、本物?」「誰とヤッてるの?」「事務所のゴリ押しね」など、モデル仲間のサラやジジから心ない言葉を浴びせられるジェシー。
とあるオーディションで見向きもされなかったサラから「どんな気分?」と聞かれ、彼女たちの冷たい態度は自分への羨望の裏返しでもあるということに気づいたジェシーは、次第に自らの美しさに自信を持ち、野心を露わにしていきます。
そんな中、自身が暮らすモーテルの管理人ハンク(キアヌ・リーヴス)に身の危険を感じ、ジェシーは、何かと面倒を見てくれるメイクアッブアーティストのルビーを頼って、彼女が留守番をしている豪邸へと逃げ込みます。
しかし、その場所こそがこれから起こる悪夢の始まりだったのでした……。
『ネオン・デーモン』の見どころは、エル・ファニングが挑む、美しきヒロイン
本作で見逃せないのが、主人公ジェシーを演じたエル・ファニングの透き通るような美しさ!
子役時代から活躍する姉・ダコタ・ファニングの妹として知られていたエルですが、ソフィア・コッポラ監督の『SOMEWHERE』や、オーロラ姫役で出演した『マレフィセント』でその存在感を示してきました。
本作では、今までの純粋・可憐な可愛さだけでなく、徐々に自信と野心とを解放させていくヒロインのダークな魅力をも開花させています。
スクリーンに溢れる彼女の万能感に、青春時代に『バッファロー'66』を観てクリスティーナ・リッチに憧れたわたしは、少し懐かしい気持ちになりました。
また『マッド・マックス 怒りのデス・ロード』でイモータン・ジョーの妻の一人を演じたアビー・リー扮する、モデル仲間のサラにも注目。
実際に人気モデルとしても活動するアビーが、ジェシーに対し激しい嫉妬を露わにする美しくも残酷なサラを見事に演じきっています。
「EMPORIO ARMANI(エンポリオ・アルマーニ)」や「Saint Laurent(サンローラン)」「MARINA HOERMANSEDER」などのハイブランドが衣装を提供しているのもファッション好きには見逃せないポイントです。
ただし、本作にはかなりグロテスクな描写があるため、思わず目を覆いたくなる人も多いかもしれません。美しい映像に退屈はしませんが、後半の唐突かつ残忍な展開ゆえに、観る人を選ぶかも……。
ホラーや血が苦手な方や、これまでにレフン監督作を観たことがない方は、注意してくださいね!
■『ネオン・デーモン』公開情報
『ネオン・デーモン』※R15+
2017年1月13日(金)、TOHOシネマズ 六本木ヒルズほか全国順次ロードショー
監督:ニコラス・ウィンディング・レフン
出演:エル・ファニング、カール・グルスマン、ジェナ・マローン、ベラ・ヒースコート、アビー・リー、キアヌ・リーヴス
配給:ギャガ株式会社
公式サイト:
http://gaga.ne.jp/neondemon/
© 2016, Space Rocket, Gaumont, Wild Bunch
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