華やかな空間は人の想いや気持ちをつなげる【高田賢三】
パリ在住の世界的ファッションデザイナー、高田賢三さんによる連載。「華やか×◯◯」をテーマに毎月1本コラムをお届けします。第8回は「華やか×空間」でその思いを綴っていただきました。高田賢三さんが考える、華やかな空間とは――。
私たちの生活における日常の”空間”。それは生活のベースとなる自宅であったり、仕事場であったり……。ほとんどの人が毎日その空間で過ごしていることだと思う。
もちろん、人それぞれだが、趣味を過ごす時間、友と語り合う食事の時間や旅先での時間の中、その人なりの空間がある。そして、想い出のある空間も……。
毎日何気なく過ごし、流れていく時間の中で、心地良く過ごせる場所では、そこに置かれている家具やインテリア、そして光・照明、音や香りも、より快適に過ごすには必須の要素だと思うのです。
■和洋を融合させたパリの家
僕が前に住んでいたのは、パリの11区、バスティーユという場所です。大きな倉庫をリニューアルした家でした。
パリは市の条例で、外壁は一切崩せない。僕の住んでいた家は道路に面している場所ではなく、通りから入って、さらに奥の扉を進んだところ。
そこは、以前倉庫で、僕は僕のパートナーと一緒にその物件を見つけたんです。そして、外壁や躯体は崩さず工事が始まった。
何といっても倉庫なので、広いし大きい。パリにいても故郷・日本も感じたい。でも実際それだけではつまらない。和と洋のイメージを両方取り入れた家にしたいと思った。
僕は建築のことはあまりわからなかったが、パートナーが建築について熟知していたこともあり、具体的なイメージを語り合った。
日本式でいうと、4階建てで、中2階や3階があり、文章では説明しにくいけれど、とにかくいろいろなシチュエーションを描いてできあがった。
2階だけど日本庭園を造り、同じ階に和室やお茶室も作った。まるでそこにいると日本にいるようにも感じられる。一方、サロンは洋風で、その横にプール(室内)があった。
そして季節を感じる家にしたかったこともあり、庭には桜の木。そしてサロンには、暖炉を設置した。夏になると風鈴の音がなり、心が和んだ。
作られた庭やサロンなどではなく、自然に見えることを意識した。オブジェやインテリアも色々な国で集めたコレクションをひとつの空間に置いてみた。和と洋を融合させても、ゴチャゴチャ感がないように。
空間に対してミニマリズムは面白味がないと思う。さまざまな国(アジア・日本・ヨーロッパなど)の融合。ひとつの空間に対照的なものがあっても、それが成立する空間。それが僕なりの静と動の合わさりあった華やかな空間だったのだと。
■季節の花が飾られたもてなしの空間は日本ならでは
日本で旅をするとき、そして食事をするとき、いつもその空間には季節の花が飾られている。もてなす心を感じる瞬間だ。
季節を醸し出す器や着物、床の間の掛け軸や茶花……。そういう季節感を大切にし、こだわる日本人独特の感覚は素晴らしいといつも感じる。
旅館の部屋に入ったときの畳の匂いや、お香の匂い。そして、ゆったりできるお風呂にも、日本人ならではの季節感がある。
菖蒲湯・柚子湯、そして、檜のお風呂の心地良い香り。日本人で良かったと思う瞬間でもあります。
僕はやはり日本人。そんな空間に遭遇すると気持ちまでホッとしてしまう。
■60年ぶりの同窓会に参加して思ったこと
余談だが、数週間前に同窓会に出席した。懐かしい時間になりそうだとわくわくしていた反面、当時の皆と会って実際に顔と名前が一致するか(?)という不安も(笑)。
話をしていると何となくわかる人。そして記憶が鮮明に戻る友だち。残念だけれど、誰だったかな……とまったくわからない友だちもいた。
そんな同窓会に出席し、最後に全員で校歌を歌った。覚えているかなあと思ったけれど、なんとか思い出そうとしなくても自然と歌える。歌っていると、その当時のことが走馬燈のように脳裏に浮かぶ。修学旅行、授業中のことetc.。
ふと教室の光景が頭に鮮明に浮かんだ。彼は前の机に座っていたな。あっ! この人は一番端に座っていた。そういえば背の順に座っていたな……。
当時の自分が、今そこにいたような気持ちさえした空間だった。そして懐かしく歌を終えると、現実の空間もそこにありましたけれどね(笑)。
華やかな空間とは、人の想いをつなげる時間が持てる空間なのだと……。