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ゴッホの夢とは、死の真相とは? 天才画家の謎に迫る3つのメディア

わずか37年の生涯に2000点以上もの作品を残した画家、フィンセント・ファン・ゴッホ。天才とも狂気の人とも言われるその生涯は、多くの謎や伝説に彩られています。鮮やかな色彩に潜む思いとは? 「耳切り事件」の真相は? 本当に自殺だったのか? 秋から冬は、ゴッホの謎に新たな光を当てる映画・ノンフィクション・美術展に注目です。

ゴッホの夢とは、死の真相とは? 天才画家の謎に迫る3つのメディア

こんにちは、島本薫です。

物思う秋、「夢」や「あこがれ」、はたまた「謎解き」や「真相に迫る」といった言葉を聞くと、なんだかどきどきしませんか?

本日は、芸術の秋にふさわしい、ミステリアスな画家の話題をお届けしましょう。

■謎多き画家、フィンセント・ファン・ゴッホ

「ひまわり」や「夜のカフェテラス」など、鮮やかな色彩や情熱的なタッチで知られるゴッホですが、ひとりの人間としては、光よりも陰多き人物だといえるでしょう。

19世紀のオランダで牧師の家に生まれ、一度は聖職者の道を志しながらも挫折の末に絵筆を取り、37年の人生を駆け抜けたゴッホ。“炎の画家”というイメージが定着してしまった背景は、大きく分けてこの3つにあるのではないでしょうか。

1. 光を求め、南仏に芸術家の理想郷をつくろうとした
2. 発作的に自分の耳を切った
3. 銃で自らを撃ち、命を絶った


とはいえ、その行動の奥にあった画家の思いは謎に包まれたまま。とくに、その死は本当に自殺だったのか、今もさまざまなメディアに取り沙汰されています。

映画で、本で、展示会で――この秋、ゴッホの3つの謎に新たな光が投げかけられました。

■日本に恋い焦がれた画家の思いにふれる「ゴッホ展 巡りゆく日本の夢」

画家を志してからのわずか8年あまりに、油絵だけでも800点以上の作品を残したゴッホ。その大きな転機になったのは、パリで日本の浮世絵に出会ったことでした。

その鮮やかな色彩の対比や大胆な構図に魅せられたゴッホは、日本を理想郷として夢見るようになり、ついには「フランスにおける日本」を求めて南仏アルルへ旅立ったそうです。

南仏の澄んだ光の下で、浮世絵のような「影」のない世界を描こう。絵師・彫師・摺師といった浮世絵の分業にならい、芸術家のユートピアをつくろう。

ゴッホがアルルの光を求め、ゴーガンを招いて共同生活を始めた背景には、そんな日本への熱い思いがあったといわれています。

「この土地は、日本のように美しく見える」
「画家たちの天国以上、まさに日本そのものだ」

画家ゴッホの日本への夢とあこがれをさまざまな角度から見つめ、さらにはゴッホにあこがれた日本の画家たちを紹介する美術展「ゴッホ展 巡りゆく日本の夢」は、東京都美術館で1月8日まで、京都国立近代美術館では1月20から3月4日まで開催されています。

■「耳切り事件」の真相に迫るノンフィクション『ゴッホの耳―天才画家 最大の謎―』

一方、ゴッホの人生に取り返しのつかない影響を与えたのが、「耳切り事件」でした。これにより、破綻寸前だったゴーガンとの共同生活には終止符が打たれ、ゴッホはあれほど愛したアルルの地を離れざるを得なくなります。

とはいえ、この事件とはいったい何だったのか? わかっているのは、「ゴッホが自分の耳を切り落とし、娼館を訪れて女性に贈った」ことだけ。

なぜ耳を切ったのかはもちろん、なぜ自分の耳を贈ろうとしたのかもわからない。

それどころか、「耳そのものを切り落とした」のか「耳たぶの一部を切った」のか、それすら曖昧であると知ったある女性が、事件の真相をつきとめようと立ち上がりました。

果たして、ゴッホは「どう」耳を切ったのか?
耳を「贈られた」女性とは誰なのか?
事件後、アルルの人々はゴッホを危険人物として追い出したのか?

当時の記録を丹念に調べた末に浮かび上がる“真相”に、誰もがほうっとため息をつくことでしょう。

■ゴッホの死の謎を探るアートサスペンス映画『ゴッホ 最後の手紙』

「美術展」が作品から感じるゴッホ、「ノンフィクション」が資料から読み解くゴッホだとすれば、映画『ゴッホ 最後の手紙』はゴッホへの敬愛が生んだアートです。

なんと、全編がゴッホの「動く油絵」で構成されているのですから……!

ゴッホの最後の手紙を託された青年が、真実を求めて彼を知る人々を尋ねてゆくというストーリーに合わせ、ゴッホの描いた肖像画の人物が話し出し「星月夜」や「麦畑」に描かれた風景が再現されていくのですが、これがすごい。

あらかじめ肖像画の人物に似た役者を選んで撮影し、キャンバスに投影された映像をゴッホのタッチの油彩画に仕立てるという、膨大な手間をかけて作られた「ゴッホの絵によるアニメーション」。その迫力もさることながら、ゴッホの人生をゴッホ自身の絵で描き出そうという作り手の真摯な想いに胸を打たれます。

ゴッホの死は「銃による自殺」とされていますが、自分で引き金を引いたにしては銃創が不自然なこと、銃の出所が不明な反面、携えていたはずの画材道具が消えていることなど謎が多く、自殺説は疑問視されてきました。

人というものが一面的に語れないように、死もまた一言では語れない。自殺と他殺、自殺と事故の間にもさまざまな色合いがある――そんなことをしみじみ考えさせられる、美しい映画です。

島本 薫

もの書き、翻訳家、ときどきカウンセラー、セラピスト。 大切にしている言葉は “I love you, because you are you.” 共感覚・直観像記憶と、立体視不全・一種の難読症を併せ持ち、自分に見えて...

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