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40からの恋の醍醐味

脚本家・北川悦吏子さんが明かす恋愛観。若い頃と変わらないところ、大人になってこそわかる恋愛の醍醐味がテーマです。

40からの恋の醍醐味

40になってからの恋。
30代の頃の恋。
20代、10代の頃の恋。

いろいろ違う。

好きになる相手が違って来る。
まあ、好きなタイプというのは、一貫してあるだろうから、
クールな人が好き、とか
目がたれた人が好き、とか、
そういう表面的なことは、変わらないのかもしれないけれど。

私は、娘を生んでいて
彼女は今、10代なので、
その彼女の恋など見ていると、
シンプルでたやすいものである。

学校帰り、家の方向がいっしょで
帰り道、たまたまいっしょになって
別れ際に、「気をつけて」と言われて、もう恋に落ちるわけである。
でも、15の男子でこれを言えるってすごいし、
40の男性が言っても、けっこうポイント高い。

高校生の時は、そんなささやかなことで恋に落ちられたわけで
相手が、頼りがいがあったり、やさしかったり
または、ちとイケメンであったりすれば
それでいいわけである。
というか、それで万々歳。

自分を思い返してみてもそうだった。
カッコイイ。
声がステキ。
やさしい、
頼りがいがある、などなど。
で、年を経るとともに、ステキだな、と思う男の人が変わって来る。

いや、もちろん、カッコよかったり
イケメンだったり(あ、同じだ)
やさしかったり
帰り際に、「気をつけて」だったりするのは、ポイント高いのだが、
そして、頼りがいがある、も基本だが、
40の頃に、心惹かれたのは、
私を、エッと、思わせる人だった。
最初はわからない。
知り合って行くうちに、
彼らは、驚くことを言ったり、やったりする。
こちらは、面食らうのだ。

10代20代30代でそれをやると
それは、ただの変人だったり
キテレツだったりするのだが、
40代50代のそれって、
なんていうか、自分の世界を何十年もかけて、構築してきた末の
自分の世界の常識なんだと思う。
それが、私と食い違う。
私は、それに面食らうのが、わりと好きだ。

たとえば、来週会う約束をしている。
メールが来る。
今、ふらりとニューヨークに来てしまった。
どうせだったら、北川さんもニューヨークに来て会いませんか?

これ、フツーに言ってるんである。
彼にとっては、ニューヨークって、下北沢くらい、気楽なんだろう。
私にとっては、気楽じゃないので、行けないけど。

でも、彼は、長年の自分のライフスタイルの中で
ニューヨークに行くことを、気軽なもの、としたのであろう。
次回作の構想を練るために、ニューヨークに……(クリエーターなので)。
それが、彼のフツーなのだ。

男も、40の声を聞く頃に、自分の常識を持つものだ。
私が、面食らうと、
えっ、それ、ダメなの?
とノヅラで言って来る。
私、驚くのが好きなので、悪くない、と思って、彼らの言い分を聞く。

二十代のおぼっちゃんが言うのとは、違うと思う。
気取ってるわけじゃなくて、それが、彼らのスタンダードなのだ。
かたくなに自分の世界を作って来た人たちの
ちょっと世間とは違う、常識をかいま見るのが、私は嫌いではない。
それは、魅力だ。
だって、飽きないから。
びっくりするから。
もちろん、あまりにも想定外で、
たまに、頭にも、来るけれど。
それも、また、楽し。


彼らの中に、その常識が形づくられた経緯を思うと、
これはまた興味深い。
若くない、ということは、歳を取っている、ということで
歳を取っている、といことは
いろんな瞬間を経て来たわけで
男たるもの、多分、そこでふんばって、がんばって来たわけで
それは、仕事の失敗であったり
自分の夢がうまくいかなかったり、
はたまた、もういい歳なわけなので、親の死、なんてこともあったかもしれないし
もしくは、子供がいて、その子供との葛藤なども、あったかも。
その中で、人生の取捨選択を繰り返し、
そして、選び取り
自分のやり方、自分の常識を、作って来たわけで
そんな人の人生をかいま見たり、想像するのは、楽しい。

全ての経験が、男の人の魅力になる、と思う。
その魅力が、こちらがわかるようになるのも
もしかしたら、40の声を聞くあたりかもしれない。

と、思うと
10代で好きだった人、
20代で好きだった人
30代
40代……。

男の人をコレクションのように、頭の中に年代別に並べてみると楽しいかも。

おおっ、このように、自分も、男を見る目が変わって来たのか……と思う。

この先、50代、60代、70代になって
もしかしたら、腰痛にはどこの病院がいいか、なんて
話をするようになるのも、
また、それも、オツなものなのかもしれない。

まあ、なかなか恋になるのに、燃料が必要になるような気もするけど
ならなきゃならないで、いいしね。

ピカピカの若い恋もいいけれど
人生、立ち止まった時に、ふと横を向いたらいた、なんていう
40くらいからの恋って、
ちょっと、いい感じと思うのですが、どうでしょう?

好きな人のお腹のたるみが、愛しかったりね。
目尻の皺とか…。

北川 悦吏子

脚本家。『ロングバケーション』『ビューティフルライフ』などの数々の恋愛ドラマのヒット作を生む。活動は多岐に渡り、作詞やエッセイでも人気を集める。映画『新しい靴を買わなくちゃ』では、脚本とともに監督も担当。

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