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女はいつだってオオカミ男に食べられたい【恋愛難民、王子様を探す】第4話

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男日照り暦5年の恋愛初心者・鎌谷素子は、同窓会で再会した長嶋と初デートする。しかし、長嶋は腐れ縁・聡子の元カレなので、聡子と自分を比較してしまう。恋愛難民と化した女は、無事運命の王子様を見つけて失われた青春を取り戻せるのか? 連載「恋愛難民、王子様を探す」#4をお届けします。

女はいつだってオオカミ男に食べられたい【恋愛難民、王子様を探す】第4話

【恋愛難民、王子様を探す】第1話:失われた青春を同窓会ラブで取り戻せ
【恋愛難民、王子様を探す】第2話:嘘から始まる大人の恋愛戦略
【恋愛難民、王子様を探す】第3話:好きな男の甘い思い出は、死ぬほど苦い

■オオカミ男は突然に

気づかないうちに放心状態になっていたようで、気が付いたら目の前に鉄板があり、ハンバーグの脂がじゅうじゅうと爆ぜていた。「どうした?」という長嶋くんの声ではっと我に返る。

「腹痛いの?」

思わず吹き出してしまう。

「ううん、おなか空きすぎてぼーっとしてた」

「血糖値下がりすぎだろー」

長嶋くんは軽く笑ってソースが滴る牛ステーキを口に運んだ。飲みこむ瞬間に喉仏が上下する。定食屋のランチにもかかわらず、なにやらセクシーである。やっぱり長嶋くんはかっこいいのだなとしみじみした。

「長嶋くんはさ」

思い切ってハンバーグを飲みこみ、斬り込んだ。

「彼女いるの?」

「うーん、いないかなあ」

「うーん」ってなんだ、「かな」ってなんだ。あまりにもあっさりと、そして曖昧に流されて二の句を次げずにいると、返す刀で斬りつけられた。

「鎌谷さんは?」

「え?」

「彼氏いんの?」

「いないよ」

へー、と言って長嶋くんはステーキを切る手を止めた。

「じゃあさあ」

顔を上げて、こちらを覗き込むように見る。

「なんで俺を誘ったの?」

挑戦的な笑みを浮かべる長嶋くんの手元で、肉汁に濡れたナイフがぬらりと光る。その瞳の奥に、私は生まれて初めて、オオカミを見た。

昼間の定食屋で身の危険を感じる。けれど、私の体も、目線すらも、射抜かれたように静止したまま動かない。鉄板の上でじゅわりとハンバーグの肉汁が広がっていく。

次の瞬間、長嶋くんは表情を翻して軽やかに笑った。

「それにしても料理出てくるのが遅すぎた、もうあんまり時間ないなー」

「あ、うん……試合開始まで1時間切っちゃったね」

「鎌谷さん早食い得意?」

「どうだろ、人並みのスピードだよ」

「じゃあ『もう無理!』ってなったら俺にちょうだい。俺、早食いもハンバーグも得意だから」

「うん、わかった」

喉元まで心臓がせり上がっていて、正直早食いする余裕はない。私はハンバーグと一緒に心臓を嚥下して、なんとか落ち着きを取り戻すので精いっぱいだ。とりあえず長嶋くんが通常モードに戻ってくれてホッとした。

聡子はさっきのナイフみたいな長嶋くんの目線を受け止めていたのだろう。
「なんで聡子なんかと付き合っていたんだ」と思っていたが、どこかで腑に落ちた。鋭い長嶋くんの目線は、屹立する聡子の姿と似た香りがする。研ぎ澄まされた薄氷のようなひりつきに背筋が粟立つ。しかし、なぜか私は危険信号が鳴る先へ吸い寄せられてしまうのだった。

■ミーハー心を暴かれて

結局長嶋くんに4分の1ほどハンバーグを食べてもらって、スタジアムへ向かった。道中には屋台が並び、縁日のような活気を帯びている。スタジアムは駅から遠く、速足で向かったので息が切れた。席に座ってほうと息をつくと、長嶋くんからペットボトルを渡される。

「ほい、水」

「え、くれるの?」

「うん。屋根ないから日差しきついよ」

「ありがとう」

蒸し暑い外気にさらされて、冷たいペットボトルには水滴がついていた。きらきらと光りながら滴る。

観戦中、長嶋くんは終始模範的なリアクションをしていて、歓声を上げたり立ち上がったり頭を抱えたりとめまぐるしく動いた。勝負がかかった緊迫したシーンでは固唾を飲んで一点を見つめていて、私はその真剣な横顔を盗み見ていた。

試合が終わってカラフルなサポーターに揉まれながら駅まで歩いている間も、長嶋くんは「あのシュートはすごかった」「あのドリブルは痺れた」などと熱弁をふるい続けた。

「長嶋くんは本当にサッカーが好きなんだね」

「そうだなー、観るのもやるのも同じくらい好きだな」

「私も楽しかった」

「お、まじ!? 」

想定外の食いつきに面食らう。楽しかったのは本当で、鮮やかなプレーや一転二転する試合展開にドキドキしたし、長嶋くんの一挙一動を見るのも新鮮だった。

「うん、正直こんなに楽しめるとは思ってなかったくらい」

「いいね、鎌谷さんセンスあるわ。この選手が好きとかミーハーな子は結構いるんだけど、純粋にサッカー観てるのが楽しいって子はそんなにいないからさ」

「そうなんだ」

長嶋くんが好きだからっていうミーハー心はあるな、と思ってなんとなく目をそらす。

「じゃ、またサッカー観たくなったら誘ってよ。俺も行く時誘うわ」

「え、ほんと? 行きたい!」

長嶋くんがこちらを見て薄く笑った。

「鎌谷さん3番ホームだよね。俺こっちだから、ここで」

「うん、今日はありがとう」

「帰り気を付けて。あと、次会った時に」

長嶋くんの声のトーンが少し低くなる。

「定食屋で訊いたこと、教えて」

私が瞬きしているうちに、長嶋くんはホームに消えてしまった。

(第5話につづく)

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萩原 かおり

三度の飯より執筆が好きなライター兼心理カウンセラー。大学にて心理学を専攻後、求人・化粧品・社史の制作を経てフリーランスに。美容・心理・恋愛を中心に幅広く執筆中。婚活パーティーで200人以上インタビューした経験を持つ。エステホ...

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