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【俳優・内谷正文さんインタビュー #2】 「大人が変われば子どもも変わると信じてる」

舞台を中心に俳優として活躍するのと並行し、2005年から薬物依存症をテーマにした一人芝居【ADDICTION~今日一日を生きる君~】を全国で公演する内谷正文さん。自身も薬物経験者。その活動を始めたきっかけや願いについてインタビューしました。今回は第2回です。

【俳優・内谷正文さんインタビュー #2】 「大人が変われば子どもも変わると信じてる」

#1(https://p-dress.jp/articles/1838
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■愛をもって弟を突き放した日

――具体的には、どのような回復の道を辿ったのですか?

ある日の深夜、入院中の父から震える声で電話があり、「ラジオを聴いてたら水谷修(“夜回り先生”と呼ばれコメンテーターとしても活躍)という人が薬物に溺れる子どもたちの話をしいている。もしかしたら救われるかもしれない……」と。今まで家族には無関心だと思っていた父親が、ちゃんと家族のことを考えてくれていたのです。その瞬間、私たち家族に一筋の光が射しました。それは真っ暗闇のドン底に堕ちたからこそ見える希望の光でした。

その水谷修先生から茨城ダルク(薬物依存症リハビリ施設)の岩井さんを紹介してもらい、さっそく母親が相談の電話をすると「家族会というのがあるから来てみなさい」と言われ、大雪の降る日、すがる気持で向かいました。あのときの母のメモ書きを後に見たんですが、会場までの道のりや電車の時刻が書かれた端っこに走り書きで 「大雪に 新たな決意 母は燃ゆ」 とありました……。

――実際にダルク(薬物依存症回復施設)の家族会に参加されていかがでしたか?

そこの薬物依存者を抱える家族会では、私たち家族も共依存症という病気であると知りました。共に回復するためには、愛ある突き放しも必要なのだと。私は意を決し「しばらく弟から離れよう」と両親を説得しました。

親が子を捨てるのか? 兄が弟を見放すのか? 世間体を重んずる日本社会では、そう思う人が多いかもしれません。でも私たちにとっては「まず自分が変わらなきゃ、何も変わらない」と信じるしかなかった。あれが私たち家族にとっての転機(ターニング・ポイント)になったと思います。

内谷正文さん
俳優&モデル 1969生まれ 湘南生まれの埼玉育ち
舞台俳優として活動する傍ら、薬物依存をテーマにした一人芝居をライフワークとし、全国の学校等で数多く公演を行っている。また自身の劇団【フランクエイジカンパニー】をはじめ、他の劇団の客演としても幅広い役柄で活躍中。
内谷正文HP http://bumi.jp 

(写真)川久保繁樹

――弟さんは、内谷さんの現在の活動については何とおっしゃっていますか?

一人芝居を始めて間もない頃、弟に照明を手伝ってもらったことがあり、終わってから「どうだった?」と聞いたら「いいじゃんアニキ! 頑張ってね」と。ホッとしたと同時にこの一人芝居を続けていこうと決心した瞬間でもありました。

弟は現在、新天地で就職して結婚し、二人の子どもにも恵まれ着実に回復しています。これは本当に珍しい一例です。薬物を使った人間は、新しい生き方を見つけないと再生できないと言われていて、この活動は薬物乱用防止だけではなく、まだ苦しみの闇の中にいる人たちにも光はあること、あきらめない勇気を持ってほしいとの強い願いが込められています。

■活動を続けるのは子どもたちのため

(写真)川久保繁樹

――清原和博さんについて、どう思われますか?

彼は私たち世代にとって影響力のあるスターです。しかし過去のことは忘れて自分をさらけ出し、そして子どもたちに薬物依存症の現実や恐ろしさを伝えてほしいですね。彼さえその気になれば、たくさんの人が救われるはずです。彼自身にとっても回復のキッカケになるし、それが新しい生き方だと思うのです。彼だからできること、彼だからこそ響く言葉を、ぜひ伝えてもらいたい。私なんかより何百倍も影響力を持っている方なんですから。

――これまで一人芝居をしていく中で、不安や迷いはありませんでしたか?

不思議とありません! それは母親譲りの楽観的な性格だからかな(笑)?
もちろん「どうして自分がこんなことしてるんだろう……」と考えたことも正直あります。でも子どもたちの前で一人芝居と体験談話をして、その真剣な眼差しを感じると「やっぱりがんばっていこう」と思えるんですよ。振り返ると最初の2~3年は、とにかく薬物依存症のことを知ってもらいたい使命感で、お祭りの大道芸コーナー(公園)でジャグリングや風船芸に混じって真夏の炎天下、必死に汗だくでやってました(笑)。

それから2007年に朝日新聞の【ひと】の欄に掲載していただいたのをキッカケに、学校公演が始まり一人芝居&体験談という形態もできました。熊本の教育委員会のある女性が「子どもたちに薬物依存の怖さを感じてもらいたい」と検索していたら私の活動を見つけてくれ、地元の中学校に呼んでくださったんです。

こういうカリスマ的な地域の方や変わり者の先生(笑)のような真剣な大人が子どもを守っているんだなと痛感します。私の活動は呼んでいただかなければ成り立ちません。その熊本の中学校は今年で9年連続も公演させていただきます。地域的には、特に熊本や静岡は何度も何度も呼んでくださり、ご縁を感じていますね。

東京での公演が割と少ないのは寂しいんですけど……(苦笑)。薬物使用が低年齢化しているのは決して子どもだけのせいじゃない。だって薬物を作ってるのも売ってるのも大人なんですから。大人が変われば子どもの未来も変わる。だからもっと大人にも一人芝居を見て欲しいですね。

■生きることは、すべてを受け入れて前進すること

(写真)川久保繁樹

――今まで印象に残っている一人芝居はありますか?

ある中学校で公演した後に、少女から涙声で「生きるってどういうことですか?」と質問されたことがあります。その真っすぐな瞳に私も思わず泣きそうになるのを堪えて答えました。「すべてを受け入れて前に進むことだと思うよ」と。すると少女は涙を拭い「ありがとうございます!!」と明るい表情になって……。

周りの大人たちは「あの少女は一体何に悩んでいるんでしょう?」と心配していました。もちろん私にも理由はわからない。ただ普段は物静かな一生徒が、大勢の中で自分をさらけ出して質問した勇気! それだけで彼女の中の何かが変わったはずです。

――昨秋から、様々な分野の方とコラボ(一人芝居+トークライヴ)を始めましたね。

今まではずっと一人でやってきたんですけど、熊本の八代市に招かれて公演したときに、沖縄の少女院の職員の方がわざわざ見に来てくださり「是非うちでもやってほしい」と声をかけてくださったんです。一番必要性のある場所でもあるし、今すぐ飛んでいきたい! と思いました。

しかし沖縄へ行く交通費や、協力してくださる方への謝礼等、最低限の経費が捻出できなければ実現できない……。そこで考えたのは「もっと活動の場を広げ、活動資金を作り、一人でも多くの人と関わってゆこう」というアイデア。それが【今日一日を生きるLIVEプロジェクト】を立ち上げたキッカケです。

様々な活動をしている方とコラボレーションして、人と人との関わりの大切さを生で感じてもらえるLIVEを目指し、毎回テーマを変えて賛同してくださった方々に出演していただいてます。

第1弾は、アーサー・ホーランドさん(不良牧師と呼ばれる俺の尊敬する先輩)と秋田豊さん(元Jリーガーで日本代表であり素敵な友人)、第2弾は、樋口大悟さん(白血病と戦う俳優であり大切な後輩)と水野江莉花さん(女優&パフォーマーであり20年来の可愛い妹分)と共演しました。そして皆様のお力添えのおかげで、昨年末に念願の沖縄の少年刑務所と少女刑務所へ行く夢が叶いました。

■故郷・志木市で6.11にイベント開催

――そして近々、コラボイベントの第3弾があるそうですが。

今月の6月11日(土)に満を持して、私の地元・埼玉県志木市民会館で【今日一日を生きるLIVEプロジェクトVol.3】をやります。今回のゲストは、聾唖(ろうあ)の女優・忍足亜希子さんと、劇団キャラメルボックスで活躍中の三浦剛さん。このお二人はご夫婦なんですが、息の合った透明感のある手話アクトパフォーマンスは必見です。

それと客演でお世話になっている劇団東京マハロ主宰で、最近は前田敦子さん主演の深夜の人気ドラマ【毒島ゆり子のせきらら日記】の脚本家・矢島弘一さんが舞台の構成と演出をしてくれるという、何とも贅沢なイベントになっています。

――正に、“故郷に錦を飾る”ですね。

あははっ! そうなると良いのですが。今回は志木市主催で、その他たくさんの仲間や企業に協賛いただいてます。チラシは全部で15000枚ほど用意し、800席満席を目指しています。近所のオジサンとかが管理組合に話を通してくれ「団地内にチラシ200枚張っていいよ」って(笑)。そんな地域の方たちの気持ちが嬉しくて。

今や告知はFacebookなどSNSが主流でペーパレスな時代ですが、まだまだ年配の方や地域によってはチラシが重要なんですよ。知り合いのお店に行くとチラシを快く貼ってくれたり、入口の目立つ場所に置いてくれるんです。「いつか何か一緒にやろうな」と言ってくれる方も多くて、ホントありがたいですよね。

今後も志木市からいろんなことを発信していきたいと思っています。「でも志木って遠いんじゃない?」と思っている方、そんなことはございません(笑)。池袋からなら電車で20分程度ですし、今回は無料公演ですので、ご興味を持ってくださった方は是非いらしてください!!

(#3に続く)

取材・構成=鈴木ユミコ (MC & Writer)

〔今日一日を生きるLIVEプロジェクトVol.3〕~Goodbye Drugs, Goodby Addiction~

1)一人芝居 【ADDICTION今日一日を生きる君】…内谷正文
2)体験談「壁のない生活」~聴者と聾者の生活~&手話パフォーマンス…三浦剛×忍足亜希子
3)トークセッション「マイナスをプラスに!」…内谷正文×三浦剛×忍足亜希子
(司会)篠原あさみ

◎入場無料
・日時…2016年6月11日(土) 14時~16時 (開場13時15分)
・場所…志木市民会館パルシティ   
     (埼玉県志木市本町1-11-50  TEL 048-474-3030)
・アクセス…東武東上線〔志木駅〕下車  東口より徒歩15分
・問い合わせ先…志木市役所 生涯学習課 TEL 048-474-1111

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