私の男

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おじさんになった彼は変わらずいいやつだったけど、ダサいやつになっていた。20年前、私がいいと思っていた男がこんなにダサくカスタマイズされてムカついたのでした。

私の男

かつてちょっといいなあ……と思っていた男性とひょんなことで再会した。もうそれぞれに幸せなので平穏な再会となったのだが、私はちょっとした違和感を感じてしまった。

あれ……?この人、こんなに肩書きとか人事の話、する人だったんだ。

彼をいいな、と思っていたのは学生時代。もう20年ほども前の話。あの頃はお互いに夢を語り合ったりする若者だった。彼はまじめで、努力家で、頭が良くて、人柄も温厚で、ほんとに、いいやつだったのだ。

おじさんになった彼は、相変わらず温厚でいいやつだ。だけど……

誰がどこまで出世したとか、自分の上司が役員になったとか……
正直、どうでもいい!どっかの会社の人事の話なんかまるっきり興味ない!

ブログをやっていると言うから覗いてみたら……
食べ物の写真ばっか!他人がいつ何を食べたかなんてまるっきり興味ない!

私とは全然趣味が合わないのであった。
おかしいな、学生のときにはすごく話が合って、笑いのツボも同じで、ああ、こんな人が彼氏だったらなあなんて夢想したのに。

そして私は心底思った。
ああ、この人と結婚しなくて良かった……

いや、つきあってもいないのである。だけど、もう一押しすればつきあっていたのかもな、それはちょっと惜しい気もするななんて思ったこともあった。だから再会したときに、なんだかとり逃した魚が大きく育って現れたようなわけもなく損したような気になりかけたのだが。

ほんと、結婚しなくて良かった。一緒にレストランに行くたびに料理を写メなんて、ぞっとする。そのあと人事のうわさ話でおいしい料理が台無しに……無理だ、一生添い遂げるのは無理。

いやしかし、とそこでまた考える。これは彼がこれまでつきあって来た女性および現在一緒にいる妻との関係の中で比較的良しとされてきたことを選択した結果なのではないか。彼にその傾向があったとしても、つまり肩書きを気にしたり料理の写真を他人に嬉々としてみせたがるような幼稚な資質があったにしろ、それを野放しにするような、むしろ喜んでしまうような女性と一緒にいたからこそ、今それが前面に出ているということなのではないか。

ということは、私と一緒にいたら、違う男になっていたかも知れない!

今、目の前にいるおじさんとどうにかなりたいという気持ちにはいささかもならない。だって趣味合わないし、ぐっと来ないし。

ただ、このうっすらと腹立たしく惜しい気がするのは、いいなと思った男を他の女が自分好みに仕立て上げたのを見ると面白くないという、縄張り意識に他ならないのだった。あたしが目を付けていた男をこんなにださくカスタマイズしやがって。

ああ、なんという強欲!なんという傲慢!なんと浅ましき女の支配欲。

どうしたって男を自分好みに仕込み直したいというナニサマな欲望を女は押さえることができないのだ。せっかくのいい素地を台無しにされたという所有者意識によって、私はもはや好きでもないその男の妻に、面白くない思いを抱いているのであった。

理不尽だなあ……もしかしたら嫁姑の確執も、結局は男という領土を巡る女の所有権争いなのかも。
 

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小島 慶子

タレント、エッセイスト。1972年生まれ。家族と暮らすオーストラリアと仕事のある日本を往復する生活。小説『わたしの神様』が文庫化。3人の働く女たち。人気者も、デキる女も、幸せママも、女であることすら、目指せば全部しんどくなる...

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