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「父や母が人になる日」という手作り結婚式。

結婚式のスタイルはいろいろあるけれど、家族や友人への感謝を伝えるシンプルなものにしたいーーそう考えた兎村彩野さんは、夫とともにオリジナルの式をデザイン。裏テーマも掲げ、自分たちらしく仕上げ、参加者をとびきりの笑顔にした式の模様を振り返ってもらいました。

「父や母が人になる日」という手作り結婚式。

いつものコラムをお休みして今回は特別編です。
先日、友人とご飯会をしているとき「今度のコラムで結婚式の話書いてよ〜」とリクエストをいただいたので、今夏に行った我が家の結婚式の話を書こうと思います。

夫と結婚して2年ほどたった今年、そろそろ暮らしにも慣れ、両家の親とも交流ができていました。なんとなくみんなのリズムもわかってきたという感じで、結婚式でもしようかと二人の間で話が上がりました。
もともと式をあげることにこだわりはなかったのですが、親が楽しみにしているようだったこと、2年夫婦としてやってきたなかで、両家でとても良い関係を築くことができたこともあり、せっかくだし、感謝祭のような日があってもいいねと思っていました。

結婚式の形はさまざまですが、私たちが考えたのは自分たちが主役になってお祝いしていただくのではなく、私たちをここまで連れてきてくれた友人や家族に感謝を伝えるというシンプルな式。

結婚式というパックで調べると、高額で私たちには不要な過剰サービスが付くプランが多く、望む形が作りにくかったので、自分たちですべて用意することにしました。

■ご祝儀なし。お小遣い貯金でまかなえる、ハンドメイドな式をデザイン


まず感謝祭なのでご祝儀はもらわず、自分たちのお小遣い貯金だけでまかなえる規模のものに(それでも幾人かの近い親族からはお祝いという形でいただきましたので、それはありがたくちょうだいしました)。

使えるお金がどれくらいかわかったので、その中でできることだけをするという結婚式はとても気楽だなぁと思いました。これはワタシが普段している予算組みに似ていたので仕事の経験が役に立ちました。

お友だちにアットホームな式を作りたいと相談すると、お知り合いの神社を紹介してもらえました。伺うと、古い木が残るとても素敵な場所でした。神社の方たちも温かい人たちでした。プランなどはなく自由にしていただいていいですよ、と伺ったので会場はそこに即決。

夫婦の打ち掛けや紋付き袴にはこだわりがなかったので、インターネットの貸衣装屋さんで好きな柄を選びました。両家の父のモーニングや母の黒い留め袖も同じように揃え、当日神社の控え室に宅急便で届くように手配。両家の親には「私服でふらっと遊びにくる感じで大丈夫だから、何も用意しなくていいよ」と伝えました。

■夫婦で働く地続きのような、結婚式準備期間は心地よかった

カメラマンさんや着付けさんも友人のご紹介や、いつもお世話になっている仕事仲間にお願いする形です。

夫がグラフィックデザイナーなので、結婚式の招待状などのペーパーツールはすべて手作りしてくれ、業務用で販売していた檜の枡を取り寄せ、二人で焼き印をし、神社の境内でミニ鏡開きをするセットを用意。みんなに渡すお土産は叔母の勤める和菓子屋さんに頼みました。

二人で仕事の合間に、ちょこちょこインターネットで注文して、2週間ほどで用意が終わりました。ネットの利点を使い、格安だったり業務用だったりを上手く組み合わせたので、お小遣い貯金で十分費用はまかなえました。

家族や友人が楽しいと思える2時間を作れればいいなぁとお互いにアイディアを出しつつ、担当を分け、夫婦共同の楽しい準備期間でした。思えば毎日こんな感じで仕事をしているので、結婚式という案件を作っているような感覚でした。

■結婚式の真の主役は父であり、母。一人の「人」になってほしい

この式の用意の中で、もう一つ裏テーマにしていたのが、両家の父や母が私たちが新しく家を作って巣立っていったので、みんなが一人の人に戻るという日にしたいでした。

思えば、父や母は、私たちが生まれて父や母になりましたが、その前もその間も今も、父や母である前に、実は一人の「人」なんだということを、どうしても子どもとして忘れてしまうときがあります。自分たちが年齢を重ねることで両親が親であり人であるという事が理解できるようになってきました。

今回の結婚式はその中でも特に、両家の母をとびっきり素敵にメイクしてもらい、「おかあさん」から一人の「人」になる日にできたらいいなと思っていました。

広告なども手がける友人のヘアメイクさんに、「当日はワタシより、両家の母にプロの技でメイクしてもらえるかなぁ」と相談したら快諾してくれました。式の日に2名体制でスタンバイしていただき、母二人のメイクをプロの技で仕上げるーーそんな作戦です。

私たちの母はずっと家事と仕事をして働いてきました。人生の中でプロにメイクしてもらうという体験は多分ないと思います。素朴で優しい、よく働く人として尊敬する両家の母たち。時代の違いもありますが、若くして私たちを産んでくれて、ずっと変わらず家を守る母でいてくれました。

仕事柄、撮影現場などで女性がメイクで輝いていくのを見ます。きれいになっていく自分に照れつつ、母から一人の人に変身し、輝きを放つ。私たちの結婚式ではあるのですが、本当は親たちが親として一段落する日でもあります。なので、結婚式の本当の主役は父であり母なのだなと思っていました。

■働きながら、子どもを育て上げた母たちは立派で、そして美しい

ヘアメイクさんの友人もコンセプトに共感してくれ、母たちにプロの技で丁寧に洗練されたヘアメイクをしてくれました。鏡の中でどんどんキレイになっていく母たち。メイクも着付けも終わる頃には、キラキラした女性二人がそこにいました。上がった口角をみるとこちらも嬉しい気持ちになりました。モーニングを着た男前な父たちとキレイに輝く母たちが控え室にいる風景は、なんともいえない幸せな景色でした。

ヘアメイクには女性にとって特別な意味があるなといつも思っています。母たちが笑顔になっていくのを見ていて、心からそう思いました。いつも鏡を見てきた時間は「働く母の顔」だったはず。結婚式の日だけは「子を育て上げた一人の立派なキレイな人の顔」と鏡の中で対面してもらいたかった。ヘアメイクという思い出を母たちに送ることができていたらワタシも嬉しいです。

式は仲の良い友人に見守られる楽しい時間でした。両家両親も手ぶらで参加できる結婚式だったので楽しんでいただけたようです。

このコラムを書いていて、結婚式の帰り道、キラキラした母たちが「今日は、顔、洗いたくないですねぇ」とお茶目な冗談を話していたのをふっと思い出しました。

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兎村彩野

Illustrator / Art Director

1980年東京生まれ、北海道育ち。高校在学中にプロのイラストレーターとして活動を開始する。17歳でフリーランスになる。シンプルな暮らしの絵が得意。愛用の画材はドイツの万年筆「LAMY safari」。

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