これからは「裏側」を見られる女性になる

優しさには２種類ある。「見えているものへの優しさ」と「見えていないものへの優しさ」。悩んでいるときに「大丈夫？」と気にかけてもらったり、励ましてもらったり、そういう見えている優しさにはすぐに気づくことができる。でも、見えていないところにも優しさは存在していて……。

優しさには、よく見えるものと見えないものがあるのだと思う。

「そうそう、覚えてる？」

数日前、母がわたしと話しているときに切り出した。

「ん、なに？」

「あなたが泣いて電話してきたこと」

くすりと笑いながら母は言った。そうして少しずつゆっくりと話し始めた。

まるでタイムカプセルのように、時を経て、ほとんど忘れてしまっていた当時のことがよみがえっていく。あいまいな記憶からひとつずつ、ひとつずつ、引っ張り出していった。

そういえばそんなこともあった。

■知らなかった母の優しさ

「仕事、もう、辞めたい」

真夜中にかけた母への電話。
社会人になって、たしか３年目くらい。

大学を卒業して東京に出てきて、社会という未知の世界に飛び込んで、仕事して。大きな失敗をしたわけじゃなかったけれど、慌ただしい日々の中で余裕も自信もなくなっていたのだと思う。

小さなワンルームの部屋で疲労と孤独に包まれて、不安な夜だった。

「どうした？」

電話の向こう側で、母が聞いた。

その瞬間、わたしはぶわっと泣き始めて、上手く話せなかった。涙だけが流れていった。特別に話したいこともなかったのかもしれない。

真剣に仕事を辞めたいわけじゃなかったし、めちゃくちゃに嫌なことがあったわけでもなかった。疲れた心を、その夜はただ、受けとめてほしかった。

そんなことをぼんやりと思い出していると
目の前に座る母は、予想外のことを言った。

「その日からずっと、毎晩ね、携帯を枕元に置いてたのよ」

「え？」

「心配で、何かあったらどうしようって、毎晩ほとんど寝られなかったんだから」

目を細めて笑って、懐古しながら母は話してくれた。

自分のことだけで精一杯だったわたしは、そんなこと気づかなかった。
その夜から今まで、数年間、ずっとずっと知らないままだった。

知らないところに母の優しさがあって、知らないうちに支えられていた。

当時、いったい母はどれだけ不安だっただろう。離れて暮らすわたしのことを考えて、眠れなかった夜。泣きたいのはきっと、わたしだけじゃなかった。

■優しさは見えないところにもある

見えている優しさはわかりやすくてたっぷりと感謝するけれど、

見えないところにある優しさに、どれくらい気づいてきただろう。

悩んでいるときに「大丈夫？」と気にかけてもらう。仕事がうまくいかないときに励ましてもらう。落ち込んだときに友人が話を聞いてくれる。

そうやって見えている優しさには、すぐに「ありがとう」を返すことができる。

でも、見えないところに存在している優しさもある。気づかないうちに支えられたり、救われていたり、導かれていたりする、そういうの。

母の優しさもまさにそれだった。

■「裏側」を想像できる女性になる

見えないところにあるのは、優しさだけじゃない。

見えているものだけを受け止めて、分かったフリをしていないだろうか。

いつも周りを楽しませるひとを「根っからの明るい人間」だとか、勇敢になんでも挑戦していくひとを「自信たっぷりで強い人間」だとか。

見えているものだけに敏感に反応して、それだけで判断してしまっていないかな。

いつも明るく見えるあの子がたくさん考えて悩んでいたり、自信たっぷりに見える彼女が過去に大きな挫折をしていたり。

優しさも、人の想いも考えも、知らないところや見えないところに静かにたくさん存在してる。

見ようとすることを忘れないようにしたい。
表の裏、光が当たっていない影、知らないところにある優しさを。

見えていないものを想像できる、そういう女性になりたいと思う。