LINEで始まりLINEで終わった、猫みたいな“本心掴めない系男子”との恋
「のむさんが、私のそばにいてくれる猫になってくれたらいいな」。LINEの中で、私だけの猫になってくれる彼。夜な夜なやりとりを重ねても、気まぐれな彼の真意は読めず……。エッセイストの大島智衣さんが、LINEで始まりLINEで終わった、ほろ苦い恋の思い出を綴ります。
あんなLINEを送ってきたくせに、私のこと1ミリもなんとも思ってなかった?
そう言ってやりたい恋をした。
*
猫みたいな男の子だった。
バイト先で出会った“のむさん”は、周りの状況が正しく見えていて、いつだって手際よく仕事をこなしていた。
でもきっと、プライベートでは、自由奔放で勝手気ままに違いない。だってみんなのなかで一緒に笑っていても、彼だけはどこか、今すぐにでもひょいと背を向けて、タタタッと他所へ行ってしまうような感じがあった。誰かといても、ひとりでいても、自由。
猫好きの私はそんな彼の雰囲気が気に入って、職場内だけで共有されているスタッフの連絡先一覧から彼の携帯番号をスマホのアドレス帳に登録した。すると、LINEにも彼が自動で友達登録された。
急に個人的にメッセージを送るのはどうかとは思ったけれど、彼と繋がりたい気持ちが勝ってしまった。
「今日はおつかれさまでした〜。のむさんのおかげで助かりました!」
なんてメッセージを送ってみると、「こちらこそ!」と意外にもすぐに返事が。
それからは日々ちょこちょこと、なにかと理由をつけてLINEを送った。彼はそのたびにきちんとメッセージを返してくれた。
お互いに食べることや呑むことが好きということもあり、おいしいものやお気に入りのお店を教え合ったりと、話題は尽きなかった。ヘンにスタンプを送ってよこさないところも、ポイント高く好印象だった。
「のむさんが、私のそばにいてくれる猫になってくれたらいいな」
ある夜の、些細な日常会話のLINEのやり取りの末に、私はそう送った。
するとすぐに既読になって、イヤともイイよとも言われなかった。ただ、「おーしまさん、おもしろそうだからなー」と曖昧で呑気な返信が来た。
「にゃむさん。これからは、にゃむさんと呼びます」
そうさらに宣言してみたら、
「猫は呼び名を選べませんから」
と、さらり洒落たもの言い。本意ではないにしても許容してくれたものと、いいように受け取った。
*
それから“にゃむさん”は、「おかえりにゃ」とか「おやすみにゃ。猫は眠くなりました」とか、折りに触れて猫になってくれた。LINEの中で。
それはなんだか、相当にこそばゆかったけれど、正直ウヒヒって思ってしまったし、LINEというふたりだけの空間で、語尾や相づちがにゃーにゃー猫語になってくれちゃう彼が、“私だけの特別な存在になってくれたっぽい”と思えるのが確実にうれしくて、その猫を私は日に日に愛していった。
けれど。私とにゃむさんの関係は一向に変化する気配はなく……。
友達でも家族や恋人でもない相手としては、異例の数のLINEを夜な夜な重ねたというのに、にゃむさんはいつまでたっても、“猫、時々、本心の掴めない男子”のままだった。
そうして次第に、彼からの返信は忙しさを理由に遅れがちになり、手短かになっていき、ラリーは続かなくなった。彼とのトークルームは日々下へ下へと追いやられ、ずいぶんとスクロールしないと見つけることができなくなってしまった。
いかにも、猫らしいといえば猫らしい。
〈時たま裏路地で日向ぼっこしている野良猫〉と、〈それを見つけてしゃがみ込み、猫が飽きて去ってしまうまでのひとときを、愛でさせてもらうだけの通りすがりの人間〉みたいな関係、でしかなかったのかもしれない。
*
だけどさ……何ていうか、さ?
LINEでにゃーにゃー言っときながら、私への気持ちがまったくなかったとは、ンなこたぁ言わせないにゃよ!! あれはいったい何だったの!? イチャついたよね私たち? にゃんにゃんイチャついたよね、LINEで!
あれ、ただの戯れ? いや、気まぐれ? あ、そっか……そっかそっかゴメン。そんなこと、はなっから私自身がよくわかってたよね。彼ってば猫みたいって。そう、まさに、猫だった。
でもね、恋する側はさ、いつだって「脈はあるのか?」「希望はあるのか?」「彼にその気はあるのか?」って相手の言動をひと言単位、1ミリ単位で観測してっからね?
つぶさにアナリティクスしてる、集計取ってるよ、うん。で、ひとかけらでも望みと取れるものがあらば、それ絶対に逃さないし、スクショ保存して永遠に手放さないから!
それが、クールな男子がじぶんだけに送ってくる「猫デレ語」だったりするわけで。
ほんと、ずるい。猫はずるいって……。
だから、どうしたって言ってしまいたくなるのだ。
「あんなLINEを送ってきたくせに、私のこと1ミリもなんとも思ってなかった?」と。
だけど、気まぐれな猫に何を言ったところで。
だってそもそも、彼を猫にしたのは、私なのだ。
「猫になって」なんて、言っちゃきっとダメだった。
「大好きだった。恋人になってほしかった」
──ホントは、そう言ってやりたい恋をした。
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