平凡な日に花束を受け取る幸せ 【DRESS WEB編集長コラム 今月のDRESSな男女 #4】
花=特別な日に贈るもの、というのは決めつけだ。何気ないごく普通の日に、サッと花束をプレゼントできる大人になりたい。
死ぬまでに一度は、恋仲にある男性から、薔薇の花束を渡されてみたい。
色指定ができるなら、希望は真紅。本数指定ができるなら、希望は年齢の数(いずれもあくまで願望ゆえ、「面倒くさい女だ」と呆れないでいただきたい)。
ベタなイメージ(創作物の世界においては)があるせいか、現実では目にしないシーンで、人前で口にしたことはないけれど、実はかなり憧れがある。当然、未経験である。なかなかそんな機会はないし、相手もいない。
そもそも、花束を贈る=誕生日やクリスマスをはじめとしたイベント時、といった印象が根強くある。薔薇の花束ではないけれど、あるときの誕生日やホワイトデーにはミニブーケを、クリスマスにはポインセチアをもらった。私と当時の彼にとって、花はイベントと共に存在していたのだと思う。
しかし、そんなのは思い込みにすぎない。気づかせてくれたのは、聡明でカッコいい、強さとしなやかさを兼ね備えた年上の女性である。先日お会いしたとき、彼女はサーモンオレンジ色をした薔薇の花束を「池田さんぽいと思って買ってきたんです」と手渡してくれた。
「ラ・シャンス」というその薔薇は、フランス語で「幸運」というらしい。アンティーク調の色合いは、落ち着きと品があり、ひと目で気に入った。「花持ちがとてもよい品種で、1週間くらいは楽しめると思います」と説明してくれた。ズボラな私にぴったりで、よくわかってくださっている、と感動。
花はキッチンやダイニングなどの火元の近くは避けたほうがいい。寝室に置くといい。眠る前に香りをかぐと心が安らぐ。彼女からいろいろなアドバイスを得て帰宅後、寝室の机に10本のラ・シャンスを活けた花瓶を置いた。
水換え時や就寝前、起床後、花の香りをかぎたくなって寝室をうろつくとき……ラ・シャンスのそばに行く度に、たくさんの品種の中から「私らしい薔薇」を選んでくれた彼女の心遣いを思い出す。
誕生日でも記念日でもイベントデーでもない。何の変哲もない、いつもの月曜日だった。日常に彩りを与えてくれたことに感謝し、彼女のようにごくさり気なく、贈る相手を想像して、花束をプレゼントできる女性になりたいと思った。