人生に傷を持つすべての人へ。『マンチェスター・バイ・ザ・シー』が見逃せないワケ - 古川ケイの「映画は、微笑む。」#10
「ジェイソン・ボーン」シリーズなど多数のヒット作に主演するマット・デイモンによるプロデュース作品『マンチェスター・バイ・ザ・シー』。マット・デイモンの幼い頃からの親友であるベン・アフレックの実弟ケイシー・アフレックが主演をつとめ、アカデミー賞の主演男優賞・脚本賞を受賞した本作は、決して観逃せない傑作に仕上がっている。
◼︎世界各国で映画賞を総なめ! 本作は良作のお墨付き映画
アカデミー賞6部門にノミネートされ、見事、主演男優賞・脚本賞を受賞した本作『マンチェスター・バイ・ザ・シー』。
プロデューサーを務めた俳優マット・デイモンは、当初は自身で本作のプロデュース・監督・主演を行う予定でしたが、スケジュールの都合により、監督を脚本を依頼したケネス・ローガンに、主演をケイシー・アフレックに譲りました。
マット・デイモンと、ケイシー・アフレックの実の兄ベン・アフレックが幼い頃からの親友であることをご存知でしょうか?
『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』で共に脚本を手がけ、アカデミー脚本賞を受賞したマットとベンのふたりが、そろってアカデミー脚本賞のプレゼンターとして受賞作品に本作の名前を読み上げたことも大きな話題を呼びました。
◼︎『マンチェスター・バイ・ザ・シー』のストーリーは?
アメリカ・ボストン郊外で暮らすリー・チャンドラー(ケイシー・アフレック)は、雪かきやトイレ、水漏れの修理などを行う便利屋として生活を立てている。
仕事帰りに立ち寄ったバーで、女性から声をかけられても応じず、男性客にはケンカをふっかけるなど、冴えない日々を過ごしているリー。そんなある日、彼のもとに1本の電話が入る。
電話の内容は「故郷の町、マンチェスター・バイ・ザ・シーで暮らす兄のジョーが倒れた」という連絡だった。
ジョーはうっ血性心不全という心臓の機能が徐々に衰えていく病気を抱えていて、ついに力尽きてしまったのだという。連絡を受けたリーは急いで病院へと向かう。
病院で兄の亡骸と対面したリーは、兄の息子である16歳の甥・パトリックに父の死を伝える。
翌日、兄の遺言を聞くため、パトリックと共に弁護士の元へ向かったリーは、兄がリーに「パトリックの後見人になって欲しい」という遺言を残していたことを知り、困惑する。
パトリックの後見人としてこの町に移り住むことはできないと、拒絶するリー。
兄のジョーが残した船を処分し、ボストンに一緒に引っ越そうというリーに、パトリックは「僕には友だちやホッケー、バスケ、彼女やバンドもある。叔父さんは便利屋なんだからどこにでも住めるだろ」と猛反対する。
だが、リーにはどうしてもこの町に戻ってくることができない、忘れられないある過去の記憶があった……。
◼︎人生につまづいたことのあるすべての人に
本作では中盤、主人公であるリーが故郷であるマンチェスター・バイ・ザ・シーに、どうしても戻ってくることができない驚くべき理由が明かされます。
あまりに辛すぎる過去を抱えながらも、それでもなんとか前を向こうともがくリーの姿に、私たちは涙を禁じ得ません。
この映画では、登場人物たちの人となりを必要以上に説明してみせるようなシーンや、ナレーションはありません。
観客は、登場人物たちの会話や、シームレスに挟まる過去の描写、そして画面に映る写真立てなどの持ち物から、彼らの性格やこれまでの人生を少しずつ感じていきます。
まるで、ただ目の前のスクリーンの中で生きているかのような彼らは、現実の私たちと同じように、簡単には立ち直ったり、前に進んだりはせず、日々をもがきながら過ごしています。
この映画は、もしかしたらこの物語に対する明確な解答がほしい方や、綺麗にまとまったエンディングを求めている方には不向きかもしれません。
ですが、静かな感動を呼び、あなたの心をとらえて離さない作品になることでしょう。
監督・脚本を手がけたケネス・ローガンは以下のように語っています。
「映画作りで僕が好きなのは、僕自身のプライベートな想像力のもと生まれた物語が、他人の感情の所有物となるというプロセスだ。(ー中略ー)望むらくは、それが彼らの内なる生命の一部とならんことを。僕の愛する映画が、僕の一部になったように」
生きることの痛みと悲しさと共に、美しさと力強さをも思い出させてくれる本作『マンチェスター・バイ・ザ・シー』は今週末5月13日(土)より全国公開です。
◼︎『マンチェスター・バイ・ザ・シー』公開情報
『マンチェスター・バイ・ザ・シー』
5月13日(土)よりシネスイッチ銀座、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国ロードショー
監督・脚本:ケネス・ロナーガン
出演:ケイシー・アフレック、ミシェル・ウィリアムズ、カイル・チャンドラー、ルーカス・ヘッジズ、カーラ・ヘイワード
配給:ビターズ・エンド/パルコ
上映時間:137分
公式サイト:http://manchesterbythesea.jp/
© 2016 K Films Manchester LLC. All Rights Reserved.
映画・ファッションライター。女性誌や女性向けWeb媒体を中心に、新作映画やオススメのファッションアイテムなどを紹介しています♫