花見の場所取りは社会人デビューの儀式!?
そろそろお花見シーズン。場所取りを担当するのはどこの会社でも下っ端、新入社員だ。それを経験して、社会人としてスッとなじんでいく。そんな彼らをやさしい目線で励ますソメイヨシノが、日本人に愛され続ける理由は――。
**「私」(40代ワーキングママ由樹子)の目を通した「ちょい足しボタニカル生活」をお届けします**
「1年が経つの、早いなあ」
“新入社員研修会場”と張り紙された会議室を見て、私はつぶやく。今年も緊張の面持ちで真新しいスーツに身を包んだ新入社員がやってくる。
私の会社の新入社員が最初に任される仕事は「花見の場所取り」だ。青いビニールシートの上で寒さに震え場所取りをする。つまみが足りないとか、お酌のときのビールのラベルの向きが違うとか、おじさんたちに不条理な縦社会の洗礼を受ける。「なんでみんなで花見しなきゃいけないの?」などというゆとり発言はタブーだ。
「ママ、どうして桜はみんなで一斉に咲くの?」
「そういえば、どうしてかしらね?」
小5のさるおに聞かれて答えに詰まり、花屋のおばさんに聞いたことがある。
「ソメイヨシノは、人間が接ぎ木して増えるんだよ。あいつらはクローンだね。だから一斉に咲いて一斉に散る。それにさ、植物はふつう葉っぱが先に出て花が咲くのに、ソメイヨシノは花が先。それも不思議だろ? ソメイヨシノは日本人の好みをよーくわかってるんだよ」
たしかに、枝が見えないほど圧倒的な華やかさで一斉に咲きパッと散るソメイヨシノは、日本人にこよなく愛されている。
日本人は期間限定モノに弱い。私も「秋限定栗」のハーゲンダッツに、つい手が伸びる。日本人は「みんなで力を合わせる」ことも大好きだ。事故が多発しながら長い間続けられた、運動会の組体操は「全員一致団結」好きの日本人マインドを刺激する。
AKB48は、クラスに一人くらいはいる、美人すぎず手が届くくらいの女の子の集団だ。集団で力を合わせることで可愛さが増す。大騒ぎしながら卒業していく段取りも、ソメイヨシノを手本にしているとしか思えない。
新入社員が社会に出てまず身につけなければならないのは、周囲に気に入られるよう自分を武装することだ。同じようなスーツを着て、同じようなバッグを持つ。ビジネスマナーというわかりやすいルールに自分をあてはめ、「常識」という鎧を身につけ画一化させていく。そうでなければ男性社会に受け入れてもらうことができない。会社組織に入ったとたん、その壁の高さに愕然とするはずだ。
「花見の場所とり」は、そんな社会に仲間入りするための儀式なのかもしれない。理不尽だけどとりあえずがんばれ!
ソメイヨシノは高い枝からそんなふうに新入社員を励ましてくれているような気がする。