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少子化問題に必要なのは「解決できる」空気づくりなんじゃないか

長年騒がれ続ける少子化問題。解決しないのでは……と絶望している人もいそうだ。でも、話題の新書『超少子化 異次元の処方箋』では、きっぱりと解決策が示されていた――。

少子化問題に必要なのは「解決できる」空気づくりなんじゃないか

少子化問題の解決方法はもう提示されているって全力でシェアしたい。それが『超少子化 異次元の処方箋』(NHKスペシャル「私たちのこれから」取材班/編)を読んでの感想だ。

丙午(ひのえうま)だった1966年の出産率「1.58」を下回る「1.57ショック」が話題になったのが1989年。その当時から「少子化問題」という文字列が頻繁にニュースや新聞にあがっていたのを覚えている。1989年に物心ついていた人たちは、もう27年間ほど、このニュースを見続けてきた。

私は当時9歳だったが、子どもの頃からの刷り込みというのは根深い。これだけ長年にわたって少子化問題が報じられ、難しい顔をするコメンテーターや専門家の顔を見せられていると「これは頭のいい大人たちが知恵を寄せ合ってもなかなか解決できない難しい問題なのだな」と思ってしまう。当然のように不況になったこととも合わせて、あきらめ感。

■少子化が解消されない単純な理由

だから本書を読んで、新書一冊で解決方法が提示されていることに驚いた。なぜ少子化に至ったのかも、少子化を打開した国内外(海外はフランス、国内は奥山県奈義町)の例も紹介されている。その例を踏まえ、日本全体としてはどのような施策を行えばいいのかも書かれている。

日本はフランスやスウェーデンなどに比べて家族関係社会支出の対GDP比がかなり少なく、子育て関連の予算が増えないぶん、高齢者に予算が割かれている事実は知っていた(本書内では「若者や現役世代は、いかに国が高齢者対策に関して容易にお金を出しているかをよく監視しなければいけないと思います」という識者の言葉が引用されている)。その事実は知っていたものの、そこでつい頭に血が上って、財源の確保についてどのような議論がされているのかはおぼつかなかった。ごめんなさい。

お金に疎い私でもわかるほどの説明で、それがすっきり説明されていたのがありがたかったわけだが、さて、そこで当然のように皆さん考えるのは、「そこまで具体的に解決方法が提示されてるのに、なんで今日まで解決されてないんですか?」ってことだろう。

確かにそう。少子化の解決には子育て世帯を支援するためのお金が必要、そしてその財源は「高資産の高齢世代から若い世代へ」など数パターンが提案されている。そこまで答えを出してくれた人がいるのに、これを推し進めるために必要な「合意の形成」が取れていない。

■解決方法なんてない、と絶望しなくていい

少子化が日本の未来にとって由々しき問題ということは多くの人が認識していながら、それでは子育て世帯への支援をという話になると、途端に怒る人たちがいる。昔の日本人は貧乏ながらも子育てしたんだから甘えるなとか。「出産したら(仕事を)お辞めなさい」と言う女性作家もいたし、「少子化対策に必要なのは性的役割分担」と唱える女性の大学名誉教授も、感情的な文章で「生まないのは若者のわがまま」とか書き立てる元アナウンサーもいる。そしてそれに「なるほど!」「一理ある」とついて行ってしまう人もいる。

女性作家・教授や元アナウンサーは、もうしょうがない。頭が古くて現代に適応できていなかったり、そういうことを書いて一部からの支持を得ることに情熱を注いでいたりする人だから。でも、彼らの言うことに「なるほど!」と言ってしまう人の一部は、まだ変えることができるんじゃないだろうか。

「なるほど勢力」の中には、少子化の根本的な解決方法がないように見えることに悶々とし、「解決方法なんてないじゃん!」と思っているからこそ、極端に強い言い方で「こう!」と決めつける人に寄っていってしまう人もいるんじゃないかと思うのだ。そっちじゃないよ! NHKスペシャルの取材班の人たちがもっとちゃんとした分析をして、解決方法を颯爽と提示しているよ! と私は言いたい。人の知性を信じて。「少子化の解決方法なんてない」というイメージの中に、立ち止まっていてはいけない。

■少子化解決を信じる仲間を増やしていく

本書を読んで、「そんなこと全部知ってた」と思う人も中にはいるだろう。そういう、この問題について造詣の深い方たちはぜひ、ご自分の知識を周囲に広めてほしい。少子化打開に成功した岡山県奈義町での合意形成方法は、役所の人たちが一軒一軒説明に回ることだったという。本当に頭が下がる。ポイントは「若い世代と高齢者世代の対立」という構図を避けたこと。

生まないのは女のわがままとか、若者のわがままとか言われると本当に不愉快だけど、そこで対立していても、少子化はどんどん進むだけなのだろう。気づいた人からコツコツと、身近な人を説得していくこと。そう言うと布教のようだけど、本当に布教のように、コツコツと「少子化は解決できる」と信じる仲間を増やすことが必要なのではないかと思う。NHKスペシャル「私たちのこれから」取材班さん、素敵な一冊をありがとうございました。

Text=小川たまか
1980年・東京都品川区生まれ。立教大学院文学研究科で江戸文学を研究中にライター活動を開始。 フリーランスとして活動後、2008年から下北沢の編集プロダクション・プレスラボ取締役。主に教育・働き方・性暴力などを取材

DRESS編集部

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