試行錯誤しながら自分に合うメイクを知ると、揺るぎない自信につながる【はらちゃん×劇団雌猫】
「今はいろんなバリエーションのメイクを試したことで、自分にとって何が似合う・似合わないのかわかるようになりました」
「誰のためにメイクしてる?」
劇団雌猫が昨年10月に出した新刊『だから私はメイクする』には、そんな問いとともに、さまざまな目的をもっておしゃれをする女性たちの寄稿が掲載されている。
そこに描かれているのは、自分の顔を「真っ白なキャンバス」としてお絵描き(=化粧)にハマる女性や自分の理想とするバストを手に入れるため育乳に励む女性、デパートの販売員として相応の容姿を実現するためにメイクを勉強する女性……など多種多様。どうしても、メイクやファッションは「モテ」のイメージとつながりやすいが、よくよく見てみれば、そこにある目的や手段は人それぞれだ。
一方、特に独特のメイクの楽しみ方をしている女性がいる。漫才コンビゆにばーすのはらちゃんだ。
昨年出した『欠点の数ほど美人になれる! ゆにばーす はらの♯詐欺メイク』(以下、「詐欺メイク」)には、彼女が独学で生み出してきた「詐欺メイク」メソッドの数々が紹介されている。
書籍や、彼女のInstagramに並ぶ写真の数々は、一見してゆにばーすのはらちゃんだと気づくものではないだろう。
最近では、美容雑誌の付録などでコラボするなど、メイクの世界に深く携わるようになった彼女だが、舞台上では依然薄化粧で「ブスいじり」も多くされている。
詐欺メイクはあくまで家の中だけの、たったひとりのお楽しみだという。
果たして彼女のメイクのモチベーションはどこからくるのだろうか。劇団雌猫が聞いた。
劇団雌猫
もぐもぐ、ひらりさ、かん、ユッケのアラサー女性4人組からなるサークル。もぐもぐは宝塚歌劇団・ひらりさはBL・かんはK-POP・ユッケはジャニーズなどに情熱を捧ぐ。2016年冬からインターネットで言えない話を集めた同人誌「悪友」シリーズを作り始める。「浪費図鑑」や「シン・浪費図鑑」として書籍も発売。Twitter:@aku__you
■でっかいタンスの前で自分に酔うんです
お笑いコンビ「ゆにばーす」はらちゃん。1989年11月7日生まれ。2018年M-1グランプリでは決勝に進出。自身のSNSに「詐欺メイク」を施した自撮り画像を投稿して話題になり、『VOCE』(講談社)などの人気女性誌でも取り上げられるほどに。2018年8月には初の自著『ゆにばーすはらの#詐欺メイク』を発売。Twitter:@67gS1W9wzxQphSW
ひらりさ:『詐欺メイク』で紹介されているメソッド、どれもとても実践的で面白かったです。写真の変身っぷりもすごいですよね。海外セレブとか、スレンダーなスタイルに見える写真もあったので、今日実際にお会いしてみて、思っていたよりも小柄でまた驚きました。
はらちゃん:ありがとうございます! 実際は150㎝なんですよ。
ユッケ:身長まで変わって見えるというのはすごいですね。
かん:自撮り写真は普段家で撮っているんですか?
はらちゃん:そうですね。今は引っ越しちゃったんですけど、Instagramに載せていた写真はほとんどおばあちゃんちのでっかいタンスの前で撮ってます。だから全部背景が茶色いんですよ。
ひらりさ:メイクのテイストによってポージングも変えていますが、これは誰か参考にしたりしているんですか?
はらちゃん:ポージングは、可愛い写りを考えているうちに自然に出てきます! 究極の一枚を撮るために必要なのは、自分に酔うことなんですよ。女優みたいに役に入り込むイメージですね。
もぐもぐ:そう聞くと、たしかにはらちゃんの詐欺メイクって、「ちょっとメイクのテイストを変えて可愛くなろう」というよりは、「別の誰かに変身する」みたいな感じの楽しさがあるんですよね。たとえばウィッグとかも、コスプレとかではなくて、「自分の雰囲気を変えたい」とか「役者のような気分で自分を鼓舞する」みたいなときにも使えるんだな、って発見があって。
はらちゃん:それはたしかにありますね。
ひらりさ:メイクをちょっと変えてみよう、とかではなくて、もっと大胆に「新しい自分を作ってみよう」みたいな楽しみ方はいいですよね。
もぐもぐ:うん、自分が高校生になってメイクを覚えたての頃に、家でひとりで集めたメイク道具を試してたときを思い出しました。アイラインめっちゃ太く引いちゃおうかな、みたいなワクワク感。アラサーになると、どうしてもそういう冒険しなくなっちゃうんですよね。
かん:やっぱり仕事に行くときとかだいたい同じメイクになるんですよ。それが楽だし、「今日はいつもより赤いね」とか言われたくもないから。でも、家ではめっちゃ派手なシャドウとかラインを引くときもあって……、ただ、そういうときは外には出ないっていうの、けっこうあるあるな気がします(笑)。
■みんなのために可愛くなりすぎない
ひらりさ:普段の化粧道具はどうやってリサーチしているんですか?
はらちゃん:美容系の雑誌はほとんど読みますね。美的、ヴォーチェ、マキア、とか。たまにViViとかアゲハみたいな趣向の違うものも買って楽しみます。あとは、伊勢丹のコスメカウンターを見ながら流行りの色味をチェックしたり、あとはやっぱりメイクさんに聞くことが多いです。
かん:そうか、メイクさんに聞くという選択肢があるんですね。チートだ。
はらちゃん:でも、結局普段使いのコスメは昔から使っているのに落ち着いちゃうんですよね。チャコットが好きで、よく使ってます。
はらちゃんの化粧ポーチの中身を見せていただいた。
ひらりさ:舞台に立つお仕事だと化粧が落ちやすいイメージがあります。
はらちゃん:落ちますね! なので、こまめにパウダーで抑えたりしています。
もぐもぐ:ちなみに、芸人というお仕事って、モデルや女優のような人たちと比べて、どちらかというとカジュアルだったり素だったりするところを求められているイメージがあります。可愛いメイクができないもどかしさみたいなものってあるんですか?
はらちゃん:そこは全くないですね。芸人とメイクは私の中で完全に別物なんです。どちらもそれぞれ楽しんでいるというか。むしろあんまり可愛くなりすぎちゃうと、芸人の仕事で笑ってもらいにくくなるので、みんなのために抑えるようにしていますね。
ユッケ:割り切ってるんですね。
はらちゃん:ただ最近、先輩とかから「お前可愛くなったんじゃないか」って言われることが増えてきたので、ちょっと気をつけなきゃなって反省しています。
もぐもぐ:それ、たぶん褒め言葉じゃないですか……?
■化粧で変わる「周りの反応」が楽しい
ひらりさ:私たち劇団雌猫が出した『だから私はメイクする』という本では、メイクする目的を「自分のため」「他人のため」「まだわかっていない」という3つのパターンで章立てしておしゃれを楽しむさまざまな女性に登場してもらいました。はらちゃんさんは、実際に読んでみて特に共感した方などはいましたか?
はらちゃん:そうですね……あだ名が「叶美香」の女・ニシキヘビさんは「私のことか?」と思うくらい経緯が似てました。
あだ名が「叶美香」の女
特におしゃれに興味を持つことなく、ジャニーズを応援したりBLを読んだりして趣味を楽しんでいた中高生時代から一転、大学入学を機に「せめて人並みにこ綺麗になりたい」と思ったニシキヘビさん(30)は、次第にメイク自体にのめり込んでいくようになる。自身の地味顔を「真っ白なキャンバス」と呼び、描けば描くほどおもしろいくらいに顔が変身していくことに面白みを見出していく。化粧で一度に使うアイテムは20以上、かける時間は1時間半。
はらちゃん:顔が変幻自在になると楽しいんですよね。私は彼氏ではなく友達にギャップを見せるのが楽しかったのです。ちなみに、叶美香の女さんは彼氏にすっぴんが「千原ジュニアみたい」だと言われたと書いてましたが、私はみんなに「すっぴんが古田新太さん」と言われていました。そういう部分も親近感が湧きましたね。
かん:すっぴんからメイクをしたときに「ギャップ」が面白いと感じるんですね。
はらちゃん:ただ、ニシキヘビさんと私が違う点は、男性ウケも含めて楽しんでいるところですかね。そもそも私がメイクを始めた理由って「モテるため」だったんですよ。なかなか彼氏ができない時期に、「私だってモテることはできるはずだ」と思って、出会い系サイトに登録するために化粧と自撮りをやり始めたんです。
ユッケ:あ、そうなんですね。メイク自体を楽しんでいるイメージがあったので、ちょっと意外。
はらちゃん:当時、究極の一枚をサイトに登録したら、すごい数のアプローチがあって。そのときは、私が評価されているアプリの画面を紋所のように周りに見せていったんですけど。それがすごく自信につながったんですよ。そこからメイクと自撮りの可能性にのめり込んでいったというか。
かん:たしかに、反応が返ってくるからこそうれしいし、より楽しくなることってありますよね。
はらちゃん:そうですそうです、メイクを重ねていくうちに相手の反応がどう変わるのか、というのがとにかく楽しくなってきて。この仕事を始めてからも男芸人とかに「この写真の子となら付き合いたい」みたいなこと言われると、「やった!」ってガッツポーズしちゃう、みたいな。
ひらりさ:似合う・似合わないの判断は、毎回自分でするんですか?
はらちゃん:いや、けっこう周りの人に聞きますね。自分だけだとどうしても方向性を間違えて、迷走してしまいがちなので。良い写真が撮れたときは、友達にLINEで送ったり、劇場の人たちに統計とったりするんですよ。「どれが一番可愛い?」って。
かん:私の友人もInstagramに自撮りをアップするときに、「この中でどれが一番盛れてる?」みたいな連絡をくれたりします。多数決をとってSNSにあげる写真を研ぎ澄ませているんだなって。
もぐもぐ:それって自分が気に入っている写真と周りが良いと思う写真って違ったりするのかな。
はらちゃん:もう全然違います……。
かん:本人が良いって言ってる写真って、ちょっとやりすぎだったりするんですよね。派手過ぎていたり、自分が思うその人の良さが出ていなかったり。
はらちゃん:友人や周囲の人に聞いていく中に学びがありますよね。「こういう顔がダメなんだ」とか「この顔が男には受けたりするんだな」とか。そうやって反応を見てるときが、私にとっては一番テンション上がる瞬間なんです。
ユッケ:たとえばそこで、素の自分を好きになってほしいのに、みたいな思いはないんですか?
はらちゃん:もちろん、リアルの自分を好きになってもらいたいという気持ちはあります。でも、化粧をして、自撮りをして、他人からのアクションをもらう、というのを繰り返しているうちに、「自分のリアルの顔と自撮りで見ている顔はかなりギャップがある」というのが痛いほどわかったので(笑)、そこにあまり執着しなくなったところはありますね。
ひらりさ:フィードバックをもらうことで自分のことを客観視できるようになったんですね。ちなみに、詐欺メイクをすることで自分の内面に変化などはありましたか?
はらちゃん:ポジティブになったな~、と思います。たとえば、コンプレックスと向き合い続ける時間が長いからか、それをうまく活かしたりするような方法も考えついたりして、昔ほどコンプレックスが嫌にならなくなりました。
かん:メイクでコンプレックスを克服できるっていうのは素敵ですよね。
はらちゃん:あと、そもそも、昔は自分の顔を客観視できなかった分、どこかずっと自信がなかったんですよね。昔のプリクラとか見ると「あ~、キツイな~」って思ったり。
もぐもぐ:それは全人類が思うやつだ。
はらちゃん:でも、今はいろんなバリエーションのメイクを試したことで、自分にとって何が似合う・似合わないのかわかるようになりました。
人の顔ってそれぞれ骨格も筋肉のつきかたも違うから、その人に合うものって結局自分じゃないとわからない部分って多いと思うんですよね。試行錯誤しながら自分に合うものを知ると、揺るぎない自信につながるような気がしています。
取材・Text/園田もなか(@osono__na7)
Photo/池田博美(@hiromi_ike)
記事を書く仕事をしています。ハリネズミのおはぎとロップイヤーのもなかと暮らしている。Twitter:@osono__na7