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「大切にしたいこと」妻となり、母となり、手放すことで気づいた価値観

大切にしたいことは何か。結婚、妊娠、出産、子育て……女性たちに押し付けられた「こうあるべき」を手放すことで、自身の価値観がクリアになった――そう語るのは染矢明日香さん。母となり3ヶ月が経った今、本当に大切にしたいこと、というテーマで思うことを寄稿いただきました。

「大切にしたいこと」妻となり、母となり、手放すことで気づいた価値観

現在母となって3ヶ月。

人の感じ方や価値観は十人十色で、さらに結婚生活や育児においてはパートナーや子どもの特性や相性との掛け合わせにもなり、私のケースがすべての人にとって同じようにあてはまるとは思わない。

ただ、今までの価値観にとらわれずに手放すことで、自分が本当に大切にしたいことが見えてきたことを、本コラムでお伝えできればと思う。

■一度目の妊娠で、産まない選択をした20歳のとき

妊娠検査薬に浮かんだ1本のライン。一度目は絶望だったラインは、二度目には希望になった。

私が初めて妊娠したのは20歳のときで、大学3年生の10月。進学校から第一志望の大学に入学して順調に単位もとり、これからまさに就職活動という矢先。

「まさか、自分が」と思う出来事だった。悩んだ挙句、これからのキャリアや、相手との結婚生活がイメージできず、産まない選択をした。「つらい経験だった」という言葉で片づけるにはあまりにもいろいろな感情が複雑に絡まるように湧いてくる。

日本の出生数は年間約100万件。一方で、中絶件数は約18万件。流産や死産のケースもあるが、検査薬で陽性が出た女性は約6~7人に1人の割合で中絶を選択している。


彼氏がコンドームを使ってくれなくて、いつ妊娠するか不安で毎月生理がくるように祈っている、避妊はコンドームか膣外射精で、低用量ピルや緊急避妊という選択肢すら知らない、低用量ピルは名前を聞いたことはあってもなんだか怖い、セックスはAVで学んでいるから大丈夫ーー。


そんな声が当時身近にあり、性知識や当事者意識のなさから予期しない妊娠をし、自分のように身を引き裂かれるような経験をしてほしくないという思いから、私は大学生のときに正しい性知識の普及啓発を目指すピルコンを立ち上げた。

医療従事者を講師に招いて若者向けの勉強会を開催したり、イベントや啓発冊子を制作し普及活動を始め、2013年にはNPO法人化。

現在では大学生や若手社会人を研修・育成し、中高生向けのライフプラン教育の出張講座をのべ4,000名以上の生徒に実施するほか、杉並区との協働事業として若年世代の性感染症の予防啓発を行うすぎなみレッドリボンプロジェクトの企画・運営に関わるまでとなった。

■結婚時に気になっていたアンバランスな欲

そんな私だが、以前から「30歳までに子どもがほしい」と思っていた。20歳のときには産む決断ができなかったが、性と生殖の知識を学ぶ中で、女性は30歳を過ぎると自然に妊娠する確率は減っていき、35歳を過ぎると明らかに低下することを知っていた。2人以上子どもを産みたいと思うと、第一子は30歳までが目安かなと考えていた。

そして27歳の私は、当時付き合って5年が経つパートナーからなかなか結婚を切り出されないことにやきもきしていた。私は彼と結婚したいし、結婚後、子どもを持つ前の二人の時間も大切にしたいからそろそろリミットと思っていたが、付き合った記念日、誕生日、クリスマスと何のサプライズもないまま過ぎていった。

このままじゃライフプランが実現しないと思い、彼に結婚や子どもについてどう考えているのかと聞くと、「考えている」との答えで、いつ頃、と聞くと「来年くらい?」と答えが返ってきた。じゃあ、私の実家に帰るときに親に挨拶に行かないとね。多分具体的に来年のいつ頃か聞かれるよ。結婚式の準備もしなきゃいけないから、見学会予約しておくよ。すぐいっぱいになっちゃうから、早めに式場は予約しようね。と、こちらから段取りを整えた。

そして翌年の10月、結婚に漕ぎ着けた。同じ10月、私がピルコンをNPO法人化し、彼は彼で会社を立ち上げた。たまたま重なったのだけど、彼はサラリーマンから収入が不安定な経営者になることにプレッシャーに感じ、結婚の二の足を踏んでいたらしい。彼とだったらどん底の貧乏になっても笑って過ごせそうだし、私もそのぶん仕事を頑張ろうと思ったので、彼が気にした点を私は気にしていなかった。

私が気になる問題は別のところにあった。

彼と同棲を始めて1年が過ぎた頃、お互いの性欲が釣り合わなくなっていたのだ。

結婚して変わるかと期待したが特に変化はなく、仕事柄、恋愛記事のライターや性教育者、精神科医などに相談してみたり、勝負下着や温泉旅行とあの手この手を尽くしたが空回りばかりで、私は女性としての自信をなくしていった。

ただ、腹を割って話し合いを重ねていく中で、彼が私のことを大切に思っていることや子どもがほしい気持ちは同じということや、私の一方的なコミュニケーションも彼をさらに追い詰めていたということがわかった。このとき、彼がきちんと向き合って気持ちを話してくれて本当によかったと思っている。

■セルフプレジャー名人になって得た自由

当時、セルフプレジャーに対してどこか「寂しいもの」という気持ちを持っていたが、別に彼以外にしたい人がいるわけでもないし、彼がその気がないなら仕方ない、と積極的に自家発電をするようになった。はじめはやり方すらよくわかっていなかったが、そのうちに精度が上がっていき、まるで伸びをしたいときにストレッチをするような感覚でサクッとできるようになった。

他人の性欲に振り回されず、自分の性欲を自分で満たし管理できることは、こんなにも自由なのか! その域に到達して初めて思った。「それで夫婦の意味があるのか?」と人に言われたり、「私はまだアラサーだけど、この先一生セックスできないのかも……」と思いモヤモヤすることもあったが、本当に自分がしたいと思う人で、相手もそう思ってくれる人を見つけたら彼と別れよう、と思っているうちに、結婚して2年が経っていた。

「そろそろ子どもがほしいね」そう言ってきたのは彼の方だった。詳細は割愛するが、私たちはかなり割り切った方法で妊活をした。そして、望んで望んで、ようやく妊娠ができたのだった。自分や相手に向き合うことは、勇気も労力もいることだ。それを彼と二人で乗り越えられたことは、普通にすんなりと妊娠する以上に得るものがあったように思う。

性についての話題は我が家ではタブーではなく、大事なことであり、そしてときにはふざけて大笑いするものである。そして、セックスは「しなければならないもの」「愛情に不可欠なもの」ではなく、あったらいいけど、別になくてもいいし、いろんなやり方やとらえ方がある、と思えるようになっていった。

そして、私の妊娠中や産後に無理に求められないのはとても気楽でもある。もちろんその過程はとても苦しかったし、負け惜しみと言えばそうかもしれないけど、それでも私は彼と一緒の人生を送りたいし、そう思える人と出会えたことはとても幸せなことだと思う、と、壮大にのろけてみる。

■妊娠・出産・産後の状況はみんな違う


妊娠・出産や育児について、いろいろな経験談を聞き、本を読み漁っていると、とても参考になり自分にもあてはまることもあれば、そうではないこともたくさんあった。たとえば、DNAが近いはずの姉や母の「陣痛は生理痛とほとんど変わらないくらい」との話に安心していた私に、お寺の鐘つきでお尻をぶっとばされるくらいの「ゴーン!」という陣痛のクライマックスは、文字通り衝撃だった。

産まれてきた赤ちゃんは、誰かにお世話をしてもらわないと生きることができない、びっくりするくらいか弱い存在に感じた。と同時に、かわいくて仕方がなく、恐ろしいことにそのかわいさは日に日に増してくる。

痛かったお産の記憶は日に日に薄れ、つらかったつわりの記憶は母子手帳に走り書いている「眠気、吐き気、息切れ」くらいしか思い出せない。幸いなことに、産後にストレスでうつっぽくなることもなく、産後の変化といえば、料理以外の家事が面倒で仕方がなかった性格の私が、なぜか急に汚れが気になるようになり掃除に励むようになったことくらいだ。

水垢だらけの浴室の鏡をクレンザーと重曹で磨いたり、エアコンのフィルター掃除をしたり、ソファやクッションにコロコロをしたり、今までしたことのないところまでしないと気がすまない。掃除は目に見えてキレイになるのがとても気持ちよく、ストレス解消になり、子どもにとっても快適な環境になるので、掃除好きがこの調子で続くことを願っている。

■仕事と育児のバランスは周囲の協力があってこそ

共働きでバリキャリな私の母親は、産後すぐに私を含め子どもたちを保育園に預け、仕事をがんばってきた人。母の性格を受け継いでいるのか、私も仕事に生きがいを感じており、産休明けできるだけ早いタイミングでの保育園の確保を考えていた。

30歳でNPOも4期目となった私はいよいよ仕事が波に乗ってきたタイミング。しかしこのご時世、私の住んでいる地域では、認可保育園は来年4月の入園すら、産まれてすぐに申し込んでも確実とは言えず、認証、認可外保育園も待機児童でいっぱいという現状。認可外でもがんばって探そうかなと思っていたのだが、保育士の姉に「仕事のブランクは後から取り戻せても、子どもと一緒の時間は取り戻せないよ」と言われ、考え直すことにした。

ありがたいことに、私の不在中は理事が中心になって講演やイベント運営を担ってくれたり、仕事の打ち合わせでも子どもの同席を快諾いただいたり、義理の母が家事育児を手伝いに来てくれるおかげで、産後でも少しずつ仕事に関わることができている。周囲の人の理解や協力に救われる。

覚悟はしていたものの、産後は子どもの世話で1日があっという間に過ぎる。朝から授乳→ちょっと寝ては起きて授乳→寝落ちの無限ループ! ご機嫌になったらなったでかわいすぎてかまってしまって結局作業は進まず……。世の中はポケモンGOで湧いているが、うちは赤GO1人のお世話で手いっぱい。

一方で、今までいかに余裕のない生活を送っていたかに気づいた。朝は家を出るギリギリまで寝ていて、シャワー後に乾ききっていない髪を振り乱しながらダッシュで電車に飛び乗る。1日に何件も打ち合わせやイベントをハシゴし、帰宅後も深夜までPCで作業をする毎日。朝起きてから寝るまで仕事のことばかり考えていて、自分自身には無頓着だった。

子どもがいると自分の時間が持てないというが、今仕事を詰め込んでいないぶん、育児の合間は自分が将来成し遂げたいことを考え直す時間になったり、快適な生活環境を保ったり、自分を慈しむ時間に充てられている。

自分のこうありたいと思う理想像と現実がかけ離れていることをとてもモヤモヤ思っていた時期も長くあった(というか社会人になってからずっとそうだった気がする)けど、とりあえずは子育てを楽しみながらこれからの人生を考えよう、私は私だし、という心境になった。

■育児を通して得た、自分が今のままの自分であっていいという感覚

そして、子どもと接する中で、自分と親の関係、パートナーとの関係についても思い巡らすようになった。自分が子ども時代に親にこうあってほしかったな、と思うことがあるけれど、今となっては取り返しはつかず、それを今伝えたところで親は自分が期待するような反応をしないだろうと思う。

さみしい、必要とされたい、愛されたい、思いっきり甘えたい。自分が価値のある人間になるためには、まだまだ足りない。がんばらなくてはいけない。そんな思いを抱えていた。けれど、パートナーと出会い、自分は完璧ではないけれど、それでも丸ごと受け止めてくれる人がいて、私は今のままの私であっていい。そう気づいた。

彼も彼で完璧ではないけれど、それも含めて彼で、唯一無二の存在で大切にしたい。そして、私と彼の間に生まれた子どもは生物としてありえないくらい自分では何もできない。けれど、とても愛おしくて大切な存在。そして、気づいていなかっただけで、自分もそういう子どもだったのであろう。

性愛はタブーをおかしたり、自分にはない異質なものとの接触にドキドキする感じが楽しいときもあるけれど、関係が長期化すると、ふれあいからくる安心感や癒しの割合が増していく。それは、母子愛にも似ている。私は恋愛と育児を通して、幼い頃に養育者に満たされなかったと感じた肯定感を再獲得したようにも思う。

■手放すことで見つけられた本当に大切にしたいこと

何かを選択することは、何かを手放すこと。

手放すとは、言い方を変えれば、捨てること、あきらめること、割り切ること、腹をくくること。手放すことは勇気がいるし、ときには不本意にそうなってしまうこともあるが、私は手放すことで、本当に自分が大切にしたいことが何かを見つけることができた。


ロマンチックなプロポーズを手放し、自分が望むタイミングでの結婚を。
情熱的な夫婦関係を手放し、あたたかで笑いが絶えないオープンな家庭を。
キャリアを一時的に手放し、すくすくと育っていく子どもと目を合わせて笑い合う時間を。



パートナーに「イクメン」を期待することも手放そうと思う。ちなみに、パートナーは育児参加していないというわけではなく、むしろとても関わってくれている。世間が作った「イクメン」という価値観を押し付けるのではなく、お互いに得意・不得意を補い合いながら特に固定的な役割を定めずに協力して育児をやっていけたらいいな、と思っている。

「手放した」とはいえ、今も他のケースを見ていいなぁと未練たらしく思うこともある。それでも、そういう生き方を選択したのは自分だ。自分の選んだ道に自信を持ち、そこから得られる良い面を見つめていきたいと思う。

Text=染矢明日香

染矢明日香さんのプロフィール

NPO法人ピルコン理事長。自身の経験から日本の望まない妊娠・中絶の多さに問題意識を持ち、大学生の時にピルコンを立ち上げ、若者向けのセクシャルヘルスセミナーや、イベントの企画・出展を行う。2013年にNPO法人化し、中高生向け、保護者向けの性教育講演や性教育コンテンツの開発・普及を行う。大学生ボランティアを中心に身近な目線で性の健康を伝えるLILYプログラムをのべ4,000名以上の中高生に届け、思春期からの正しい性知識の向上と対等なパートナーシップの意識醸成に貢献している。
医療従事者の監修のもと製作、無料動画サイトに投稿した「パンツを脱ぐ前に知っておきたいコンドームの付け方」動画は2012年10月のアップ以来、130万回以上再生され、NHKや朝日新聞、日経新聞などのメディアにも数多く出演・掲載。“人間と性”教育研究協議会東京サークル研究局長。著書に『マンガでわかるオトコの子の「性」』(監修:村瀬幸浩、マンガ:みすこそ、合同出版)

Blog: ピルコン染矢明日香のLOVE&LIFEの大事なコト。
http://ameblo.jp/asukasuca/
twitter: asukasuca

DRESS編集部

いろいろな顔を持つ女性たちへ。人の多面性を大切にするウェブメディア「DRESS」公式アカウントです。インタビューや対談を配信。

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