Illustration / Yoshiko Murata
DRESS MAY 2014 P.25
利用価値のある女【甘糟りり子の生涯嫁入り前】
仕事ができる女ほど人脈やコネクションを期待されてしまい、そんな思惑をわかりつつも利用価値アピールをしてしまう女ごころ。
強引に青山のバーに呼び出された。
これが妙齢の男性だったら、この連載にぴったりなんだけれど、残念ながら待っているのは四十代半ばの女友達。彼女は、仕事できる、お酒強い、なかなか美人。ちなみにバツ一の独身、目下恋人捜し中です。*募集中というより、捜している、というのが正しい。
仕事ができるゆえに、稼ぎもいいし、人脈もあるし、頼りになる。それは魅力のうちだと私は思うのだけれど、彼女いわく、「女は仕事で成功すればするほど、モテなくなる」。自分にちやほやしてくれる男はしょせん利用価値目的だからと、時々落込んでいる。人脈やコネクションや決定権をあてにされる悩みは、成功した人だけが味わう、贅沢な寂しさかもしれないね。
バーでは、若い男の子と待ち合わせているそうだ。デート? と聞くと、
「だからぁ、私はそう思いたいんだけど、向こうは、どうせ接待の延長っていうか、私と飲みニケーションしといたほうがこの後有利って感覚だよ。女として見られてないの、私なんて」
と弱気な御託を並べつつ、二人の間に男女の空気があるのかどうか、私に見極めて欲しいそうだ。で、小一時間ぐらいで退散してくれ、だって。
「邪魔者がいなくなったら、別の場所でゆっくりするわけ?」
「んなこと、あるわけないでしょう。私がそういう対象のわけないもん」
「じゃあ、なんで私のこと、追い払うのよ?」
「もしも、万が一、ってこともあるかもしれないじゃない。ないか……」
はっきりいってうざ〜い! でも、そんなうざさが、人間臭くておもしろかったりもする。
裏通りの地下にある、重厚な扉のバーに私は向かった。友達が仕事で知り合ったその男の子は二十五歳だそう。
香川真司選手と同じ歳である。田中大投手もか。芸能人でいったら松坂桃李とか三浦翔平とか、みんな若い!!
カウンターの奥に二人は座っていた。私に気がついた友達が手をふると、二十五歳はさっとスツールから降りて、私のために椅子を引き、細長い身体を折り曲げた後、自己紹介をした。
友達は、赤ワインの酔いのせいか、二十五歳にのぼせているせいか、ほんのりと頬が赤くなって、いつもよりきれいに見えた。あ、暗いからか。
こちらにしてみれば、二十五歳なんて、社会に出たばかりの彼いわくプラスアルファに思えるけれど、「そんな呑気なこといってたら、出遅れます。そろそろ自分の専門っていうか、セールスポイントをはっきりさせとかないと」なんだって。エアリーな髪型の彼の仕事はIT関連。次々と新しい試みや勢力が生まれては、淘汰されていく分野だ。人脈やコネクションは、いくらあっても足りないぐらいなのだろう。香川真司と同じ歳だし。←関係ないか。
ジンジャエールを飲み干すと、きっかり一時間で、二人を残して店を出た。
彼女は、利用価値を目的に近寄られても仕方がないと、私は思った。だって会話の九割が、「こういう人に会っておきなさい」「この場所は押さえておいたほうがいいわ」「これ関連の本、今度送っておくね」「なんかあったら、相談して」なんだもん。あれは、谷間ばっちり&ミニスカートのくせに、「私のこと性的な目で見てるぅ」って騒ぐのと同じですよ。
自らぐいぐいとそっちに仕向けているのだ。逆マイ・フェア・レディというか。まあ、女も四十過ぎると、そういう楽しみも味わいたくなるものかもしれない。私は、いまだに自分のことで手一杯だから、そういう願望は今イチ、ぴんとこないのだけれど。
正直な指摘をすると、彼女はいじいじと、だって、利用価値アピールでもしないと相手にされないもん、という。オヤジなんだか乙女なんだか、はっきりしてくれ!
稼ぎも人脈も決定権も学歴も肩書きも美貌も巨乳も美脚も、私は、その人の個性のひとつだと思う。そこにひかれることは、正直なこと。でも、それは単なるきっかけであって、それから先に築かれる人間関係は、それだけではないはず。きっかけが必要なくなったら、お品書きみたいな個性は、小出しにする程度がちょうどいいのではないだろうか。
ちなみに、私が帰った後、明け方まで飲み明かし、最後にラーメン食べて帰ったらしい。彼女と二十五歳との発展は……、なさそうですね。