河崎 環 さんが 2017/01/05 に更新
飴を配る女ーー運気を呼ぶ習慣をしなやかに生きる先輩に学ぶ

飴を配る女ーー運気を呼ぶ習慣をしなやかに生きる先輩に学ぶ

良い習慣を自分のものにすれば、自分自身がより良くアップデートされ、運気は確実に上がっていく。素敵な「人生の先輩」の素晴らしい習慣を真似してみよう。コラムニスト河崎環さんが接した80代女性のあたたかな習慣をここに。


その日、国産最高峰の眼鏡を産出する福井県鯖江町の公民館でお目にかかったミチコさんは、90歳とは思えぬしっかりとした姿勢でまっすぐに椅子に座って、こちらにニコニコと人懐こい笑顔を向けていた。

「東京から遠いところをわざわざ来てくれてありがとうね。これ、家から持ってきたの。美味しいのよ、よかったら食べて」

ごく普通の透明なビニール袋に入っていたのは、きっとミチコさんが普段お茶請けに楽しんでいるのであろう、数々の小さな焼き菓子や飴。

彼女の年齢の半分にも満たない、孫世代の40代ライターの私に、幾周りも年上で、大きな戦争といくつもの天災を生き延びてきたはずの彼女は「あなたに会えてうれしいわ」との気持ちを全身に満たして、そこに待っていてくれた。

■平均年齢80歳のダンスアイドルグループ

少子高齢化と地方活性化の文脈で、当時「鯖江発、平均年齢80歳のダンスアイドルグループ」のリーダーとして世間の注目を浴びていたミチコさん。TVや新聞雑誌にも続々と取り上げられ、AKB48との共演まで果たしていた。

そんな中、政府広報誌といういかめしい媒体から送り込まれ、朝イチの新幹線に飛び乗って肩に力が入り気味にやってきたインタビュアーの私に「こんなにかわいらしい女性がいらっしゃるなんて。鯖江は遠かったでしょう」と、コロコロ笑う。

ミチコさんがくれた甘いナッツ入りの瓦煎餅を齧って温かいお茶を一口飲んだら、さっきまで「こんなに駅から歩くならヒール履いてくるんじゃなかった」と心の中で舌打ちしていた私の余裕のなさが、ゆっくりとほどけていった。

ミチコさんのそばに座るのは、「ダンスアイドルグループ」の振り付けを担当する、理学療法士のヤマモト氏。

■「人の笑顔を見るのが楽しい」人はいつまでも生き生きしている

グループは老人会のダンスサークル発祥で、高齢者特有の転倒骨折を防ぐための筋力維持の体操に音楽をつけ、人前で踊って見せたのが大受けして、やがて全国各地に呼ばれるようになったのだという。ミチコさんはヤマモトさんを「先生」と呼び、先生はミチコさんを「ねえさん」と呼ぶ。

「こんな歳になってもね、日本中で皆さんが呼んでくださるから、行ける限りはお会いしにいこうって思うんです」。ダンスを続けているからなのだろうか、ミチコさんは姿勢も歯切れもいい。

よく聞くと、鯖江の眼鏡職人をたくさん抱えた商家の女主人だったのだという。ママさんバレーを16年続け、老人クラブ連合会の世話役も務めるなど、社会活動にも積極的な、働く女性だった。

地方遠征もある活動を高齢の今でも生き生きと続けられるのは「人の笑顔を見るのが楽しいから。がんばろう、次もやろう、と思えるの」。

■人の中で生きるからこそ、気持ちとして「飴を配る」

ミチコさんの、90歳にしてまだ「人のために」と活動できる心のありようと人生の充足感が放つ光はとても穏やかで、ただ心地よかった。そんな彼女は、とにかく私を気遣うのだ。「お菓子、もっと食べてね」「お茶、足りてるかしらね?」。

彼女流のもてなしは、おそらく人の中で人と関わりながら商売を回し、社会とのつながりを切らずに生きて来た女性ならではのスキルなのだろう。

相手にしてあげたことが、やがて自分にも返ってくる。だから彼女は、相手がどんなに年下でも、敬意を失わない。そして「会えてうれしい」「一緒に活動できてうれしい」と全身に光を湛え、おもむろに甘いものをくれるのだ。

だって、疲れているときに甘いものをもらって怒る人はいないもの。その柔らかな気持ちは、ただうれしいもの。

■大阪のおばちゃんスキル? 「アメちゃん配り」は昭和・平成を生き抜いた“女の循環術”

だから私は、たとえそれが「大阪のおばちゃんみたい」であろうとも、都会のツンとした洗練とは別のものであろうとも、甘いものや美味しいものを配って回れる人間になりたいと思う。そういう形で気持ちを表現できる人間でありたいと思う。

「ねえ、これ美味しいのよ。あなたも食べてみて」と、同じ快さを共有しようとする姿は、外からやって来たよそ者を包み込み、仲間にできる柔軟さの表れだからだ。

鎧を着て周りを威嚇する人間に、飴は配れない。鎧の姿で飴を差し出しても、手を伸ばす人はいない。

人生の「ねえさん」に教えてもらったのは、素朴な、実に素朴なもてなしの形。以来私は、街でちょっと小さくて美味しいものを見つけると、「誰か、こんなの好きかな」と考えて立ち止まる。小さな甘いものは、人間関係の扉をカチリと開ける鍵となる。

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