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幸せなセックスは「与えあう」、不幸せなセックスは「要求する」

社会学者の宮台真司さんとAV監督の二村ヒトシさんが、共著『どうすれば愛しあえるの』を出版。本書の発売を記念して、現代人は性愛を通じて幸せになれるのか、語り尽くすイベントを取材しました。

幸せなセックスは「与えあう」、不幸せなセックスは「要求する」

12月17日(日)、社会学者の宮台真司さんとAV監督の二村ヒトシさんによる共著『どうすれば愛しあえるの 幸せな性愛のヒント』(KKベストセラーズ)の出版記念イベント「あなたは性愛で幸せになれるのか!?」が世田谷区男女共同参画センターで行われた。

近年「恋愛は面倒くさい」と考える若者が目立ち、「若者の恋愛離れ」とまで言われるようにもなっている。しかし、恋愛やセックスで悩み、傷ついている人がいるのも事実だ。性愛の専門家であるふたりは何を語るのか。イベントの模様を前編と後編にわたってレポートする。

■社会の「外」に出ると生きやすくなる

二村ヒトシさん

二村さん(以下、二村):今回の『どうすれば愛しあえるの』をものすごく簡単に説明すると、「セックスや恋愛は、社会の外側にあるのだ」ということが書いてある本、でよろしいですかね。

宮台さん(以下、宮台):そう。僕は30年ほど社会学者をやりながら、なぜ1万年前からの定住社会が──以降「社会」と呼びます──ちゃんと回るのか考えてきました。定住する前は150人以下の集団でした。法はなく、「仲間」意識と生存戦略だけでやっていた。

それが、定住を支えるストック(保存収穫物)の護持と継承のために、所有を保護する法ができ、ストックの御蔭で規模が大きくなった。それで、法に帰依するかどうかで社会の「内と外」を区別するという新しい事態が始まります。

社会の「内」に閉じ込められて、人は生きづらさを感じるようになった。そんな生き方が従来なかったからだよね。ならば「外」に出りゃいい。そのために祝祭と性愛があり続けてきたわけです。性愛は社会の「外」。法(決まり)の外に出て自由になるために性愛があるんだね。

二村:社会の外に人間の本質があって、中と外を行き来するのが本来の人間だったのが、それを忘れているから生きづらくなっている、と。

宮台:はい。社会の在り方次第では多様な生き方ができると考えられてきました。でも法によって社会の「内」に登録されないと認められない。多様性と言いつつを見ず、登録されないものを多様性に数えないという形でを見ない。

そのことを見ない限りでの“多様性”。グローバルでそのことが「見える」ようになった。僕は十数年「社会から世界へ」「社会はクソ」「世界からの訪れに開かれよ」と言ってきたでしょ。だからグローバル化にもトランプにも安倍にも感謝している。

社会の「中」で制度改革すれば……とか、社会の「中」でも感じ方を変えれば……といった物言いは暫定的には正しいけど、所詮「クソ社会」の部品。「社会が良くなってもそれだけじゃ幸せになれない」ということだ。ちなみに社会の「内」と「外」を合わせた全体が世界です。

二村:社会人として上手に正しく(あるいは、ずるく)生きていくことによって恋愛やセックスも上手にやれるはずだとか、社会が間違っている(貧乏人が冷遇されている、マイノリティが差別されている)から自分は他者から愛されないのだとか、そういう考えはナンセンスであると。

宮台:そう。「性愛的に幸せじゃないのは社会が正しくないからだ」と叫ぶ人がいるでしょ。「性愛の不全」を「正しさへの固執」で埋め合わせたがる神経症患者たち。こういうクズに悪影響を発揮させないよう、囲い込むことが大切です。二村監督との今回の共著はその試みだよね。ふたりで「性愛の幸せは正しさの外にある」と言い続けました。

二村:〈社会〉は太陽の光で照らされている場所で、〈社会の外〉にはもっと広い、暗闇も含めた場所がある。だけど、今の若い人は〈社会の内〉が人間の営みの全てだと思っていると。

宮台:社会をよく見れば「社会と実存の混同」「表現と表出の混同」が浮かんでくる。社会を論じると見えて鬱屈を晴らすだけのクズ。ウヨブタやクソフェミが典型です。見るからに「自分のせいで不幸せ」(笑)。そんなクズが人から幸せを奪おうとギャーコラ叫ぶ。

そんな浅ましさがネットに溢れる。クズだなとラベルを貼って頷くだけでいい。幸せはいつも社会の「外」に関係する。世界からの訪れに結びついているの。ふと夜空を見あげると星が瞬いていて、「僕たちは存在している、不思議だな」と思う。

本の中でも二村監督と話し合ったけど、社会の「内」で極限の苦しい状態に陥ると、自分から離脱して自分を見下ろす幽体離脱の眼差しになる。これも社会の「外」からの視座だ。

二村:社会の外に、恋愛の情熱とかセックスとかがある。でも「恋愛はこうすれば有利だよ」というアドバイス、その多くは「広告」なんだろうと思うんですが、それは社会の中にあり、もちろん結婚という制度も社会の中の営みである。

結婚がゴールであるような恋愛は社会の中でして、でも情熱やセックスの動機づけは社会の外にあって、みんなわけがわからなくなっていると思うんです。

社会の中で恋愛をするには、人目を気にしないといけない。世間から祝福されるような恋愛や結婚の相手と、いやらしいセックスをするのは違和感がある。なんだか興奮しない。だからセックスレスになってしまう……。

もちろん同じパートナーとやってもいいんだけど「生活や結婚や、周囲から社会的に承認されている恋愛」と「情熱的な恋愛や、セックス」は別次元のことで、それを同じパートナーと営むのであればリテラシーが必要なんだというのを前提にするだけで、だいぶ見方が変わってきますよね。

■良いセックスは「贈与」、悪いセックスは「交換」

宮台真司さん

宮台:二村監督が大切なことをおっしゃった。社会からの承認の外にある享受可能性に開かれよと。皆さんが映画を観たり音楽を聴いたりして「アート」を体験したがってるとき、二村監督が言われたような気持ちでいるはずです。夜空の星を眺めて震撼するように、社会からいっとき離脱して「我に帰る」営み。性愛もそういう次元にある。

二村:今日、僕、韓国のキム・ギドク監督の『悪い男』という映画を観てから来たんです。

宮台:ギドクの世界観がよく分かる最も良い映画ですね。公開当時の2003年、韓国で一部フェミニストが炎上した映画です。クソフェミをじっくり観察できました。

二村:大変すばらしい映画で、15年くらい前にVHSで借りてみたのですが、久しぶりに観て、改めて「やべー、気持ち悪い! だけど大切なことが描かれている映画だな……」と思いました。普通の女子大生がヤクザの陰謀によって売春窟に落とされる救いがないストーリーで、これも社会の中と外を描いています。

あまり言うとネタバレになってしまいますが、女子大生が客を取らされてセックスする様子を、ヤクザはマジックミラー越しに見ていますよね。あのヤクザは、女子大生の心を自分の心に映していたのかな、と思うんです。それが「恋」というものなのかな、と。

あそこで起きていることは犯罪行為だし、良い悪いで言ったら完全に悪いことなんですが、ああいうことは現実にあるし、社会が良くなってヤクザが滅んで管理売春が撲滅されたとしても、形を変えて起こる。悪を糾弾するのが映画の役割ではない。

宮台:おっしゃるとおりです。完全にネタバレだけど、良家のお嬢様である女子大生に恋をしたヤクザが、彼女を社会の「中」から「外」に引きずり出すんだね。引きずり出された彼女がどうなるかを、彼は見ている。それがマジックミラーのモチーフです。

そして彼女は「内」に戻らず「外」に留まろうとする。囚われる前の彼女がエゴン・シーレの絵を見ていたのが伏線だね。「アート」を手掛りに彼は彼女の実存を見抜いたわけだ。

二村:『悪い男』は少し刺激が強すぎるかもしれませんが、最近の日本の映画で綾野剛が出演していた『そこのみにて光輝く』は、もう少しわかりやすくて、おすすめです。CMディレクターの呉美保さんという監督の作品で、これも売春映画なんです。

池脇千鶴が演じる女性が昼は北海道の塩辛工場で働き、夜は体を売っている。この映画では、幸せになるセックスと不幸になるセックスがあることが描かれていて、性教育の教材として若い人たちに観せるべきだと思いました。

この世には「セックスの享楽そのものを(寂しさが動機だったとしても)与えあう関係」と「セックスと引き替えに何かの見返りを要求するような関係」がある。後者の〈見返り〉は金品とは限らない。〈男のプライドを満たす〉とか〈世間体を整えるための交際や結婚〉も含まれる。

結局それはセックスを人質にしてお互いの人生を損なっているだけだし、そういうセックスしかできないのは非常に不幸な人たちです。セクハラという行為がダサいのは〈社会の中〉での力関係を〈社会の外〉の営みである性関係に利用するからです。

宮台:二村監督が示唆されたけど、良いセックスと悪いセックスを区別するのに必要な概念の道具は〈贈与〉と〈交換〉です。社会の「内」は〈交換〉で成り立つ。経済行為だけじゃない。挨拶したら挨拶を返してほしい。返礼が欲しいなら〈贈与〉とは言えません。社会の「外」は、〈交換〉を否定して初めて成り立つ〈贈与〉と〈剥奪〉の世界です。

​(後編へつづく)

Text/姫野ケイ

『どうすれば愛しあえるの』書籍情報

どうすれば愛しあえるの
著 者:宮台真司、二村ヒトシ
発 行:KKベストセラーズ
単行本 317ページ
発売日:2017/10/27
価 格:1500円+税

[公式サイト]
http://www.kk-bestsellers.com/cgi-bin/detail.cgi?isbn=978-4-584-13773-4

DRESS編集部

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