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『コウノドリ』第1話――新シリーズのテーマは「お母さんの生き辛さ」

綾野剛主演の人気ドラマ『コウノドリ』第1話のレビューをお届けします。出演は、綾野剛、星野源、松岡茉優、坂口健太郎、吉田羊、大森南朋ら。産科医療の現場をリアルに描くドラマです。号泣必至なので、見るときはハンカチを用意しましょう。

『コウノドリ』第1話――新シリーズのテーマは「お母さんの生き辛さ」

綾野剛主演の金曜ドラマ『コウノドリ』の新シリーズが10月13日からスタートした。産婦人科医でありつつ、謎の天才ピアニストの顔を持つ鴻鳥(こうのどり)サクラを主人公に、リアルな産科医療の現場を描く。原作は講談社『モーニング』連載中の鈴ノ木ユウによる人気コミック。

出演は、主演の綾野のほか、クールな産科医・四宮ハルキ役に星野源、研修医から産科医になった下屋加江役に松岡茉優、同じく研修医から新生児科の専門医になった白川領役に坂口健太郎、陽気な助産師長・小松留美子役に吉田羊、若い医師たちを見守る周産期医療センターのセンター長・今林貴之に大森南朋という布陣。

2015年に放送された第1シーズンと同じメンバーだが、2年が経過してそれぞれがバリューを高めた現在はオールスター感が漂う。綾野剛、星野源、坂口健太郎という塩顔男子トップ3が一堂に会するのだから、その方面がお好きな方はたまらないはず。劇中でも同じく2年が経過しており、登場人物たちはそれぞれ成長を遂げたようだ。

新シリーズのテーマは、“生まれること、そして生きること”(公式サイトより)。「自然出産と帝王切開」「無痛分娩」「子宮外妊娠」「14歳の妊娠」など、前シリーズは出産そのものに焦点を当てていたが、新シリーズでは出産の後、赤ちゃんを育てていくことの大変さ、難しさの部分がクローズアップされている。つまり、「お母さんの生き辛さ」だ。

■星野源に叱られるナオト・インティライミ

第1話に登場したのは、佐野彩加(高橋メアリージュン)と康孝(ナオト・インティライミ)の仕事を第一に考える夫婦と、生まれつきろうあ者の早見マナ(志田未来)と健治(泉澤祐希)の夫婦。

彩加は仕事への復帰時期が気がかりで、赤ちゃんとふたりきりになることにも不安を抱えている。しかし、仕事優先の夫は出産も育児も妻に任せきり。本人は悪気がないのに、どこかイラッとさせる夫役にナオト・インティライミをキャスティングしたスタッフは慧眼だ。劇中、「俺も手伝うから」と言っているナオト・インティライミを四宮が「手伝うじゃないだろ、あんたの子どもだろ」とピシッと叱るシーンは、視聴者のママさんたちも大きく頷いたはずだ。

一方、マナたちは両親をはじめとする周囲から出産を反対されていた。マナはホワイトボードを使って筆談するが、いつも文字が端に寄っている。余白が多いのは筆跡心理学によると、他人に気を使い、自己主張が苦手で大人しい性格なのだという。マナは難産の末、無事に出産するが、背後からクラクションを鳴らす車に親子3人が気づかないシーンは今後の苦労を暗示している。それでも赤ちゃんが泣いているのを「(車が来るのを)教えてくれたんだね」と微笑み合う夫婦を見ると、ホッとする。

「出産は奇跡だ」とサクラは言う。出産シーンって、不思議なんだけど、見ているだけで泣けてくる。筆者も第1話だけで泣きっぱなしだった。それはきっと、奇跡を目の当たりにしているからだろう。でも、奇跡にいつまでもひたっているわけにはいかない。その後には現実が待っているのだ。

■赤ちゃんのため、それぞれの事情をみんなで乗り越える

お母さんたちの生き辛さを描くとき、周囲の無理解や非協力的な態度を安易に糾弾しないところが『コウノドリ』というドラマの優しさと丁寧さだ。

たとえば、非協力的な夫のナオト・インティライミを懲らしめるのは簡単だが、それで何もかもすぐに解決するわけではない。原作者の鈴ノ木ユウはインタビューで「妻の出産の際、僕は父親なのに出産のことを何も知らず、何もできなかった」と答えている(産経ニュース 10月17日)。原作者だってナオト・インティライミのひとりだったのだ。

サクラは「みんな事情がある。赤ちゃんがいる人も、いない人も、何かしらの不自由さを抱えてる」と語っている。母親にも、父親にも、まわりの人たちにも、それぞれの事情がある。まずそれを認めた上で、赤ちゃんを育てるためにそれを乗り越えていかなきゃいけない。サクラたちはメディカルソーシャルワーカーの向井祥子(江口のりこ)と協力して家族に寄り添おうとするが、それでも産科医にできることには限界がある。そのあたりの葛藤も新シリーズの見どころだろう。

「僕たちができることには限界がある。そのとき、そのとき、お母さんに寄り添うことしかできないかもしれない。だけど、それでも目を逸しちゃいけない。みんなで乗り越えないといけないことだと、僕は思うんだ。――赤ちゃんは、未来だからね」

『コウノドリ』はサクラが物語のテーマを優しく、しっかりと説明してくれるので安心して見ていられる。子育ての真っ最中で忙しい人もぜひ。

大山 くまお

ライター。文春オンラインその他で連載中。ドラマレビュー、インタビュー、名言・珍言、中日ドラゴンズなどが守備範囲。著書に『「がんばれ!」でがんばれない人のための“意外”な名言集』『野原ひろしの名言集 「クレヨンしんちゃん」から...

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