1. DRESS [ドレス]トップ
  2. カルチャー/エンタメ
  3. 『はらぺこあおむし』に会いに行こう! -「エリック・カール展 The Art of Eric Carle」

『はらぺこあおむし』に会いに行こう! -「エリック・カール展 The Art of Eric Carle」

『はらぺこあおむし』や『パパ、お月さまとって!』でおなじみの絵本作家、エリック・カールさんの世界を堪能できる「エリック・カール展 The Art of Eric Carle」の情報をお届けします。

『はらぺこあおむし』に会いに行こう! -「エリック・カール展 The Art of Eric Carle」

こんにちは、島本薫です。
頭上にも足元にも、みずみずしい若葉の茂る季節になりましたね。やわらかそうな葉っぱを見ては、あの絵本のことを思い出す人もいるかもしれません。

そう、今日はあの『はらぺこあおむし("The Very Hungry Caterpillar")』の作者、エリック・カールさんの世界をひもといていきます。あのあふれる色彩をすぐ近くで感じられる、素敵な美術展が始まったこの機会に。

『はらぺこあおむし』関連作品、制作年不詳、エリック・カール絵本美術館 © Eric Carle

『はらぺこあおむし』関連作品原画、制作年不詳、エリック・カール絵本美術館 © Eric Carle

■絵本との再会~「すべての子どもたちと、かつて子どもだったおとなたちに」

『はらぺこあおむし』 別案原画、1984年、エリック・カール絵本美術館 ©1969 and 1987 Eric Carle

あたたかい日曜日の朝、ぽん!とたまごを飛び出した食いしん坊のあおむしの物語、大好きだった――いえ、今も大好きな人が多いのではありませんか?

本当にいい絵本とは、いくつになっても心を豊かにしてくれるもの。

そんな『はらぺこあおむし』や『パパ、お月さまとって!』の作者であるエリック・カールの原画を展示した「エリック・カール展 The Art of Eric Carle」が、世田谷美術館で始まりました。

東京での開催は4月22日~7月2日ですが、その後も

・京都(美術館「えき」KYOTO、7月29日~8月27日)
・岩手(岩手県立美術館、10月28日~12月10日)

と巡回される予定なので、機会を見つけて出かけてみてはいかがですか?

懐かしい絵本に出会えるのはもちろん、エリック・カール独特の色の魔術にときめいたり、大人になった今だからしみじみと味わえる、深い創作の世界にふれることができますよ。

それでは、「エリック・カール展 The Art of Eric Carle」の見どころをご紹介しましょう。

1.エリック・カールの世界――懐かしさと「発見」の連続

『1, 2, 3 どうぶつえんへ』最終原画、1986年、エリック・カール絵本美術館 © 1968 and 1987 Eric Carle

「長い年月を経て、あおむしの物語が、希望の物語であったことに、私はようやく気がつきました」

そんな作者の言葉で始まるこの展覧会。その世界観を存分に味わえる第1部は、4つのテーマで構成されています。

「動物たちと自然」のコーナーでは、アジアスイギュウやアオウミガメなど絶滅危惧種を描いた絵本があったことを知ったり、原画に描かれた昆虫の薄い羽根をまじまじと見て、その透明感にため息をついたり。

「旅」で取り上げられた絵本では、子どもたちの成長を見守る作者のあたたかい眼差しを感じたり。

「昔話とファンタジー」では、未邦訳のグリム童話やアンデルセン童話の絵本の原画に出会えたり、最終原画とスケッチとを見比べることができたり。

「家族」を描いた絵の前では、お母さんの視点・お父さんの視点でもしみじみしたり。

絵本の原点となるダミーブックも展示されていて(ファンとしては中身も見たい……!)、創作の過程に思いを馳せることもできますし、エリック・カールの世界を知る「発見」がいっぱい。

ただめくるだけで楽しい絵本の世界が、もっともっとわくわくしたものになっています。

『とうさんは タツノオトシゴ』最終原画、2003年、エリック・カール絵本美術館 © 2004 Eric Carle

2.「エリック・カールの物語」~創作の奥にあったもの

『くまさん くまさん なに みてるの?』最終原画、1983年、エリック・カール絵本美術館 © 1967, 1984 and 1992 Eric Carle

第2部ではエリック・カールその人にスポットを当て、作品世界を掘り下げていきます。

ドイツからの移民だった両親のもとに、ニューヨーク州で生まれたエリック・カール。6歳のときに両親とドイツに移住し、青少年時代はシュトゥットガルトで過ごしています。
つまり、カール少年はアメリカとドイツで2回、学齢期の始まりを経験したのです。

2つの文化と言語、異なる教育方法の中で困難な時期を過ごしたからこそ、「子どもたちが家庭から学校へと旅立つ移行期を迎えるとき、もしくは新しい文化や国に移るとき、私の絵本たちが彼らにとって何かしらの助けになれば」と語るエリック氏。

学校では絵の才能を認められますが、時はナチスの台頭時代。そんな中でも、「退廃芸術」として禁じられていたピカソや、アンリ・マティスの複製絵画を密かに見せてくれた(当時これは、とても危険な行為でした)教師のおかげで新たな表現の世界にふれ、とくにフランツ・マルクやパウル・クレーといった画家たちから大きな影響を受けたそうです。

作者のそんな背景が紹介される第2部では、「初期作品・素描」「画家とともに」「ひろがるカールの世界」といったテーマが繰り広げられ、若き日の習作や画家たちとの交流から生まれた作品(『あおくんときいろちゃん』の作者レオ・レオニに捧げられた絵本も!)、絵本以外のコラージュから立体作品まで、その造形世界が幅広く紹介されています。

個人的には、オペラ「魔笛」の衣装デザインについていたメモ「Color, not style, should dominate」(主役は色だ、形じゃない)が印象的でした。形は二の次のデザイン画なんて……さすがは「色に恋している」と言うエリック氏。

『うたがみえる きこえるよ』最終原画、1972年、エリック・カール絵本美術館 © 1973 Eric Carle

■「カールと日本」~日本との長く深い絆

『パパ、お月さまとって!』最終原画、1985年、エリック・カール絵本美術館 © 1986 Eric Carle

そして、第2部最後のテーマは「カールと日本」
実は、エリック・カール氏と日本とは、深いつながりがあるのです。

『はらぺこあおむし』は、日本の出版社の協力があって世に出たことをご存じでしたか?
あの絵本は穴の開いたページがあったり、ページの幅が変わったりしていますね。当時のアメリカでは採算がとれないといわれたそうですが、担当編集者が日本の出版社に話したのを機に、日本で印刷・製本を行い、アメリカで出版されたのです。

エリック氏の絵本が最も多く翻訳出版されているのが日本ですが、嬉しいことに、日本もまた、エリック氏にインスピレーションを与えています。

そのひとつが、来日の折に各地の絵本美術館を訪れたことがきっかけで誕生した「エリック・カール絵本美術館」。2002年にマサチューセッツ州アマーストで開館したこの美術館は、絵本の分野ではアメリカ初のものだそうですが、多くの人に愛され、作品の展示はもちろん、イベントやコラージュの教室なども開催される素晴らしい美術館になりました。

また、今回の展示の中には、「キモノ」と題されたコラージュや、日本の絵本作家との共作絵本の原画も紹介されています。

これは左側からエリック・カールの『Where Are You Going? To See My Friend!』が、右側からはいわむらかずおの『どこへいくの? ともだちにあいに!』が始まり、真ん中のページで2つの作品世界が出会うというユニークな絵本なのですが、この出会いににっこり顔をほころばせるのは、子どもだけではないでしょう。

「日本という国は私にとって特別な意味を持っていました」「人も、食べ物も、日本の全部が好き」「日本の子どもが私の作品に反応してくれることを、何よりも喜びに感じています」とコメントしていたエリック氏。

懐かしい、あの色あざやかな世界に会いに、あなたも出かけてみませんか。絵本はいつでも、あなたを待っていますよ。

『どこへいくの? To See My Friend!』最終原画、2000年、エリック・カール絵本美術館 © 2001 Eric Carle

参考

・エリック・カール展
http://ericcarle2017-18.com/index.html
・偕成社 エリック・カール スペシャルサイト
http://www.kaiseisha.co.jp/special/ericcarle/
・エリック・カール オフィシャルサイト(英語)
http://www.eric-carle.com/
・エリック・カール絵本美術館(英語)
http://www.carlemuseum.org/

島本 薫

もの書き、翻訳家、ときどきカウンセラー、セラピスト。 大切にしている言葉は “I love you, because you are you.” 共感覚・直観像記憶と、立体視不全・一種の難読症を併せ持ち、自分に見えて...

Latest Article