レ ゼクスクルジフ ドゥ シャネル コレクション。それは、稀少なエッセンスと、精緻で巧妙な調香が組み合わせられたシャネルのクリエイションの結晶です。どの香りもマドモアゼル シャネルの伝説を物語り、シャネルの永遠のスタイルとエレガンスを象徴するフレグランス コレクションです。
胸に秘めた愛、CHANELのガーデニアを纏うとき
ゆっこさんが愛用中の香水はCHANELの「ガーデニア」。日々お気に入りの香水は変わっていくけれど、中でも特別な思いがあるそれを纏う度に、母の顔が思い浮かぶといいます。そんなゆっこさんとガーデニアとの物語。
香水と自分の物語を語ることなんてできるだろうか。
香りはほとんど直感で選んでいるし、お気に入りの香水をつけている時期に激しく熱い恋をしていて、その香りを嗅ぐと相手の目の色や髪の色、一緒に過ごした季節の風の匂いまでを思い出す、なんてこととは無縁になってしまったし、そういう香水は想い出と共に既に手放してしまった。
今は穏やかな恋心のような気持ちで旦那と日々を共にし、違う意味で激しい感情と戦いながら子どもを育て、自分のキャリア形成に試行錯誤しながら仕事をしている毎日だ。恋心や激情とは無縁ながらも、まぁまぁ激しい感情に日々揉まれながら過ごしている。
そんな中、朝洋服を着る前に、その日1日をイメージして、冷静でいたいときはユニセックスな香りを選び、忙しくなりそうなときはあえてフローラルな香りを選ぶ。だから私にとって「香り」は、精神のバランスを取るための必需品と言っても過言ではない。
今回、ひとつの香水についての記事を依頼されたときに、どの香水について書こうかは、頭ではすぐに決まっていた。日々いろいろな香水に出会い、そのときどきのお気に入りは変わるのに、特別な香水はひとつしかなかった。
しかし、なかなか文章が進まなかった。なぜその香水が自分にとって特別なのかに気付いたときも、どこか否定する思いがあったからだ。
「この香りを嗅ぐと落ち着く」「元気が出る」「優雅な気持ちになる」という単純な気持ちで選んでいた香水への感情を分解すると、たどり着いたのは母親の存在だった。
■それはCHANELのガーデニア
私がCHANELのガーデニアと出会ったのは、2018年夏頃。
S/S(春夏)限定のコスメを買いに、池袋西武のCHANELに立ち寄ったとき、普段通常店舗では販売していない香水のシリーズの「レ ゼクスクルジフ ドゥ シャネル - オードゥ パルファム」を今特別に販売している、と教えてもらった。
香りを試す前から既に、「この香水シリーズの中に絶対好きな香りがある」と感じていた。そこで出会ったガーデニア。この香りが無条件に心を掴み離さなかった。この香りを手放したくない、という思いが強く、こんな気持ちになることもあるんだな、という思いでガーデニアを購入した。
どこかで嗅いだことのある香り。でもどこかわからないけど、この香りを嗅ぐととても穏やかな気持ちになる。特に仕事で息が詰まりそうなとき、ガーデニアを纏うと忘れていた深呼吸ができる。
ガーデニアという香水はCHANELというブランドの象徴である、白いカメリアの花をイメージして作られた香水らしい。でも、カメリアの花には香りがないから、香り高いガーデニアの花をメインに、ジャスミンやオレンジブロッサムなど白い花々で調香した香水である。
それまでは貴重なガーデニアの花から抽出できる量が限られていることから、数年に一度しか販売されていなかったらしく、現在も限定店舗でしか購入ができない。とても落ち着く香りで、強く惹きつけられた。
■ガーデニアの香りから思い浮かぶ母のこと
しばらくガーデニアを愛用する中で新しい香水に出会っては、しばらくガーデニアを使わない時間が長くなる。でもふとしたとき、物思いに耽りたいときや息が詰まりそうなときに、無性にガーデニアの香りが嗅ぎたくなって、お風呂上がりにそっとつけることがある。買ったばかりのときとは違う、もう少し冷静な気持ちで香りと向き合うと、いつも不思議と母の顔が思い浮かぶ。
思春期が終わった頃から、夕食後に母と散歩するのが好きだった。少し歩くと汗ばむような季節の夜になると、散歩の途中に母親が「クチナシの香りだ」と、その香りの元を突き止めようとふらふらと歩くのに付き合ったものだ。
秋になると金木犀の香り。母は花の香りで四季を感じ、それを私に教えてくれた。もう詳しくは覚えていないけど、母と散歩するときは大体受験や就活で悩んでいたし、鬱屈とした日常の中で感じたことを、ただ聞いてもらっていたような気がする。
母はセレクトするモノのセンスが良い。洋服やアクセサリー、「自分の色」として20年以上変わらないネイルの色や香水。選ぶものすべてに明確な理由があり、少なからず私もその影響を受けているところがある。母のことは基本的に尊敬しているし、とても大切な存在だ。今も仕事と子育てを両立しようと日々奮闘している私を支えてくれている。ただ、そういう関係を作り上げるまでは簡単ではなかった。
少し前までは、子どもがいながら仕事をすることに対して理解が薄く、ちょっとでも部屋が散らかっていると子どものアレルギーを引き合いに出し、子どもが痩せても太っても、私の用意する食事に問題があるのではないかと、やんわりとアドバイスをしてきた。専業主婦として生きてきた母には「私が何のために働くのか」を頭では理解していても、どこか母である私が働くことへの偏見があったのだ。
折に触れ、大人になってからも「家庭・子育て・仕事」について衝突したし、なぜ私が仕事をしたいかについては何度も話をしてきた。私は母の凝り固まった価値観を押し付けてくる部分を反面教師にしている節があり、経済的自立ができるようになりたい気持ちや、社会と繋がりながら自己実現をしたい気持ちが強い。
■無意識のうちに私を落ち着かせる香り
しかし振り返ってみると、口では何やかんや言いながらも母はいつでも私を応援し続けてくれて、私と旦那で手が回りきらない部分に関して、育児にもずっと手を差し伸べてくれていた。
母のようになりたくないと思いながらも、母なしにはやっていけない自分の未熟さを憂う気持ちと、母のように自分の子どもや孫に無償の愛情を注ぎ続けられる人間になりたいという気持ちが複雑に入り乱れるのだ。
そして今回、この記事を書くにあたり、母の愛用している香水の調香を調べてみたら、奇しくもガーデニアに調香されているジャスミンが入っていた。公式には出ていないが、チューベローズもほのかに香り、母が使用している香水を名指しし、その香水に似ている、という口コミすら目にしたのは驚いた。
当たり前なのかもしれないが、どこかで強烈に母に対しての想いを持っている自分を認めざるを得なかった。そして、その香りがどことなく「母の香り」として、どんなに強がっていても無意識に自分を落ち着かせていたことも。
昨年、下の子どもが保育園を卒園した。卒園の時期が近くなったときに、母が「もう来年の夏は、孫と保育園の帰り道にクチナシの香りを一緒に嗅げないな。昔、よくあなたとも一緒に嗅いだよね」とつぶやいた。
子どもはよく、その時期になると「お花の匂い嗅がせて」と、母に抱っこをせがんだという。季節を花の香りで感じる、という情緒あふれる習慣が、このまま子どもに受け継がれてくれれば良いと心から思う。
私にとっての「ガーデニア」のように、弱っているときはそっと寄り添い、立ち向かうときは同じ方向を向いてあげる。そういう姿を子どもたちにも見せていけたらいいなと思う。