DRESS APRIL 2015 P162
Illustration / Yoshiko Murata
サプライズこそ、おとなの嗜み【甘糟りり子の生涯嫁入り前】
「あること」が原因で用心するようになったサプライズパーティ、だったけれど。
私の苦手なもののひとつがサプライズ。主に誕生日に行われる、予想外の贈りものだの演出だのの、あれ。どうやって反応したら良いのか、とまどってしまう。
見も知らない人がするには、正直どうでもよい。レストランで食事をしていると、突然店内が暗くなって、ケーキが運ばれて、スタッフが♪ハッピィバースデー、トゥーユー、と歌い出す場面に出くわすことがある。私も一応は大人だから、自分たちの会話を中断して、作り笑顔で小さく拍手ぐらいはする。主役であろう女の子が口に手を当てて、「うっそー。やだやだ信じられなぁい」とかなんとかいったりすると、心の中に若干ざらっとしたものが沸いてくるのだけれど。
もし、自分があの立場になったら、と思うと、逃げ出したくなる。私ごときのために、知恵や時間や貴重なものをあれこれ総動員してくれちゃって、申し訳ないなあという謙虚な気持ちと、もしかして「してやったり」とか思ってないよね? という非常にひねくれた気持ちがごちゃ混ぜになって、素直に喜べない。周囲の人に注目されるのも嫌だ。安易な幸せを見せびらかしているみたいで。これじゃあ恋愛に向かないわけです、私は。女子力低し!
ふたつだか3つ前の誕生日にはすごいことが起こった。仲の良い女友達に誘われ、女二人で、ミシュラン星付きの瀟酒なレストランに行った。
会社ではそれなりの地位にいる彼女のアシスタントが予約をとってくれた。たまたま、私の誕生日の一週間前だった。
繊細かつ大胆な味覚の数々を堪能し、それぞれの品に合わせたワインに酔い、満ち足りた気持ちでその夜が終わろうとしていた。と、その時、店内が暗くなり、店の奥から、炎を携えた小さなケーキが二個、うやうやしくこちらに向かってくるではないか。ま、ま、まさか……。
そう、そのまさかであった。
友達の誕生日は、私と数日違い。彼女のアシスタントが私たちの誕生日を知っていて、「サプライズ」のケーキを仕込んでくれたらしい。
お気持ちはありがたいのだが、ちょいとキツい状況だった。若くはない女が二人きりで着飾って、お互いの誕生日を祝っている。これこそ「痛い」っていうのではないのかぁ〜い。誰でもいいから男性が同席していたら、私たちが若い女の子だったら、せめてここがカジュアルなカフェだったら……。
あの日以来、サプライズには用心している。されない、しない、と心に決めた。
ところが、先日、私はその決意をあっさり翻してしまった。トータル・ビューティ・サロン「uka」の渡邉季穂ちゃんの五十歳のお誕生日パーティがあったのだ。ビジネス・パートナーでもあるご主人から、一ヶ月半ぐらい前に大きなパーティをサプライズでするからと連絡があった。
季穂ちゃんの友人がそれぞれ自分の得意分野で会を盛り上げるとのこと。DJの人が音楽を担当し、料理研究家がフードをプロデュースし、というふうに。私は彼女の物語を書くことになった。題して『Tokyo Kiho Story』。小冊子にして、来客のお土産にする。
とにかく時間がない。早速、季穂ちゃんを食事に誘う。のんびり二人でご飯を食べながら、隠れ取材をしようと思った。ところが、彼女はこんなことをいうのだ。
「なんかね、みんなで私の誕生日のこと、こそこそやってるみたいなんだけど、もうバレバレなんだよね」
ドキッ。私が書くことも、実は知っているのだろうか。小心者の私はあせりまくる。これだから、サプライズに係るのは苦手なんだよね。私のせいでバレたらどうしよう、と不安になる。なんとかしらを切り通したけれど、たいした取材はできなかった。ご主人にいろいろ聞いたり、サロンのスタッフたちに資料を集めてもらったりして、十五枚の物語を書き上げた。構想三日+執筆に約一日。彼女のことばかり考えていた。
当日は、本人が想像していたよりずっと大掛かりな、でも決して大げさではない、すてきなパーティになった。私が書いていたことはまったくバレてなく、「うっそ〜。信じられなぁい」と驚いてくれた。(口に手を当ててはいなかったけれどね)。小冊子に為書きとサインを入れてプレゼントした。
サプライズ、悪くないじゃない。無駄なエネルギーと不用意な緊張感こそ、いろんなことに慣れちゃった人の心を揺さぶるのだなあと実感した。
この夜で、私は少し大人になった気がする。やー、もうじゅうぶん過ぎるぐらい大人なはずなんだけどね。