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これからの働き方は、例えるならば山登りではなく山歩き  〜キャリア・スライディングのすすめ〜

一つの仕事にしがみつかず、一つのスキルに頼りすぎない。複数の仕事を同時並行的にやってみる。別のスキルを磨いてみる……時代の変化にしなやかに対応するために、「キャリア・スライディング」という働き方を考えてみませんか。

これからの働き方は、例えるならば山登りではなく山歩き  〜キャリア・スライディングのすすめ〜

 半年ぶりの更新になりました。

 つい最近まで1ヶ月以上、海外で仕事をしていたこともあって、身辺がちょっとバタついています。内閣府主催の青年育成事業「世界青年の船」にお声がけいただき、スリランカ、インド、シンガポールの2カ国をまわってきました。日本を含むバーレーンやオーストラリア、メキシコなど世界11カ国から青年約240名を招聘し、洋上でリーダーシップ研修を行うプロジェクトです。私は「ビジネス・起業」をテーマに参加青年たちのディスカッションを促すファシリテーターとして乗船しました。初めての英語での仕事ということで、オファーのあった頃から緊張していましたし、実際に乗船してからも失敗の連続でだいぶ精神的に落ち込んだりもしたのですが……。今は無事にやりきって、ホッとしています。

 1月半ばからこの仕事にかかりきりだったので、今更ながら、日本での「2016年」はまだはじまったばかりのようです。2015年を振り返ってみると、「海外:東京:地方」が「5:4:1」の割合でした。もうちょっと、海外の比率が高いかもしれません。書籍や連載の取材、講演、フィリピンの英語学校のプロデュースなど、多岐に渡る活動が海外でも少しずつできるようになってきました。まだまだ海外での仕事は単発モノが多くて、安定した仕事と呼べるようなものはこれからなのですが、今後は海外で自著が出版できるように、2016年は執筆業も頑張ろうと思っています。

 出版といえば、2014年10月〜12月に実施した「DRESS自立塾」での講義が書籍『会社を辞めても辞めなくてもどこでも稼げる仕事術』となり、昨年11月末に発売になりました。サイバーエージェント藤田社長、「WIRED CAFÉ」など全国にカフェ事業を展開するカフェ・カンパニー楠本社長、ネイルサロン「ネイルクイック」を手がける坂野社長など、豪華メンバーによる講義は、起業や好きなことを極めるというかたちで自立を目指す女性たちを大いに刺激したようです。卒業生は、この1年で大活躍! Project DRESSでも連載中の藤瀬聖さんや輪湖もなみさんをはじめ、メディア露出や独立、転職、資格取得、会社での表彰など嬉しい報告が続々と続いています。4月には同窓会も企画していて、皆さんと一同に会する機会を楽しみにしています。

 前置きが長くなりましたが(久しぶりの更新なので、ご容赦ください!)、本題に移ります。今回のテーマは、「キャリア・スライディング」という働き方のすすめ。キャリア・スライディングとは、先述した『会社を辞めても辞めなくてもどこでも稼げる仕事術』でも紹介した、私が最近提唱しているワークスタイルのこと。キャリア・スライディングについて論じる前に、本から私の言葉を一部引用することにします。

 私はいま「キャリア・アップ」という概念にも疑問を感じています。もちろん、より高い成果を残したり、社会や周囲の人達に貢献するためにも、スキルを磨き 続ける努力は大事です。でも一方で、「キャリア・アップ」という言葉から連想されるような、「より高いポジション」「より高い報酬」「より高い専門性」と いう「右肩上がりの成長」を目指すキャリアスタイルに私は違和感を抱いてしまいます。むしろこれからの時代は、「一生モノのキャリアを目指さない」という 新しい発想からキャリアを考えていくことも必要だと思うのです。

 ビジネス書やビジネスパーソン向け雑誌などを読めば必ずといっていいほど登場する、「キャリア・アップ」という言葉。この言葉に長年もやもやとした違和感を抱き続けてきた私が、数年間のフリーランス生活を経てようやく出せた答えが、「一生モノのキャリアを目指さない」という発想でした。おそらく、多くの人が「えっ?」と驚かれるかもしれません。でも、一度よく考えてみてください。私たちの体に新陳代謝があるように、世の中の移り変わりもまた、流行り廃りという新陳代謝があります。10年前にはなかった仕事が登場することもあれば、10年前には当たり前のようにあった仕事が消えていくこともまた、あるわけです。

 ホテルスタッフにロボットが起用されて話題になったホテルがあるように、ロボットはこれから、介護用ロボットなどの需要を大きく超えて、広範囲に採用されるでしょう。自動運転も2020年の(一部)実用化を目指して日本でも進んでいます。ドローンが一般にまで広まるようになったら、流通の仕組みも大きく変わるかもしれません。そもそも、SNSやインターネットが存在しなかった数十年前は、こうしてホームページをつくるプログラマーも、Webデザイナーもこの世に存在しなかったわけです。

 世の中が移り変わりゆくことが不可避だとすれば、変わるのは私たちであり、私たちの思考です。その時代の変化にいつもしなやかに対応できるように、あえて一つの仕事にしがみつかず、一つのスキルに頼りすぎないこと。複数の仕事を同時にやってみたり、ある程度ひとつのスキルを磨いたらまた別のスキルを磨くようにしてみたり、「より高い専門性」「より高い報酬」「より高いポジション」を目指さない、と決めたら、見えてくるキャリアの景色がぐっと変わってくるはずです。

 それは例えるならば、「山登りから山歩きへ」。頂上を目指す登山ではなく、山を歩く行為そのものを楽しむ山歩きへシフトすること。山歩きは良い意味で、目的地にこだわりすぎないこと。道の途中の美しい花や美味しい空気、出会う人たちとの偶然の会話を味わいながら、じっくりと、ゆっくりと、そしてもっと自由に、山そのものを楽しむことです。そんな山歩きの姿勢が、仕事にも言えるのだと思います。それが、「キャリア・アップ」をやめて、「キャリア・スライディング」へ目を向けてみませんか? という私の提案です。

 ある雑誌を読んでいたときに、「ワンダーフォーゲル」の起源を知りました。ワンダーフォーゲルとは山歩きなわけですが、そもそもの根幹には、「山に入り、ゆっくりと山歩きをしながら、自分の内面を見つめること」に意味を見出す哲学があったそうです。自分を見つめるために、大自然の山の力を借りる。それも、頂上を目指すというかたちではなく、山そのものを味わうという行為の中で。そう、人生も、人生を彩るキャリアというものもまた、自分を深く知ることにつながっていくんだな、としみじみせずにはいられません。

安藤 美冬

フリーランサー、コラムニスト。1980年生まれ、東京育ち。(株)集英社で広告と書籍の宣伝業務を経て独立。組織に属さないフリーランスとして、ソーシャルメディアでの発信を駆使した肩書や専門領域にとらわ れない独自のワーク&ライフ...

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