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タバコ部屋で決まる人事、授乳室で回る仕事?

タバコ部屋で決まる人事、授乳室で回る仕事?

私は8年間新聞記者をしていて、常に取材を申し込む側だったのですが、本を出したことをきっかけに、取材される側も経験するようになりました。そうなって改めて感じたのは、「誰が取材するか」は決定的に重要だということです。同じ新聞・雑誌の記者なら誰でも同じというわけではなく、どんなバックグラウンドを持って、どんな問題意識で取材を申し込んでいるのかによって、話す内容は全く変わってくるものだと思います。

取材に限らず、あらゆる仕事の依頼でも同じかもしれません。いま、私は会社員としては育休中なのですが、個人で原稿執筆や講演依頼のお仕事をいただくことがあります。育休中は、子どもたちとの時間を大事にしたく、基本的にはお断りしようと考えていました。

ところが、ついつい「いや、やろう!」という気になってしまうご依頼の多いこと。1つは今を逃したらその仕事が二度と来ないかもしれないからですが、もう1つの理由は、多くのご依頼いただくメールから、ほとばしる情熱を感じるからです。

拙著『「育休世代」のジレンマ』を読んでくださった感想、ご自身の抱えている葛藤、それを解決しようとする問題意識。お仕事をご一緒させていただいた後に「実は妊娠しています」という女性、やむを得ず休日に電話したところ後ろで赤ちゃんの泣き声が聞こえていて「自分も新米パパでして」という男性――。皆、自分たちの抱えている悩みがあるから、私にアクセスをしてきてくれているのだなと思うと、断れません。

こちらも最大限ワガママを言ってみて、「子どもとの時間」を犠牲にしない形で仕事を受けられないかを模索させてもらっています。上の子が保育園に行っている時間にしてほしい、下の子を連れていってもいいか、自宅近くまで打ち合わせに来ていただけないか、電話とメールのやりとりだけでなんとかなるか……。

その中で、私は今、結構多くの打ち合わせで下の子を同伴させており、必要であればその場で授乳しています。授乳ケープなる便利なものがあるので人から見えないようにできますし、胸は露出しなくても何とかなります。

でも、理解ある男性には大変申し訳ないのですが、やはりオジサマ方との打ち合わせで「ちょっと失礼します」と目の前で授乳を始めるのにはちょっと抵抗があります。向こうもぎょっとするだろうなと思うので、打ち合わせの相手が男性の場合は粉ミルクも用意していく、時間帯や場所を選ぶなど、結構気を使います。

なので、まだ下の子を保育園に入れることができていない今の私の場合、仕事相手が女性であるほうがアポを入れられる時間帯はぐっと広がり 、仕事は早く回っていきます。

一般的なビジネスの世界ではまだまだ男性中心で、私が新聞記者時代に取材に行くと「女性記者さんですか」と驚かれました。取材先が女性ということもかなり珍しかったのですが、今私が仕事をする相手は8~9割が女性です。

彼女たちだからこそ私にアクセスしてくれ、彼女たちだからこそ私も受けることができる。まぁ私なんぞがやりとりしている金額は大した額ではありませんが、そのようにして仕事が動いて経済が回っているのであれば、こういうものこそ「ダイバーシティ」の効果の1つと言えるのではないでしょうか。

タバコ部屋でのコミュニケーションが大事、キャバクラで決まる契約がある……ビジネス“マン”の世界にはまだまだそういうこともあるかもしれません。でも、だったら授乳室やパウダールームで回りだす仕事もあっていいじゃないかと。

男女に限りませんが、様々な経験、様々な属性を持っている人が有機的につながることで生み出されるものは確実にある、と実感する今日この頃です。

中野 円佳

女性活用ジャーナリスト/研究者。『「育休世代」のジレンマ』(光文社新書)著者。東京大学教育学部卒業後、日本経済新聞社入社。金融機関を中心とする大企業の財務や経営、厚生労働政策などを担当。14年、育休中に立命館大学大学院先端総...

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