恋の置き場所

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脚本家・北川悦吏子さん、今回は結婚のススメではなく、恋愛、恋心がテーマ。若くても、年を重ねても、何も違わない・・・。

恋の置き場所


たとえば、二十歳の頃。
恋って自分の真ん中にあったと思う。
自分の真ん中に、ドンとすえて
泣くも笑うも、その恋次第。
彼氏、
もしくは、片思いの場合はその愛しい人に
振り回されきってた時代。

それが、若い頃の恋の醍醐味でもあったし、
それこそが、恋だったわけだ。

しかし。

だんだん、歳を重ねて来ると、あれ?と思う。

私は、ときどき、インタビューなどで
今の恋と、昔の恋、どう違いますかね?(端的に言うとそういうこと)
と、聞かれる。
そうですね……今の二十代の人をあんまり知らないので、何とも言えないけれど……
と考え込むふりをするけれど
実は、今の恋も昔の恋も、何も違わない、と思っている。

時代か違っても
年齢が違っても
誰かを好きになる気持ちって、同じだ。

好きな人が近くに来ればうれしいし
好きな人の隣に別の女の人が座ると、嫌だ。

恋心ってシンプルだ。

子供が母親を慕う気持ちに似ている。
母親の姿が見えなくなれば、淋しくて心もとなくて、泣くし
母親がだっこしてくれたら、嬉しい。
人を好きになるって、それだけのことだ。

ただ、恋は、母親と子供、ではないので、関係は不安定だ。
不安定に思える。
臍の緒、つながってなかった分。

だいたい、そうだよね。
恋愛関係で「この人は、運命の人なの」とか、みな声高に言いたがるけれど、
親子で「この子は、運命の子なの。だって、私のところ生まれて来たんだから」
と言う人はいない。

言われてみれば、本当に。
絶対に、親子の方が、運命なわけだけど
どんな親子も、そんなことは言わない。

恋人たちは、言いたがる。
言わないと、不安だからだ。
どこかに行ってしまいそうだからだ。

そして、若く不安な私たちは、恋の囚われの身となる。

とにかく24時間いっしょにいたくて
離れていたくなくて
また、いっしょにいない時は、相手が何をしているか知りたくて
電話が通じなければ、
もしかして、他の女と……なんて思う。

そして、気持ちのままに、夜の地下鉄に飛び乗って
相手の家に行き
うまくいけば、「こんな夜中にどうしたの?」
と抱きしめられることになり、
不運な場合は、本当に他の女の人がいて
死ぬの、生きるの、の修羅場を迎えることになる。

それが、恋。

恋と衝動は、背中合わせ。

そして、40や50やもっとその先になった時に
「あんなに好きになった人はいない」
というのは、たいてい、20代とか、若い頃の恋のこと。

でも、それって……。
その人のことが、特別に好き、ということではなく
「恋」という感情に振り回されまくって
その振り回されて、遠心力で、ブンブン回ってた自分を
鮮明に覚えているあまり
その恋こそ、本物の恋、と思ってしまってるだけではないのだろうか、と
今になると思うのであります。

記憶って、美しいしね。

思い出す時、2の美しさの過去は、6の美しさを放つからね。
(あ、1の美しさで、3放っても、いいね)

大人になって、覚えなくてはいけないことは、
恋心を、飼い馴らす、ということ。
打算、とかかけひき、とかいうことではなく。
賢くなる、スマートになる、ということ。

二十代の頃は、たとえば、彼の前で、私死ぬわ、と叫んで、道路に飛び出しても
ラブストーリーの1シーンだけれど
30でそれをやったら、40でそれをやったら、50でそれをやったら
60でそれをやったら……
想像してください。だんだんホラーの域です。
成立するの、武田鉄矢だけです(古くてすみません。わからなかったら、いいです)。

似合う恋の形、というものが、その年齢それぞれに、あると思う。

35を過ぎたら
恋心に囚われの身にならない、ということ。
恋心を飼い馴らす。

「恋」の置き場所を考える。
ドーンとど真ん中じゃなくて。
自分の傍らに、そっと置いてみる。
(ないがしろにするわけじゃない。いっそ、真ん中にドーンと据えるより、大切にできるかもしれない)。

相手とのことを憂い、ウッと、つらい気持ちになっても、他のことをやって、気を紛らす、とか。
めちゃくちゃ、メール打ちたいのを、相手も忙しいから、
今日はガマンしておく、とか。

相手を責めたてない、とか。
片思いの間だったら、あんまりガンガン行かないとか。(相手にも、体調とか、気持ちがあるので)。

時には、臆病になる。とか、時には、強気になる。
とか変幻自在の女でいなくては、つまらない。
もう、若くないのだから。

歳を取った女の魅力、というのは、単色ではない、ということ。
これに、尽きると思う。
若い女の子は、単色。
時という絵の具が、いろんな色を重ねていって今があるわけで。

そして、最近、恋してないわ、という人は
逆に、うまく、恋の気配をキャッチする。
ドキドキしたら、その気持ちを手放さない。

そんなこともできるようになるお年頃だと思うのですが、
どうでしょう。

たとえば、
40を過ぎて、なんとなくつきあって結婚して
もしかして、そいとげて。
70とか80になる頃に

回り回って、
あれ?この人が、運命の人だったかな、なんて。
そんなゆるく長い、なかなか気づけない恋もあるのだろうし。

腰を据えて、気長に恋とつきあいましょう。

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北川 悦吏子

脚本家。『ロングバケーション』『ビューティフルライフ』などの数々の恋愛ドラマのヒット作を生む。活動は多岐に渡り、作詞やエッセイでも人気を集める。映画『新しい靴を買わなくちゃ』では、脚本とともに監督も担当。

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