「記憶に残るセックス」3つの要素
永く記憶に残り続けるセックスと、すぐに忘れてしまうセックス。両者を分けるものは、一体何なのだろう。雨あがりの少女さんが考える、忘れられないセックスの3つの要素とは。
■「相手の記憶に残りたい」と願うあなたへ
たとえ好きな人の一番好きな人になれなくても、最後に好きになった人になれなくても、記憶に残る人になりたいなと思う。セックスしたからといって彼の皮膚や臓器に私の細胞が残るわけではないのなら、せめて脳の片隅にずっと居座っていたい、そう思うのが淡い恋心というものではないだろうか。
いつもぼんやりそんなことを考えている。
編集担当の方から「記憶に残るセックスと、すぐに忘れてしまうセックスの違いは何でしょうか」とテーマをもらったとき、ちょっと変な話だけれど、ああそうか、私も「忘れる側」なのか、と思った。いつも相手の記憶に残りたい、忘れられたくない、ということばかり考えていて、自分が「忘れる」という機能を持っていることを忘れていた(変な言い方!)。
このページを読んでくれている人の多くは、きっと私と同じように、相手の記憶に残りたいと願っている人だと思う。私の「忘れる側」としての経験がどれほど役に立つかわからないけれど、顔の見えない同士のために、今日はエッセイを書いていきたい。
■記憶に残るセックスの3要素
1.主体性があること
相手から誘ってもらってなんとなく応じた受け身のセックスよりも、あれこれ考えて自分から仕掛けたセックスをよく覚えている。誰かについていった道よりも、自分で調べて行きついた道をよく覚えているのと同じことだと思う。
自分から何年も口説き続けて、シチュエーションも狙いに狙って、やっと寝た人との夜、わき腹を軽く撫でられるだけで驚くほど気持ちよかったことを覚えている。くちびるとくちびるをいざ合わせる瞬間のことも、相手に任せるのではなく、自分で逡巡した末のことだからこそ記憶に残っている。
そういう意味では、相手の記憶に残るセックスができるかどうかって、テクニックがどうとかよりも、彼/彼女の主体性を引き出せるかどうかにかかっているのかもしれない。うまいショーを見るよりも、どんなにへたでも舞台に上がるほうが記憶に残る。ふたりでショーをつくっていくようなセックスができたら、それは確実に忘れられないものになりそうだ。
2.自分自身の知らない面が引き出されること
たとえば初めて耳を噛まれたりおしりをつねられたり、あるいは相手の頬を叩いてみたり、そういうことで想像以上に興奮してしまったとき、「私の知らなかった私に出会えた」という感覚を覚える。私ってこういうことで感じるんだ、私ってこういう体をしてるんだ、私ってこんな声が出るんだ。自分自身の新しい一面が引き出されてしまったセックスは、覚醒的な喜びをともなう。
ある程度長く生きていると、自分のことはよくわかったような気がしているものだ。自分の性感帯もだいたいはわかっているし、好きなアダルトビデオのジャンルもほぼ固まってきている。そこを覆してくる人はすごいなと思うし、たとえ一度きりのセックスであっても、その夜のことはずっと覚えている。
きっと、相手の想定している好みのプレイを探すというより、そんなことをいったん無視できる能力が必要なんだと思う。効率的にオーガズムに導く方法なんかも考えないほうがいいだろう。お互い未知の場所に踏み出し、そして新しい自分と相手に、出会う。きっと一生忘れないセックスになる。
3.物語があること
文脈のない唐突なセックスも場合によってはすてきだけれど、やっぱりこれまでの伏線を一気に回収していくような物語性のあるセックスをよく覚えている。「あのころ好きだったんだよ」と10年前の恋を打ち明けあい、「そのホクロが可愛いと思ってた」と頬を舐められたあの夜のことはきっと長く忘れられない。
ちなみに長い年月をかけなくても、ある程度、物語を捏造することは可能だと思う。たとえば私は匿名でSNSをやっているが、たまにお話する人から先日「僕たち、会ったことありますか?」というメッセージが届いた。会ったことがない旨を返信すると、「もし出会っても、僕が気づくまでは教えないでくださいね」とのことだった。正直ちょっとうさんくさい気もするけれど、こういう仕掛け方って、今後の私たちのすべてを物語化しうるよなあとも思ったのだった。
事前に何もストーリーがなくても、事後のピロートークで演出することもできるだろう。私はよく好きな人の昔話を聞いたり、あるいは何十年後の私たちについて語ったりする。想像上の前世や来世の話もする。必要なのは、ふたりの運命を共有するための物語だ。私たちはなるべくしてこうなったんだ、と錯覚できる物語を臆せずどこまでも語ろう。きっと忘れられない夜になるから。