セックスシーンが最高な3冊
中学生の初体験、「人生最後にしたくなる」ようなセックス、物言わぬ妻との交わり――。物語に登場する、叙情的なラブシーン。雨あがりの少女さんが、セックスシーンが印象的な小説3作品を紹介します。(一部ネタバレを含みます)
■「皮膚の内側にいきたい」という少女の本能的欲求にハッとする
村田沙耶香『魔法のからだ』
村田沙耶香さんの短編集『生命式』に収録されている、『魔法のからだ』という短編が大好きだ。中学生の少女たちのセックスや自慰の体験が語られている。よくわからない性知識や背伸びしたテクニック論が噂されるなかで、いとこの男の子とセックスをしたという少女の感覚のみずみずしさが際立っている。
「うーん、うまく説明できないけど……それがセックスだってことまでは、あんまり考えてなかったんだ。抱き合っているうちに、彼の皮膚の内側に行きたくなったの。それだけ」
『生命式』収録『魔法のからだ』村田沙耶香著, 河出書房新社, 2019年, 139頁
「ディープキスをしよう」として舌をさしこむのではなく、「柔らかくておいしそうだから」口の内側を舐めてみる。理論以前の衝動に任せ、好きな人のからだを、自分のからだを知っていく。内臓は柔らかい。血の味がする。粘膜からはとめどなく水が湧き出てくる。
おまえオナニーしてるんじゃないの、などとクラスメイトをからかう男の子に、彼女がおまじないのような言葉をとなえる場面がある。「……私たちの快楽は私たちのもの、あなたたちの快楽もあなたたちのもの」。ああ、そうだ、と思う。誰にもからかわれたり、指図されたりしなくていい。上手じゃなくていいし、思うままでいい。私たちの快楽は私たちのものだ。
通説やカタチにとらわれず、いつだって自分から湧きでる欲求のやりとりをしたい。セックスってそれだけでいいよな、と思わせられる小説だ。
■あまりに素敵すぎて人生最後にしたくなるセックスとは?
村上春樹『ノルウェイの森』
村上春樹さんの代表作のひとつ、『ノルウェイの森』にはいくつかの性的なシーンがあるけれど、私は断然、一番最後のレイコさんとの二回目のセックスシーン推しである。お風呂屋に行って帰ってきて、ふたりでワインを一本あけつつ、ギターで50曲も演奏したあと。一度目は意図せずすぐに射精してしまって終わるのだが、しばらくして彼らはもう一度交わる。
「僕は彼女を抱いて静かにペニスを動かしながら、二人でいろんな話をした。彼女の中に入ったまま話をするのはとても素敵だった。僕が冗談を言って彼女がくすくす笑うと、その震動がペニスにつたわってきた。僕らは長いあいだずっとそのまま抱きあっていた。」
『ノルウェイの森(下)』村上春樹著, 講談社文庫, 2004年, 289頁
「とても素敵だった」というのは、小説にしてはあまりに素直すぎる表現に思えるけれど、おっしゃるとおり、とても素敵なのだ! 性欲に任せた衝動的なセックスもいいけれど、時間をともに過ごし、物語をふたりでつくる手段としてのセックスもいい。
ちなみに、事後に彼女が「私もう一生これやんなくていいわよね?」と言う。あまりに素敵すぎて、もう一生やらなくてもいい、これで最後にしたいと思えるセックスって最高だ。
■性別も主体もあいまいになっていく、その倒錯がエロい
河野多惠子『半所有者』
河野多惠子さんの短い小説『半所有者』。全ページ袋とじになっている単行本は、佇まいからしてイケナイ雰囲気を醸している。亡くなったばかりの妻と残された夫がセックスをするという内容。とはいっても妻は既に亡くなっているので意思も反応もない。たぶん褒められた行為ではないだろうが、この「いけなさ」に引き込まれてしまうのも確かなのだ。
「一段の冷たさが鮮烈だった。その冷たさには、繰り返す都度、募る鮮烈さと相俟って、突きあげられる感じがあった。女体の場合の快感とは、こういうものであったのか。彼は女体になり替った気がした。」
『半所有者』河野多惠子著, 新潮社, 2001年, 35頁
私はいつも、役割や性別がベッドの上で反転するのがエロいなと思っている。性的な倒錯や混乱って、快感に直接つながっているような気がする。先日、彼のボクサーパンツを冗談で履いてみたら、彼が思いのほか興奮していておもしろかった。私のパンツも彼に履いてほしい。
抱いているはずの妻の体の、その冷たさと固さに、逆に突き上げられる感覚。夫は自分が女性として抱かれているような感覚をおぼえ、興奮していく。亡くなってから性別が反転(したような感じが)するって、すごくエッチでおもしろいと思うのだ。
ちなみに『半所有者』というタイトルは、まだ火葬する前の遺体の所有権は配偶者にあるのか、法律を調べてもきちんと定義されていなかったということが由来になっている。
いくら夫婦であっても、愛しあっていても、生きている他人を所有することはできない。それはセックスの悲しみであると同時におもしろみでもあるが、相手が死んでいたならどうだろうか。愛する人の死を通して、そもそもセックスとは何なのか、欲望とは何なのか、考えさせられる小説である。
セックスは舞台。いつも世界の背景に溶けてる地味な私でも、ベッドの上では主役になれる。日々ツイッターでセックス&オナニーポエムを書いてます。