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「奥さんのお産」ではなく「私たち夫婦のお産」。お産を語るオッサンの会の活動に迫る

お産をきっかけに、人生が180度変わったという池田正昭さん。イベント「お産を語るオッサンの会」を開催する池田さんに、男性がお産を考えることについてお話を聞きました。

「奥さんのお産」ではなく「私たち夫婦のお産」。お産を語るオッサンの会の活動に迫る

――「お産を語るオッサンの会」というイベント名、思わず笑ってしまったのですが、どのような会なのでしょうか?

池田正昭さん(以下、池田):はい、名前のまんまです。オッサンがお産を語るんです(笑)。私が経営しているオーガニックレストランのタイヒバンで、「私はお産によって愛を知りました」という身の上話をしたのが最初です。「一回のセックスのクライマックスがお産である」なんて話をするわけです。最近は女子大で出張講義を行うこともあります。学生さんから「私はセックス依存症なのですが、セックス観が変わりました」とか「私もお産をしたい」といった感想をいただくことがありますね。

「お産を語るオッサンの会」の池田正昭さん

――タイヒバンのSNSによると、第1回目を2015年4月30日に行い、今まで2回開催しているようですね。

池田:いえいえ、既に7回ほど開催しています。先日は名古屋でも行いました。怠惰なオッサンなもので、せっせとレポートをネットにあげることもしないので(笑)。20代〜30代の女性の参加者が多いのですが、本当は男性にもっと参加してもらいたいんです。男性ってお産に対して「女性が痛がって苦しむやつですよね?」くらいの意識しかないのが普通なので。
そこで、男性にも参加してもらおうと、合コン形式で「お産を語るオッサンの会」を開催したこともあります。男性陣にはお産がテーマであることは伝えずに「合コンするからおいでよ」って誘って店に集めておいて、蓋を開ければ私と助産師の先生によるお産トークショーが強引に始まるんですよ(笑)。でもこれが合コンの導入としてはサイコーなんです。お産の話を聞いているうちに、男女とも緊張感がほぐれてくるし、男は女性に対してやさしい気持ちになれるんです。お産トークの後、タイヒバンの美味しいお料理とともに実に和やかな歓談タイムとなるわけです。

お産を語るオッサンの会の参加者と

■病院で産むのにためらいがあった

――なぜ、「お産を語るオッサンの会」を始めたんですか?

池田:今から13年前に長男が生まれたのがきっかけです。それまで命について考えることなどなかったんですが、四十を過ぎてはじめて経験したお産によって覚醒がおきましたね。妊娠はとてもうれしかったのですが、お産に関しては右も左もわからず、まずは情報を集めようと、本屋でお産の本を購入しました。そして、その本を参考に産婦人科クリニックへ通うようになったのですが、妻も私もクリニックにある種の違和感を感じてしまって。

――違和感というと?

池田:最初の問診の際に妊娠を継続するかどうかたずねられたんです。妊娠を継続する? しない? そのときは意味がわかりませんでしたが、妊娠を継続しない、つまり中絶することも産科クリニックの仕事だったりするわけですね。もちろんお医者さんは技術があって腕はたしかなんですけど、さっき赤ちゃんを堕ろしてきたその腕で今度は分娩に取りかかるという現実にはどうにも抵抗があった。でも、お産のためには産科を利用するほかないんだよなと諦めかけていたとき、妻が知人から話をきいたりネットで調べたりして助産院というところを見つけ出してきたんです。

――産婦人科と助産院はどう違うんですか?

池田:助産院は助産師さんがいるだけで、医者はいないんです。医療機器もありません。白衣を着たスタッフもおらず、私たちが行った助産院は、助産師さんはみんなおそろいの割烹着を着ていました。

――お産には命の危険が伴う場合がありますが、医療機器がないことに関し、不安は感じませんでしたか?

池田:それが、逆にすごく安心したんですよ。普通の一軒屋なので、まるで実家にいるような、ほっとする空間で。威圧感を与える機器はありません。分娩台もありません。産後の入院中は、とてもおいしい、お袋の味のようなご飯をいただきました。
もちろんその場に医師はいないので、いわゆるリスクに対する備えは万全ではないかもしれません。帝王切開など異常出産になる場合は助産院では措置ができないので、提携している病院に搬送される形になります。でも、最初から医者任せにしないで、自分たちの自然な力を信じて、産ませてもらうんじゃなくて「自力で産む」ことにトライしてみようというところに新鮮な喜びを覚えました。

――出産はいかがでしたか? 

池田:一番上の子は今思うとけっこう簡単に出てきたんですよね。妻も若かったし。でも、そのときは初めて女性のいきんでいる姿を目の前にして、動揺しました。だから、わけがわからないうちに初体験が終わってしまった感覚です。その後、同じ助産院で次男と三男が産まれました。それぞれに味わい深いお産で、そのときに見たこと感じたことを「お産を語るオッサンの会」で披露しています。
ともあれ奥さんと一緒にお産をやり遂げたおかげで、お産の際に男性はとても大事な存在なのだと気づかされることになりました。どれだけ大事な存在かというと……えっと、競馬にたとえていいですか? 「馬七人三」って言葉が競馬の世界にはあるんですけど、競馬って馬の能力だけで勝負が決まるのかと思いきや、馬は七割で三割は馬に乗る騎手がカギを握ると言われます。この、競馬における騎手の役割がお産における男の役割にあたるのではないかと思ったりするわけです。つまり三割は男が産むのだと。三回お産を経験すれば一人は男が産んでいることになるのだと。

■立ち会い出産では男性も心身のトレーニングを

――お産に関して、男性はどのような支え方をするべきだと思いますか?

池田:助産院や自宅での出産となると、いわゆるフリースタイル出産なので、人それぞれなのですが、「お産を語るオッサンの会」で推奨しているのは、男が人柱になって、妊婦さんが抱きつくような姿勢になるお産の仕方です。私はこれを、立ち会い出産をもじり、「抱き合い出産」と呼んでいます。

「お産を語るオッサンの会」で、奥様と共に抱き合い出産の形を再現する池田さん(写真提供:池田正昭さん)

――この抱き合い出産って、すごく腹筋の力を使いますよね?

池田:最初の子のときは、鬼のように腹筋を鍛えていて(笑)。千回くらいできるほどでしたから、本番でも耐えられましたね。助産院にもいろいろあって、そんなに旦那さんの役割を重視しないところもあります。でも、うちの奥さんはこの抱き合い出産により、精神的にもとても支えられたと言っています。奥さんはいきみながら爪を立てるので、私の背中には引っ搔き傷ができます。でも、「そんなもんか!? もっと爪を立てていいんだぜ!」と心の中でささやきながら受け止めていましたね。

――池田さんはお産に男性も参加すべきだというご意見ですが、旦那さんのうろたえる姿を見たくないから、立ち会ってほしくないという女性の話も聞いたことがあります。

池田:やはり、産むとなると女性は肝が据わるわけです。だから、男も腹筋だけでなくトレーニングをしなければならないと思います。

――池田さんはどんなトレーニングをされたんですか?

池田:たいそうなことではないですが、一緒に呼吸を合わせて自分も産むんだという心構えですよね。夫婦でともに家族を迎えるんだという一体感。産まれるときから父親にもちゃんと役割があるんだという自覚。ただ見ているだけで、目の前のお産にコミットしないんだったら、立ち会い出産は意味がないんじゃないかなと思います。
実は現在、4人目を妊娠中なんです。これまで過去のお産体験の話をしてきたわけですが、今はアップデート中なので、「お産を語るオッサンの会」は小休止中。11月が予定日でして、今度は自宅で産む予定です。

――そうなんですね。おめでとうございます。11月の出産に向けて、何か既に準備されているのですか?

池田:今回はオッサンは楽してるんじゃないでしょうか。自分一人じゃなく、男手4人でお産にのぞむことになりますから。助産院では家族みんなでお産にのぞむんですが、前回までは、ちょろちょろ走り回る小さな子どもたちの世話をしながらのお産でした。でも今回は、彼らも中学生と小学校高学年になり、手がかからないので。それどころか「お前等もお産の手伝いしろよ〜」と言ったら、「うん、わかった」と言っていますからね。幼い頃のことだから、どれくらい覚えているかはわからないけれど、上の子たちは下の弟が産まれてくるのを現場で経験しているわけですからね、素人じゃないんです(笑)。戦力として期待しています。立派な「お産を語るオニイサン」になってくれるでしょう。

構成=姫野ケイ

DRESS編集部

いろいろな顔を持つ女性たちへ。人の多面性を大切にするウェブメディア「DRESS」公式アカウントです。インタビューや対談を配信。

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