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人生のシナリオは、自分で好きなように描ける。紫原 明子さんの女を磨く離婚道 #2

自分の人生のシナリオは、自分で好きなように描ける。「離婚は努力が足りない」という世間一般に平然と居座る考え方に屈しないという、紫原 明子さんの「離婚」に関する考え方をみていく。

人生のシナリオは、自分で好きなように描ける。紫原 明子さんの女を磨く離婚道 #2

■「離婚」に運んでくれるレールはない

身を置く環境を変えるって大変なことだ。

世の中にはいろんな人がいて、積極的な人もいれば、臆病な人もいる。それにも関わらず、たとえば進学とか就職とか、大半の人が、それなりに順当に環境の変化をこなしていけるのは、この歳になったらみんなこうするものっていう、何となくのレールが、あらかじめご丁寧に用意されているからだ。

ちょっと前まで「結婚適齢期」なんて言葉が当たり前に使われていたように、たとえ成人したとしても、今度はこれくらいの歳で結婚したほうがいいですよ、とレールは引き続き延びていた。最近でこそ、この言葉自体は死語になりつつあるけれど、代わりに台頭してきたのが「アラサー・未婚」。たった二つのキーワードで、多くの女性の焦燥感を自動的に駆り立てることができるわけで、レールそのものは何だかんだでしぶとく生き残っているのだ。

ところが、こと離婚となるとそうじゃない。みんなやっているし、うちもそろそろ……なんてわけにいかない。本当ならない方が良いものなわけで、結婚後、スムーズに離婚に運んでくれるレールなんてはじめから存在しないのだ。外からの後押しが何一つない中、自分でことを起こさなきゃいけない離婚は、当事者となる多くの人にとって、ただ座っていれば前に進めていってくれた電車から、意を決して飛び降りるに等しい行為なのだ。

■世の中は止めどなく努力を強いる

そんな大変な思いをしてまでなんで離婚するのかって言えば、当然ながら、そうするしかない、と思うほど結婚生活が辛くて仕方がないからだ。
いくら望んで結婚したって、時間が経てば人も状況も変わる。ダメになるときだってある。

社会には、全てのことは努力でどうにかなる、どうにかするべき、と考えているマゾ気質な人が少なくないので、離婚すると、夫婦関係の維持に努力が足りなかった残念な人、と思われたりもする。実を言うと私自身も、比較的恵まれた家庭環境で何不自由なく育ったので、夫婦の不仲とか、離婚とか、普通に生きていれば、自分の身に決して降りかからない、遠い世界の話のように思っていたのだ。ところが、そうじゃなかった。
普通に生きていても、どんなに努力しても、歯車がまるでかみ合わなくなるときがある。夫婦でい続ける限り、お互いが幸せになれないことだってあるのだ。

休日、幸せそうな家族で賑わうショッピングモールに行くと、世の中の、これだけ多くの人がこともなくこなせていることが、どうして自分にはできなかったんだろう、とたまにふと落ち込んでしまいそうになる。いくら離婚が自分にとって間違いなく必要な選択であったとしても、何だか自分が、努力の足りなかったダメ人間のように思えて、ううう、と胸にくるものがある。
そんなときはとりあえず一呼吸して、今、自分が手にしているものを改めて見つめ直すのだ。

■人生のシナリオは、自分で好きなように描ける

結婚して、誰かと家族を作って、何を欠くことなく穏やかに添い遂げる。
規定のレールからははみ出してしまったけれど、だからこそ好きなように生きる自由を手に入れたのだ。もう、誰かの心を繋ぎとめるための、不毛な駆け引きに消耗されなくていい。好きなことをして、好きな部屋に住んでいい。気が向けばまた恋愛したっていい。自分の人生のシナリオを、自分で好きなように描いていいのだ。

そもそも生身の人間が、リアルに動いている電車から飛び降りたら、下手したら死ぬし、幸い生きて着地できたとしても、今度はどのくらい離れているのか検討もつかない最寄り駅まで、てくてく歩かなきゃならない。大変だ。サバイバルだ。実際そんな風に満身創痍で離婚して、今、この生活を望んで手に入れたのだ。あの勇気を、努力を、誰が認めてくれなくても、せめて自分だけは忘れずにいてやろう。

あらかじめ敷かれたレールに無自覚に乗っかって、幸いにも脱線せずにいられた人が、自分の幸運を棚上げして他人に強いる「努力」なんて誰も幸せにしない。むしろ、遅まきにようやくそれを学ぶことのできた私が今、努力が報われないと嘆く人に「そんなこともあるよ、休憩しよう」と言ってあげられるようになったことにこそ、きっと大きな意味があるのだ。

紫原 明子

エッセイスト。1982年福岡県生。二児を育てるシングルマザー。個人ブログ『手の中で膨らむ』が話題となり執筆活動を本格化。『家族無計画』『りこんのこども』(cakes)、『世界は一人の女を受け止められる』(SOLO)など連載多...

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